【 饅頭 】
◇+1WS7Y0g0




522 名前:饅頭 :2006/04/30(日) 23:36:02.47 ID:+1WS7Y0g0
 くちゃり、くちゃり、くちゃり。
彼に聞いたことがある、ハンバーガーには依存性があるらしいと。
その時、私は質問した。
なら、饅頭には?
彼は首をかしげて、訝しげに口を開いた。
ありそうだよね。饅頭にもさ。
そうだね、ありそうだよね。
私は満足して、缶ビールのプルトップを開けてから、饅頭を頬張った。
幸せだったな、あの頃はさ。
眼前で倒れている彼に向かって、私はそう呟いた。
饅頭を頬張りながら。

 コートの内ポケットに手を突っ込んで、次の饅頭を探した。
手にやわらかい質感がぶつかる。
引き抜いてみる。月明かりに照らされたそれは、ただの苺大福だった。
舌打ちをして袋を剥ぎ取り、むき出しになった苺大福に食らい付く。
弱弱しい酸味が口の中に広がり、皮の甘さを引き立てた。
舌の上で苺の種が転がっているのが分かる。
二口で食べつくし、更に内ポケットをあさった。
だけどもうタバコのソフトパッケージがかさかさと音を立てるだけで、あの赤ん坊のようなやわらかい感触はどこにも無かった。
今は饅頭が食べたいのよ、苺大福もタバコもいらないからさ。
心の奥深くで強く願う。
お願いよ、今だけで良いから。
彼の血液が、私のスニーカーの淵をなぞった。
暗さの中でのその赤さは彼の死をまざまざと表現していた。
月が雲に紛れ、廃屋の中が暗闇に包まれる。
黒に慣れた私の目が、ありえない姿勢で床に倒れている彼を捉えた。
その瞬間、私は叫び、崩れ落ち、そして泣いた。
コートの内ポケットで、かさかさとタバコのビニールの音がした。



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