【 無題 】
◇SuvFKPxq0




484 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/04/30(日) 21:37:34.03 ID:SuvFKPxq0

 ゆっくりと、ゆっくりと空が白く薄まっていく。
 この景色を見るために生きている。不況の波に煽られ、失職して、妻に離婚されて以来、毎日、
この灯台へやって来ている。
 空も海も、群青色の闇として混ざり合っていた中に、わずか一点、光が生じる。
光は少しずつ水平線を白く浮かび上がらせ、羽ばたく時を待つ渡り鳥が翼を広げるように、
空と海とを切り裂いて、一日が――秩序ある時間が――始まることを告げる。
 そこから、この世界に生命を与えてくれる源たる太陽が姿を現す。輝く水平線の輪の上で、
世界で最も尊い宝石が、生きとし生けるもの全てを祝福している。
 これこそ神が人間に与えた祝福の指輪、最古のプロミス・リングだ。
 夜の間、じっとこの時を待ち望み、疲れきった身体に、偉大な力を吹き込んでくれる。
 それは何度でも歴史上起こってきたことなのだ。厳しく辛い冬の次には春が、暗闇の夜の次には朝が。
 もう一度、いや、何度でも人生をやり直せる、そう確信させるだけの信仰にも似た思い。
 やがて、ゆっくりと朝の清冽な空気がぬるみ出し、太陽が真上に昇ったころに、私は家路に着いた。
 家に帰る道々、人の視線から隠れながら帰ったら、体中に綿が詰まったように、疲労した。
「今日も寝るか……」
 目覚まし時計を午前三時にセットして、満足のうちに寝た。
 しばらく仕事は見つかりそうにない。



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