【 THE TRAIN MAN 】
◆UAzoBA/IQU




477 名前:THE TRAIN MAN(1/1)  ◆UAzoBA/IQU 投稿日:2007/05/20(日) 23:09:23.85 ID:IAivVn2n0
 電車が俺の周りを取り囲んでいる。
真っ暗な世界に、電車のライトだけが怪しく光る。まるで二つの光る目玉に包囲されているような感覚だった。
電車と電車の間から逃げようとしても、遠くからまた別の二つの眼がガタンゴトンとやってきて、隙間を塞いでしまう。
 そうこうしているうちに、すっかり右も左も後ろも前も、もはや完全に俺は電車、目、いや電車によって完全に埋め尽くされた。
 俺はそいつらに一斉に轢かれた。
 という夢を見た。

 なんておかしな夢だ。疲れてるのだろうか。仕事に追われて最近ろくに眠れていない。
体が鉛のように重く、なかなか布団から這い出ることが出来ない。なんか臭い。
 部屋を見渡すと、床一面になにか黒っぽい金属が敷かれていた。間違いない、これは線路だ。
よく見ると、それは床だけでなく壁や天井にも張り巡らされている。こんなもの、昨日までの俺の部屋にはなかった。
まだ夢の続きを見ているのかと思い、頬をつねってみようとするが、顔の皮膚が妙に突っ張っているらしく掴むことができない。
 腕を伸ばして手鏡を手に取り、今の自分の姿を確認しようとした俺は、思わず叫んだ。
持っていた手鏡も恐怖のあまり勢い余って思いっきり投げ飛ばしてしまい、壁に当たって割れた。
 顔が電車になっていたのだ。
「ああ、うあ、ああああ、ああああああああああああ!」
 その時、どこからともなく声が聞こえてきた。
――黄色い線の内側までお下がりください
 磁石の同じ極が反発しあうかのように、レールから部屋に散乱していた家具や荷物が一斉に離れた。
なおも俺の絶叫は続くが、またしてもこだまする声によって、口がピタッと閉じられ、それ以降開けることはできなくなった。
――ドアが閉まります
 自らの意思とは関係なく、俺はレールに沿って部屋を出て、玄関を飛び出し、道へ出ていった。
 アパートの外には、俺以外にも電車男や電車女はいた。皆、俺と同じく顔が電車になって、レールの上に沿って猛スピードで駆け回っている。
 しばらく進んでいくと、俺の片思いの電車女を見かけた。俺は有無を言わさず彼女の後ろから無理矢理連結した。その場でテープカットが行われ、開通式と相成った。
 数年して子供が生まれると、この狭い日本をあくせくと走り回る鉄道網に飽き飽きし、我が子にももっと広い視野を持ってもらいたいとの願いから、俺たちは船男に乗ってアメリカに渡った。
 あばよニッポン。大陸横断鉄道……旅はまだはじまったばかりだ。
 という夢を見た。                                                      
                                              (了)



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