【 石像郡 】
◆dT4VPNA4o6




82 名前:No.20 石像郡 1/2 ◇dT4VPNA4o6 投稿日:07/05/14 00:04:54 ID:qTiV+8y3
自分によく似た石像が見つかる場所がある。という話をオカルト好きな友人から聞いたときまず思ったことは、地蔵ではなかったか? という事
だった。まあ、それはどうでもいい。車で飛ばせばそんなに遠くないと友人が言うので、次の日休みということもあって、
男二人連れ立ってその場所に向かうことにした。
 確かに、地図上はそう離れていなかった。だが、都市圏から離れ、高速から離れ、国道から離れてもまだ付かない。出かけた時間が
昼過ぎだったこともあり、日も翳り始めいい加減私は苛立ちを隠さなくなってきた時になってやっと目的地に到着した。
 聞いた話だけで観光スポットと思い込んだ私にも非があるのかもしれない。しかしそこは幾らなんでも友人を誘ってやってくる
場所にしては余りに寂れていた。その事を私がなじると友人は気にするなと素っ気無かった。
 車を降りて少し歩くと開けた場所に出た。そこに確かに石像はあった。
 なんと言えばいいのだろう、その時に感じたことを。その場所に着いたとき私は私や、友人に似た石像を見つけても間違いなく笑い飛ばすに違いないと
思っていた。だが、そこの石像たちの殆どが恐れ、驚き、怒りの表情だった。中には呆けた顔や、笑い顔もあったが。
 何が悲しくて男二人で、しかもよりによって逢魔ヶ時にオカルトスポットなどに来なくてはならんのか。さすがに嫌気が指した私は早々に
帰路に着くよう友人を促そうとしたが、ちかくには見当たらなかったので仕方なくあたりを探す羽目になった。
 その時になって気づいたのだが、ココには外灯がなかった。と言うより誰かが管理している様子も無い、いったいどういう事か。いい年して
この程度にビクつく事になるとは。私は必死になって石像の間を友人を探して歩き回った。
 どれ程歩いただろうか、やっと友人を見つけた。彼はこちらに背を向けて座り込んでいる。声をかけたが返事が無いのに腹を立てた私は、荒っぽく
友人の頭を小突き――盛大に手を腫らす羽目になった。
 それは石像だった。それにしても夕暮れとはいえ石像と人間を間違えるとは私は疲れているのか。そう思いその石像の正面に向かい私はぎょっとした。
 その石像は友人だった。正確には友人の石像だった。しかし酷い表情である。驚きと恐怖に眼を見開き助けを求めるような表情……。コレを見て
はじめて思ったがこの石像を作った人間は何を考えているのか、きっと精神を病んでるに違いない。
 そんな思いに囚われていると、突然後ろから声をかけられた。唐突な声に慌てて振り向くと友人が居た。
 私がさっさと帰ろうと言うのを制して彼は、自らの石像について、どうだ、と私に感想を聞いてきた。さっさと帰りたい私が気味が悪い石像だと素直に
伝えると何故か満足そうに頷いた。そして、私に見せたいものが見つかったと言って石像郡の奥に案内した。
 
 私が居た。
 正確には私の石像だ。だが、その石像を作ってもらった覚えなど無い。気味が悪いほどよく似ているのは先ほどの石像と同じだ。幸か不幸かこの石像は
真顔だったが。
 突然友人が奇妙なことを言った、この石像たちは表情が変わると。困惑する私に彼は続ける。本人と石像が会うといい表情になる、目を合わせればいいだけだ
お前もやってみろ。
 事ここに至って募っていた苛立ちと気味の悪さから来るストレスが限界に達した私は、彼を振り払って怒鳴り散らそうとした。だが、私の肩に置かれた
彼の手はそれこそ石像のごとく――いや、それは正しく石像の手だった。とっさに動けなかった私は肩越しに視線だけで彼を見る。

83 名前:No.20 石像郡 2/2 ◇dT4VPNA4o6 投稿日:07/05/14 00:05:35 ID:qTiV+8y3
貼り付けたような表情で友人が立っている。いや、本当に彼なのか、ニヤついた顔は崩れることなく、瞬き一つせず、息一つせず――
 今度こそ私はあらん限りの力で以ってソレを振り払い一目散に駆け出した。だが数歩も行かないうちに何かにつんのめり顔面からこけた。忌々しく
原因を探ると私に足を引っ掛けんとばかりに石像が足を突き出していた。
 立ち直り前を見て私は絶句した。行く手を阻むがごとく石像が寄り集まっている。精巧なだけにひたすらに恐ろしい。恐怖に駆られた私は激突するのを
覚悟で無茶苦茶に走り回り逃げ出した。
 やっとの思いで車まで着いたものの、車は友人――であった何か――のものだ。私はキーを持っていない。
 その時逡巡する私の耳に足音が聞こえた。引きずる様な思い足音である。それが何であるか確認する勇気は私には無かった。後はよく覚えていない。半狂乱に
なりながら何とか国道まで出たのは私にまだいくらかの運があったからか。タクシーを拾った私は家に戻るとひたすら朝日が昇るのを待った。
 
 翌日、あんな事があったとは言え友人を放り出したのはさすがにまずいと思ったので、再びタクシーを拾って昨日の場所まで行ってみた。
 直ぐ後悔する羽目になった、車は滅茶苦茶に破壊されていた。しかも周辺には大きな石が転がっている、おそらくはコレで破壊したのだろう。昨日の事もあり
本人の携帯に電話をするのを躊躇っていたが、さすがにかけて見ることにした。結果は徒労に終わったが。
 頭を冷やそうと自宅に戻った私は今度こそ絶望と言うものを思い知った。自宅のマンションの一室は先ほど見た車と同じように徹底的に破壊されていた、そして
室内には見せ付けるように大きな石が転がっている。
 一際大きな石を何気なく見つけて私は息を飲んだ。それは昨日見た友人の石像の頭部だった、絶望に顔を歪めたあの……。
 突然玄関が激しくノックされた。恐怖よりも先に確認しに言った私が誰かに会うことは無かった。玄関には唯石が落ちているだけだ。
 その後、夜な夜なノックは続いた。
 
 この文章を見ている方へ。これはあるいは遺書に近い。私はこれからあの石像郡に行ってみるつもりだ、おそらく帰ることは無いだろう。
 警告しておく。あの場所へ言ってはいけない。あえて場所は記さないし、もし知っていても決して近寄らないことだ。私のようになりたくなければ。

「って話よ。どーよ?」
「別に……その場所どっか解らないんだろ?」
「へっへ、ところがオレ知ってんだよね。こんなの調べりゃ大体わかるしな」
「え、マジかよ。近いのか」
「まあな。ま、怖いなら別に無理にいかんでも……」
「バカ、誰がんなこと。話しの種にはなるだろいって見るか」
「お、そう来なくっちゃな。じゃあ、早速」
「ところでお前よ、口どうかしたのか? 何かさっきから表情あんまり変わらんぞ?」
「そうか……? へへっ気をつけるよ。」



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