70 名前:No.17 座石禅 1/3 ◇/7C0zzoEsE 投稿日:07/05/13 23:47:18 ID:jEMWqZX3
あるところに男がいた。
その男には竹馬の友がいる。
気が置けない、何を頼むにも遠慮をしない。
その友人の為になら、何でもし合えるといった中であった。
男は友人に言った。
「これから、徳を積むので見守っていてはくれないか」
と。
二人は山高くひどく冷える場所に赴き、
男は自分の体ほどもある石に胡坐をかいた。
友人はその横で、正座をして男を見守っている。
友人は尋ねた。
「寒くはないだろうか」
男は答えた。
「古来から聞くが、三年も座れば暖をとれるだろう」
と。
それから、ひどく冷える日がずっと続いた。
東からお天道様が昇り、友人の頭を越えて、西に沈んでいく。
男は目を瞑り精神を統一させ、
友人は申し訳無さそうに顔を覗き込むと安否を確認する。
71 名前:No.17 座石禅 2/3 ◇/7C0zzoEsE 投稿日:07/05/13 23:48:36 ID:jEMWqZX3
雪も降った。
友人は立ち上がり男に覆い被さり、盾となる。
顔に雪の結晶がつくと、手で拭う。
しかし、友人は自分の手もひどく冷えているのに気付き、失望した。
彼は少しうろたえたが、自分の服を男に羽織らせることで
満足し、満面の笑みを浮かべて、眠りに着いた。
またある朝、とても体が震える。
飢え凍えているのかと思った。何日経ったか分からないが、
全く何も口にしていないのだ。
しかし、周りに食べ物らしいものは何も無い。
ろくに体も動かないので、これは寒さだと誤魔化すことにした。
友人は、自分の腕をつねり、えぐり、肉片を取り出した。
それを男の口元へ運ぶ。しかし男は口にしようとしなかった。
彼はひどく冷たかった。
何回お天道様が通りすぎたことだろうか。
周りの温度に違和感を覚えなかった。
男が周りに溶け込んでいるのに気がつき、ひどく絶望した。
しかし、彼の座っている石からは熱気が漂ってくる。
何日経ったからだろうか、確かに石から暖かさが窺えるのだ。
友人は安堵した。安堵したが、それを越えて失望した。
「君は、こんなに暖かい思いをしているのか。僕はこんなに疲れたのに」
彼は両手を広げて横になった。不貞寝した。
72 名前:No.17 座石禅 3/3 ◇/7C0zzoEsE 投稿日:07/05/13 23:49:05 ID:jEMWqZX3
男の面倒を見なくなって、何日が経ったか。
彼はうな垂れて、変わらず胡坐をかいている。
友人は獣の唸り声で目が覚めた。
見れば虎が、男ににじり寄っているではないか。
友人が静止しようとする。しかし、友人の体は全く思うように動かない。
虎が男の喉笛に噛み付いている。
友人は、自分の不甲斐なさに涙を流した。
虎は男を貪ると、次に友人に向かって歩く。
虎の目からは何故か、愛おしさと懐かしさが浮かぶ。
友人はこの虎が、ひょっとすれば男なのではないかと思った。
何故だかは分からないが、どうしてもそう思った。
この虎は神の使いなのでは無いだろうか。
「徳を積めたのだね」
そう心で思うと。
友人は達成感に溢れて、その身を虎に差し出した。
虎は優しく喉笛に噛み付いた。
虎は綺麗な二つの死体を見つけて、
それを食べ終えると妙に眠たくなった。
石の上に座っていた死体の残りを退けて、
その場所に上がって、座る。
とても暖かく、寝心地が良かった。