【 海行こうぜ! 】
◆VXDElOORQI




78 :No.18 海行こうぜ! 1/4 ◇VXDElOORQI:07/05/06 23:59:19 ID:vXs62cuE
 太陽から放射される熱光線はアスファルトの大地をジリジリと焼き、そのアスファルトに立ってい
る人間に上下から暑さの挟み撃ちを仕掛けてくる。
「あーつーいー」
「……ねー」
 その挟撃に耐える二人の少女。少女達は暑さにうなだれ、肩を落としのそりのそりと歩いていた。
「だー! 暑い。こう暑いともう宿題する気なんか宇宙の彼方まで飛んで行っちゃうよ」
 ヘソ出しキャミソールにミニスカートを穿いたユミは少し茶色がかったショートヘアをガリガリと
掻きむしり、空を仰ぐとすぅと大きく息を吸い込んだ。
「燃え尽きろ!」
 ユミは空に向かって大声でそう叫んだ。
「ミーちゃん、そんなこと言ったってどうせ宿題は私の写すんでしょー。それなのに太陽に文句言っ
たら太陽がかわいそうだよ」
 肩くらいまで伸びたセミロングの髪を後頭部で結びポニーテールのようにしているカナは、Tシャ
ツの襟をパタパタと動かし服の中に風を送る。
「とは言っても……。この暑さじゃ文句の一つも言いたくなるよねー。プールにでも行きたいよー」
 空に叫んだユミの隣で、カナも同じように空を見上げる。
「プール。いいなプール。行きたいな。プール……。よし。カナちゃん! 行こうぜ! 海!」
 ユミは空からカナに視線を移すと、大きな声でそう言った。
「え?」

 光を反射する水面、白い砂浜、打ち寄せる波。この場所では太陽から降り注ぐ暑さも批判の対象か
らは除外される。そんな場所。海。
「ひゃーうっみだー!」
 ユミは眼前に広がる海目指して一目散に白い砂浜を駆けていく。
「あ、ミーちゃんちょっと待ってよー!」
 カナはさっさと走っていったしまったユミを追いかける。
「あ! そのまま海入っちゃダメー! 着替えてからでしょー!」
 カナの叫びも虚しく、ユミはすでに海に向かってダイブを敢行していた。

79 :No.18 海行こうぜ! 2/4 ◇VXDElOORQI:07/05/06 23:59:37 ID:vXs62cuE

「ひゃーうっみだー!」
 先ほど同じ歓声をあげ、更衣室から飛び出していくセパレートの水着を着たユミ。
「もう、ミーちゃんったらちょっと……ってなにしてんの」
 スクール水着を着たカナも先ほど同じような台詞を言おうとして、途中で台詞を変更する。ユミは
砂浜を上でサンダルを手に持って足を押さえピョンピョンと飛び跳ねていた。
「す、砂が熱くて歩けないよー。助けてーカナちゃーん」
「サンダル履けよ」

「あそこまで競争だ!」
 ユミはビシッと沖にプカプカと浮かぶブイを指差す。
「えー、無理だよー。あんな沖まで泳げないよー」
「大丈夫! 私にはこの浮き輪がある!」
 ユミはばっと浮き輪を頭の上に持ち上げる。
「私浮き輪持って来てないもん。うちにあったはずなのに見つからなかったんだよね。あれ? そう
いえばミーちゃん浮き輪持ってたっけ?」
「ううん。持ってないよ。でもカナちゃんの家にあったから持ってきた」
「返せ」

「ビーチバレーしようぜ!」
「ビーチボールは?」
「あれ? カナちゃん持ってきてないの?」
 カナはふるふると首を横に振る。
「そっかー。じゃ、ちょっと待ってて」
 そう言うとユミはどこかへと走り去って行ってしまった。
 しばらくするとなにかを抱えたユミが帰って来た。
「スイカ柄のビーチボール売店に売ってた」
 怪訝な目でじっとビーチボールを見つめたカナは、手のひらで軽くビーチボール一回叩いた。
 ポンと響くような音がビーチボールから返ってくる。

80 :No.18 海行こうぜ! 3/4 ◇VXDElOORQI:07/05/06 23:59:59 ID:vXs62cuE
「これスイカそのものじゃん」
「…………」
「…………」
「スイカ割りしようぜ!」

「私ちょっと疲れたから休んでるねー」
 海からあがりそうユミに告げるとカナはパラソルのもとへと向かう。
「えー、もっと遊ぼうよー。年寄りじゃないんだからー」
「ちょっと休みだけだから、待っててよー」
「もうカナちゃんのバカっ!」
 カナに向かってあっかんべーをするとユミは岩場のほうに泳いでいってしまった。
 まったくもう、といった様子でそれを見送るとカナはパラソルの下で横になった。

「……んー? あれー? もう夕方?」
 うっかり寝てしまったカナが見たのは、すっかり茜色に染まった空と海だった。
「ミーちゃんなんで起してくれなかったんだろ。ってあれ? ミーちゃん?」
 辺りにはすっかり人の気配はなくなり、砂浜にはカナ一人きりだった。
 キョロキョロと辺りを見渡して見てもユミの姿は見えない。
 まさか! そんな嫌な想像がカナの頭に過る。
 カナは慌てて立ち上がる。すると座ったままの状態では見えなかったところに誰かが横たわってい
るのが見えた。
「ミーちゃん!」
 それは間違いなくユミだった。
 急いで近づき体を揺する。
「ミーちゃん! ミーちゃん!」
 反応はない。
「えっと、えっとこんなときはどうすればいいんだっけ……。あ! 人口呼吸!」
 カナは急いでユミを仰向けに寝かせると、ユミの唇にそっと自分の唇を近づけていく。
 もうすぐ触れ合う。といった瞬間にピタリとカナの動きが止まる。

81 :No.18 海行こうぜ! 4/4 ◇VXDElOORQI:07/05/07 00:00:15 ID:TJIb7S+n
(こ、これってファーストキスになっちゃうのかな……。で、でもこれはミーちゃん助けるためなん
だからノーカウントだよね)
 そうやって自分で自分を納得させると触れ合う直前で止まっていた唇がそっとユミの唇を塞ぐ。
 カナが息を吹き込もうとした瞬間、にゅっとカナの口の中になにかが入ってきた。
 ユミの舌だ。
 すぐにその場から飛び退るカナ。
「初めてのキスは塩味か。でもカナちゃんとなら……ポッ」
 むくっと起き上がったユミはそう言うと両手を顔にあて頬を赤く染める。
「ずっと起きてたの? ミーちゃん」
「うん」
「それでわざと私にキスさせたの?」
「うん。だってカナちゃん私ほっといて寝てるんだもん」
「…………」
「…………」
「妊娠したら責任取ってね」
 その言葉を発した瞬間、ユミは海へズバシャアア! とすごい勢いで突っ込んでいった。
 砂浜には全力のドロップキックを放ったカナだけ立っていた。

おしまい



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