【 その星の名は 】
◆dT4VPNA4o6




49 :No.11 その星の名は 1/2 ◇dT4VPNA4o6:07/05/06 22:59:03 ID:vXs62cuE
 月や液体の無い惑星にも海が存在する。と、言ってもだだっ広い平原を便宜上そう呼ぶだけだが。
 
 私、グレン・モールとその一団が外惑星探査に出て船内時間で二年が過ぎようとしていた時、
興味深い星系を発見した。
 我々の星系によく似ていた。中心の恒星も若干くたびれつつある物の、まだまだ強い光を放っている。
我々は自らの星系に照らし合せ、まずは第四惑星に不時着した。
 船外探査機を操作し軽く調査を行ったが、見るべきものはなかった。移住可能な惑星を発見するのが今回の
航行の任務の一つであるのだが、この程度の惑星なら他の星系にも少なからず存在した。まあ、氷を発見できたのが
唯一の発見か。
 もっとも落胆するほどでもない、この位が普通であるのだから。そう簡単に酸素と窒素の大気に覆われた惑星など
見つかっていては我々宇宙航海士は全員失業してしまう。
 この星系の第五惑星以降は明らかに恒星から離れすぎていて、調査の対象ではない。第五惑星は中々大きなガス惑星なので
資源調達には向いているようだったが。
 次の星系に向かうかの議論をしていたとき、同僚の一人が第三惑星を調査してはどうかと提案した。既にある程度
調査をしていたらしく、データを我々に見せた。
 衛星一つ、地表面気温摂氏約零〜八十度、大気は殆どなく非常に薄い窒素が表面を覆っている、非常に強い放射線に汚染されている。
 放射線が非常に気になるものの窒素に覆われた惑星はこの航海始まって以来初めてと言うこともあり、我々は調査を行うことを
決定した。
 しかしいざ行動を起こそうと向かってみると、非常に変わった惑星であることが大気圏外からでも見て取れた。
 普通岩石惑星なら海が殆どを占め、隕石跡のクレーターが存在するだけなのだがこの惑星は非常に山が多い。最早山脈
とも言うべき連なりが存在する地表から数万メートルに及ぶ山の連なりなど私の記憶にはなかった。まだまだ宇宙は広い。
 更に、プレート活動を確認した、非常に有用なデータである。地震のおそれがあるものの、地熱は移住したときに大いに役に立つ。
 調査が進むにつれて、液体が存在したことが確認できた。極冠に氷を発見したのはそのすぐ後だった。あるいは本当に海が
有ったのかもしれない。
 私は船内でただひたすら船外探査機が送ってくるデータに満足できず、自ら降り立つ決心をした。
 助手一人を引き連れ、私は便宜上北と言う事にしてある、ある『海』に降り立った。荒涼とした景色だ。
 もっとも、調査など探査機が殆ど行っている。私がこうして出てきてるのは、まあ、責任者の職権乱用であるがコレくらいは
許されるだろう。
 大気が薄いため恒星が非常にまぶしい。酸素が薄いことを外しても、生身で降り立つのは不可能だろう。そもそも放射線の
濃度が即死レベルだ。仮に移住するとなったら、思ったより大規模なテラフォーミングが居るかもしれない。

50 :No.11 その星の名は 2/2 ◇dT4VPNA4o6:07/05/06 22:59:26 ID:vXs62cuE
何度目かの降下のとき、私は気になるものを発見した。穴だ。唯の穴ではない。明らかに掘った物であり、しかも
補強の後が見られる。私は一度母船に戻り経緯を伝えた後、その穴にもぐった、今度は助手が二人だ。
 数キロも進んだ――と言うより降りたと言ったほうが正しい――だろうか、やや広い場所に出た。

 今まで考えたことが無かった言えばうそになる。だが、自分自身が未知の惑星で文明の後を発見することになるとは。我々は
目の前の光景に眼を奪われた。非常に原始的であるものの何かの装置がそこに鎮座していた。もっとも、いかなる動力で動くか
見当も付かなかったが。
 周辺を調べると何か模様の刻まれた物体を発見した。地下に有ったこともあってか風化を免れたらしい。文字ではないかとの
助手の指摘を受け止め、私は母船に戻って解析をすることにした。
 解析に手間はかからなかった。我々の言語に非常に近かったのは奇跡としか言いようが無い。そしてその内容は、


『核戦争が勃発してもう二十年になる、この星に人間はもう殆ど居ない。私の様な奇特な研究者のほかは、狂人か、聖者の
どちらかだ。まあ、私も狂人の一人かもしれない。
 核の炎は一瞬でこの星を焼き尽くした。惑星移住が始まっていたのは不幸中の幸いか。この星の人間が動物が植物が完全に滅亡することは
避けられそうだ。もっとも、この星はもう保たないだろう。地上の植物は根こそぎ消えうせた、気候のすさまじい変化で海も
残すところあと僅か。かつて最深度海溝の底に作られたこの水中シェルターの直上に僅かに残るのみ。
 この、遺書とも何とも言えない文章を発見した誰かへ。あるいは調べれば分かることかもしれないが、この星は大いなる
水をたたえた母なる惑星であった。願わくばこの星に再び水を、海の惑星の復活を望む。
                        西暦 二二〇七年 海洋研究者 グレン・モールが記す』


 我々が別の惑星からの移住者であることはもちろん知っていたが、これはこれは……。
 私はすぐさま母星にデータを送った。毎度添付することになっている意見書にはこう記して置いた。
『海の多い惑星である。かつては海があったようだ。先祖が海を欲している。直ぐ行動に移されたし』
 
 自分でも意味不明な文章だ。まあ、詳細なデータを見れば理解するだろう。返信が来るのは船内時間で三ヵ月後だ、勿論
この場で待つ気は無い。
 かくして我々は第三惑星を後にした。我々が行くのは宇宙と言う名の大海である。



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