【 コスペラード 】
◆D8MoDpzBRE




68 :No.16 コスペラード』 1/6 ◇D8MoDpzBRE:07/04/29 23:42:26 ID:U7EwskU3
「お待たせ」
 背後から声を掛けられた。
 夏の池袋駅東口。暑さに精神が折れかけていた。
「誰?」
 振り向くと、ピンク色のキャミソールに身を包んだ女が立っていた。小道具を含め、いわゆるギャルっぽいファッ
ション。高校生くらいだろうか。髪に取り付けられた花飾りが、私はアホですという自己主張に思われて仕方がな
かった。
「昨日約束したばっかじゃん、大丈夫〜?」
「ごめんごめん、エミちゃんだね。昨日はお店の制服着てたからさ、ちょっとイメージが違ったというか」
 エミという女に対して適当に釈明しつつ、俺は己の誤算を悔やんだ。
 はっきり言おう。俺は、制服フェチだ。制服なら、どんなものでも良かった。
 女を選ぶ基準は、顔でも体でも、ましてや性格でもない。制服、英語で言えばコスチュームだ。制服をいかにス
タイリッシュかつ可憐に着こなすか。それこそが命題であり、全てだ。
「普通間違えなく無い? まあいいや。っていうか、サトシさん高校生だったの?」
「いや、違うけど。何故?」
「だって、高校の制服着てるし」
 しまった、これも誤算だ。てっきりエミも高校の制服で来るだろうという、勝手な先入観のせいだ。でなければ、
二十二歳にもなって高校の制服を着ようなどとは思わない。高校生カップルを演出しようと画策した俺の意図は、
ここで早くも崩された格好だ。
「いや、俺も制服じゃないと、不自然になるかなと思って」
「意味分かんないよ。こっちの方が余程不自然じゃん」
 オーケー。ツカミは最悪だ。
 俺が促すように歩き出すと、エミはやや距離を置いてついてきた。不審に眉を歪め、今にも逃げ出したそうな
表情で。
 エミは昨日、喫茶店でナンパした店員だ。見た目や態度からして、明らかに高校生と思われた。
 彼女のどこに惹かれたのかと問われたら、その喫茶店の制服が似合っていた点、としか言えない。いや、興
味の対象はむしろ制服そのものじゃないか、とすら思えた。
 それ程に、俺は現状のエミに対する興味を失っていた。しかし、こちらから誘った以上、俺から何らかのアク
ションを起こさなければなるまい。
「カラオケでも行く?」

69 :No.16 コスペラード 2/6 ◇D8MoDpzBRE:07/04/29 23:44:07 ID:U7EwskU3
 カラオケ店に着くと、俺たちは暗い個室に通された。曲を入れる前から、妙なテンションの曲が過剰な音響に
乗って耳に飛び込んでくる。室内は、冷房が最強にたかれていた。
「うわー、超涼しい」
 エミがようやく笑顔を見せた。馬鹿女が。汗を吸ったその薄着で十分もここにいて見ろ。鳥肌で干物のように
縮み上がるぞ。
 案の定、俺が一曲目を歌い終わる頃には、エミは震えながらダルマの体勢に突入していた。
「ってか、渥美二郎って誰よ」
 なおも粋がるエミに対して、俺は優しい視線を投げかけた。
「それよりも、これ羽織りなよ」
 俺は手元のアタッシュケースから一枚の毛布と、レース付きの帽子を取り出してエミに手渡した。
「ありがと」
 妙にしおらしい返事が返ってきた。第一ラウンドは俺が制した模様だ。
 エミが毛布を肩に掛け、帽子を頭に載せた。
「てか、この帽子何か意味あるの? どう見ても、アキバでメイドとかが付けてるアレなんですけど」
「寒さ防止、プッ。おっと、駄洒落じゃないよ」
 返答はなく、冷たい視線だけが俺を見つめていた。
 だが、ここに来て風向きが変わってきた。エミが頭に装着したメイドのフリフリ帽子が、コスプレマニアたる俺
のハートに、温かなミルクココアを注いでくれたのだ。
「よーし、次エミちゃんの番ね。張り切って、チェケラ、YO!」
 超ハイテンションでマイクを投げつけると、引きつり笑いでエミがそれを受け取った。
 こうして見ると、普通に可愛い。垂れたフリフリ帽子のニュアンスがほんのり翳りを演出して、可憐さが際立つ。
身に纏った毛布のお陰で、私服でいることもバッチリ、カモフラージュされていた。
 エミが震える声でタニザキだかハマザキだかを歌い終えた頃には、俺の気持ちもすっかりうなぎ上りにヒート
アップしていた。
「よーっし、次はオレンジレンジだ」
 いよいよ若者向けに俺が用意した十八番を披露するステージが、華々しく幕を開けた。原曲が下手くそで、
俺が敢えて上手く歌える必要のない曲を、周到な準備の末にリストアップしてきたのだ。
 歌いながら気持ちよく陶酔する俺に、絶えずエミの熱い眼差しが注がれていた。

70 :No.16 コスペラード 3/6 ◇D8MoDpzBRE:07/04/29 23:44:44 ID:U7EwskU3
「ふーん、意外と上手いじゃん。レンジでは誰が好きなの?」
 おっと、予想外のクエスチョン。メンバーなんざ知らねーっつの。
「え、あいつだよ、あいつ。宇宙人」
「その呼び方サイアク」
 ここまでいい感じできていた流れを、また一歩後退させてしまい、深い遺憾の念が俺を包み込んだ。これだか
らレンジオタは困る。
 続けて、エミが先ほどと同じくヤマギシを歌う。俺もレンジで応酬する。何とか、五分の勝負に持ち込めたこと
に、俺は心底安堵していた。
「次は学校帰りに会おう」
「エー、何で?」
「何でも」
 別れ際、俺は半ば無理矢理、次会う予定を取り付けた。学校帰りを狙うのは、制服のためだ。
 その日のために、俺は秘策を用意することにした。名付けて『電車男作戦』。俺の目論見がはまれば、この世
の楽園を手中に収めることさえ出来よう。

 目白駅前を、目白通りが横切る。陸橋の下を、山手線の列車が加速しながら次の停車駅を目指していた。
「お待たせ」
 背後から声を掛けられた。振り向くと、そこには可愛らしいセーラー服の少女が立っていた。
 白い襟元に、色鮮やかな赤のラインがプリントされ、清楚かつシャープなオーラを放っていた。スカートは膝上
二十センチほどの高さで切り上げられ、都会の熱風の中、涼しげに舞う妖精が降臨したかのようだった。
「てか、また制服で来たの」
「うん、今日はエミちゃんも制服だからね」
 エミの突っ込みを無難に捌くと、俺はさわやかに微笑み、彼女の手を引いてエスコートした。
「近くに、俺のアトリエがあるんだ。是非、エミちゃんにも来て欲しくて」
「いいけど……」
 エミの同意を確認すると、俺はタクシーを止めて、都内某所のアトリエへと向かった。
 タクシーは巣鴨駅から程近い、閑静な住宅街で俺たちを下ろした。

71 :No.16 コスペラード 4/6 ◇D8MoDpzBRE:07/04/29 23:45:30 ID:U7EwskU3
「アトリエ、ってか、ただのアパートじゃん」
 部屋へ入るなり、エミが憤りで裏返った声を上げた。
 昨晩のうちに不要な荷物は全てベランダに放り出しておいたから、室内は小綺麗に片付いていた。
「そのうち、画材を入れる予定だから」
 適当に相づちを打って、エミに座布団を勧めた。しぶしぶ、エミがそれに従う。
 俺は、冷蔵庫からビールとチューハイの缶を取りだし、テーブルの上に並べた。
「私、未成年なんですけど」
「いいのいいの、超神水みたいなもんだから。カリン塔のカリン様、知らないの?」
 エミは返答もせず、チューハイの缶を開けて飲み始めた。アルコールの香りはきつくないはずだが、二、三度
むせて、エミは缶を置いた。
「やっぱ、こういうのっていけないと思うの。私、帰る」
 唐突に、エミが切り出した。しまった、ここで帰られたら全てが水の泡だ。ここで計画が破綻するくらいなら、素
直に泡風呂にでも通っておけば良かったという話になってしまう。
「待って。俺がどうかしてたよ、ホント。君のことが好きで声をかけたのに、こんなのって格好悪いよね」
 俺の声に、エミが振り向いた。心なしか、彼女の頬は紅潮していた。あの程度のアルコールで酔っぱらってし
まったのだろうか。
「実は今日、エミちゃんにプレゼントしたいものがあるんだ。出逢って間もない俺らで、お互いのこと余り知らない
けれど、もし、君がこれを受け取ってくれて、喜んでくれたら俺も嬉しいなって」
 そう言って、俺は部屋の物置からラッピングされた袋を取りだした。そっと、エミの手に握らせる。開けてごらん、
と目配せを送った。
「ウソ、これって」
 エミが驚きの声を上げた。中身は、エルメスのバッグ。普通に買えば、何十万とする代物だ。
「ありがとう、サトシさん」
「サトシ、でいいんだよ、エミ」
 エミの頬に、そっと手を添えた。何度か耳の裏をさするように愛撫し、ついでうなじをたくし上げるように髪に指
を絡ませた。
 軽く、唇を重ねる。
 もう一度。
 そっと唇を離すと、エミの方が俺の唇を求めてきた。背筋を反らせながらそれに応じる。深い接吻。

72 :No.16 コスペラード 5/6 ◇D8MoDpzBRE:07/04/29 23:46:22 ID:U7EwskU3
 床に投げ出される。フローリングの冷たさも硬さも気にならない。俺たちはきつく抱擁し合いながら、何度も何
度も口づけをかわした。
 息継ぎのためにエミが顔を上げた瞬間、俺はエミの腰に腕を回し、服の下からブラジャーのホックに手を伸ば
した。一瞬、エミの背筋が硬直したが、すぐにそれは快楽を伴った弛緩に取って代わられた。
 服の中に両手を伸ばし、乳房を探る。熱く硬くなった乳首を触れ、柔らかいタッチで愛撫を加えた。
 エミが、自ら服を脱ごうと、セーラー服の裾に手をかけた。
「待って」
 咄嗟に、俺が待ったをかけた。エミが、きょとんとした顔で見つめ返してくる。
「服は、そのままでいいよ。いや、寒いから風邪引いちゃうし」
 苦しい言い訳だった。俺は生粋の制服フェチだ。脱いでしまっては元も子もない。
 なおも訝るエミに構わず、俺は愛撫を続けた。パンツに指をかけ、一気に引きずり下ろした。スカートは脱がせ
ない。それが、俺が決めた暗黙のルールだ。じっとりと湿った恥部を、俺は指を這わせるように撫で回した。
「あ……」
 声が漏れる。続ける。二度、三度。繰り返す。指を二本にする。
 指が十分に入り口を馴らしたところで、俺はズボンを下げ、高く猛った俺自身を取りだした。後ろに手をついて
座っている俺の上に跨るように、エミが腰を下ろして、恥部へと誘う。秘密の楽園への切符は、熱い快感となっ
て俺の延髄を貫いた。
 ようやく、実った。名付けて『電車男作戦』。根暗でもてなかった鉄道オタクが、エルメスのバッグを餌に意中の
女性を口説き落としたという逸話に倣って、俺はこの計画を立案した。
 俺たちは、行為を終えてしばらく抱き合っていた。お互いの肌の熱さが伝わり合い、人同士の絆の深さを否が
応でも思い起こさせる。
「ありがとね、サトシ」
 うわごとのようにエミが呟いた。俺の耳元に軽くキスをすると、エミはプレゼントのバッグに手を伸ばした。
「嬉しかったよ、サトシが私のこと、こんなに思ってくれているなんて」
 そんなことを言いながら、まるで愛しいものを撫でるような仕草で、エミがバッグを見渡していた。
「あれ? 何これ……中国製?」
「ああ、そうだよ。さすがは物価の安い中国だね。これだけの逸品が、いくらしたと思う?」
 エミの背中が震えていた。感極まって、声も出ないのだろう。
「ジャーン、四千円!」
 次の瞬間、俺は火花のような幻影を見た。その後の記憶はない。

73 :No.16 コスペラード 6/6 ◇D8MoDpzBRE:07/04/29 23:47:10 ID:U7EwskU3
 目が覚めたとき、俺は集中治療室のベッドにいた。大勢の医療スタッフが尽力してくれたお陰で、俺は一命を
取り留めたらしい。
 入院生活は制限が多く、ストレスがかかると思っていた。だが、それは結局杞憂に終わった。
 機能的かつ清潔感に溢れた白い着衣、慈愛の象徴でもあるナースキャップ。そう、ここはまだ俺が見たことの
ない楽園だった。
 今日も、白衣の天使が俺の耳元でささやく。
「吉田智史さん、検温の時間ですよ――」

 

終わりですタイ



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