【 終わらない夏休み 】
◆1xAfNYTGOo




28 :No.7 終わらない夏休み1/5 ◆1xAfNYTGOo :07/04/29 16:27:32 ID:WC1535bL
 私の中学校初めての七月の終わりごろから始まった夏休みは明日で丁度、終わってしまうのだった。

「ミーンミーンミーンミーン」と口に出して鳴いていた私は悲しくなったので、もうずっと敷いてある布団にバサっと倒れた。
 もう明日から九月ですっかり秋! という季節になるというのに、どうして、太陽はこんなにもギラギラと私を照りつかせるのだろう。
「なんて、クーラーが効いた部屋にいる私が言うのもなんだけど……」
 こんな日に外で世間の人たちは何をしているというのだろう? 
 言っちゃ悪いが、今日外に出ている人たちはバカだねバカ。
「はぁ……宿題しなきゃいけないなぁ」
 まったくの手付かずで、この夏休みをテレビと漫画で乗り切っていた私は今日のみでその後始末をしなければなたなかった。
「分数って、上と下をかけるんだっけ、かけるほうを逆にするんだっけ」
 私は学年でも一、二を争うバカで正直中学一年というのにもうお手上げ状態だ。自分の将来が本当に心配でしょうがない。
 友達が多くない私は誰かと一緒に宿題をするとかも無理。そもそも、こんな日に一緒に宿題をやってくれる人はいないだろう。
「明日の宿題確認テストどうしようかな、またドベとっちゃうよぉ」
 こんな風に独り言を言い続けて、結局私は宿題をするのをあきらめた。どうせ、できないし。テストはなんとかなるだろう。
 そのあとは、罪悪感もあったが面白いテレビがやっていたのでそれを見て気づいたら、笑点が始まったのでそれからは七時まではあっという間でそのまま、漫画を少し読んで寝てしまった。


 そして次の朝になって、私はどうしようかと思って
「お母さん、お腹痛い」と小学生並みの仮病で休むのであった。
 宿題をしてなくて、しかもドベを取るのが嫌だからテストを休んで私最悪だなあ。
「次からは頑張れば大丈夫だよね!」そう思って、今日もテレビを見て過ごすことにした。特に面白いものもやってなくて、ズル休みをしてしまったという感覚もあってなんだか気分が悪くて、テレビを見るためにかけていたメガネを外して少し眠った。

29 :No.7 終わらない夏休み2/5 ◆1xAfNYTGOo :07/04/29 16:27:59 ID:WC1535bL
 起きたときには、もう夕方だった。お母さんは昼間からパートに出かけるので、家には私しかいない。
 特にすることもなくて布団に入ったままボケーっとしていた。
 そういえば明日の時間割は通常通りなんだろうかとか、お母さんが帰ってくるまであとニ時間ぐらいかとか、お腹空いたなぁとか、
 どうでもいいことばかり(と言っても空腹は私にとってはかなり一大事だが)考えていた。
 こんな事考えても不毛か、なんてちょっと決めポーズみたいなものをしてから立ち上がって、明日の時間割をはじめた。
 結局よくわからなかったので、通常通りにしておいた。
 しかし、お腹が空いた。もう一回寝ようか……などと思っていると
「ただいまー、麻衣! 帰ったわよー」
「お腹すいたー」
「もう、帰って最初の言葉がそれかい? おかえりぐらい言いなさい」
 めんどくさがりながらも、我が家の収入の少しを働いてきた母に
「おかえりなさい」と言っておいた。
 我が家はそんなに裕福でもないが別段とお金に困っている訳でもない。
「お父さんはまだ帰ってない?」
 どうだろう? 夕方ぐらいから起きていて見てないからきっといないだろう。
「そういえば、あんたお腹はもう大丈夫なの? いっぱい眠ってたけど、起こそうか迷ったよ」
 そういえば、私は仮病で休んだんだった。忘れていたことをまた思いだして、少しまた罪悪感を感じた。明日は行かなきゃなあ。
「うん、大丈夫だよ! 明日は行ける……行けるよ!」


30 :No.7 終わらない夏休み3/5 ◆1xAfNYTGOo :07/04/29 16:28:22 ID:WC1535bL
 九月二日
「ジリリリリリ」と自分で言うのが悲しくなってきたので起きた。
「麻衣ー? 朝よー? 早く仕度しなさいー」
「ジリリリリリリー」じゃなかった「はーい、今行くよー」
 お母さんが作ってくれる朝ごはんをはむはむ食べて、お弁当を、ちゃんと今日の時間割がしてある(いつもはこの時間にやる)
 学校指定のカバンに入れて、っと
「いってきまーす」
 社長! 稲倉麻衣、二学期初登校であります! と飼っている犬の「社長」にポーズを決めて、学校に向かった。
 地元の公立中学校で、家からもそんなに離れてないので歩きながら道端の雑草とかに思いをはせれる。それが私の登校時の楽しみだったりする。
「うおぉー、オオバコにギョウギシバ! 今日も元気だ、よかった!」
 これは草の名前であって、私がつけたんじゃなくてどこかの偉い学者かなんかがつけたんのであって
「雑草という名の草はない!」なんて昭和天皇の真似をしていたら学校についた。
 教室の前で、少し立ち止まった。
「昨日ズル休みなんかしたからかなぁ、入りにくいなぁ」
 そんなことを思いながら、えいっ! と横向きのドアをスライドさせて教室に入った。いつもの顔ぶれに安心して、
 足早に自分の机に向かった。よかった、一日休んだけど私の席はあった! 
 なんて見当違いのことを思いながら自分の席に座って、かばんを置いて、今日の用意を引き出しに入れていた。
「うーん、今学期はどれくらい置き勉にしようかなあ」
 馬鹿な私でも、持って帰って勉強した気にならないと不安なのである。そんなことを思っているとチャイムが鳴って一限目が始まった。

「きりーつ、礼、着席」と委員長が号令をかけて、みんなが適当に英語の大原先生に礼をして座った。
 特に英語が苦手な私は、この大原先生までなんだか苦手になっていて、英語の授業ももちろん好きではなかった。
「早く終わらないかなぁ〜、当てられたらまずいなぁ〜」
 なんて考えていたら、当てられちゃうんだよなぁ……、おい! 大原! 私を当ててくれ! 当ててくれ! 
「キンコーンカンコーン」なんて自分で言いたくなる。と、思っていたらチャイムが本当に鳴った。やったー! 無事乗り切った。
 そんなこんなで、お昼休みになった。私は、あまり好きじゃない学校指定のカバンからお母さんに作ってもらったお弁当を机に広げた。
 砂糖のいっぱい入った卵焼きとか、ウインナーとか、冷凍食品のおかずと、ごはんと真ん中に梅干。なんて、定番なんだ! おいしそう。
「うん、やっぱりおいしい、定番が一番だなぁぁ」
 そして、昼休みも終わって、午後の授業が始まり眠くなりながらも、私は「当たるな〜当たるな〜」と念じてみたり「やっぱ当たれ!」とか言ってみたりして、学校の授業は全部終わった。

31 :No.7 終わらない夏休み4/5 ◆1xAfNYTGOo :07/04/29 16:28:38 ID:WC1535bL
「よし! 帰ろう、帰って漫画でも読もう!」そう思って、席を立ち、教室を出ようとしたら小学校の頃は仲のよかった柴原と目が合った。
「貴洋? 何か用?」と私が言うと、彼はそっけなく「べつに」と答えた。憎たらしい。 
こんなヤツなんて放っておいて、早く家に帰ろう。そうしよう。私はゲタ箱でスリッパを脱いで靴をとろうと思ったら、紙のようなものが置いてあった。
 私は綺麗にたたまれたそれを開いて中身を読んだ。「屋上で待ってます」よく見たことのある字だった。私は嫌々向かった。
 屋上についたのだが、誰もいない。私の足は、もうブルブルと震えていた。すぐに、階段を数人が上がってくる足音がした。ガチャッ。
「稲倉〜今日はきたんだね〜、昨日は何で休んだのぉ?」そう彼女は言った。いや、彼女達は口々に同じようなことを言った。
私はその間ずっと黙って俯いていた。
「あー、馬鹿だからテストが嫌だったんだー、クスクス」
「馬鹿は、かわいそうだねぇ」あぁ、もう……無理だと思った。私の目からは涙が、こぼれていた。
「ねぇ、二学期も学校来る気なの? お前見るのも気持ち悪いんだけど」
「ウッ……ヒック……」ダメだダメだダメだ。やっぱり学校なんか来るんじゃなかった。
二学期になったら、いじめられないなんて誰が言った。夏休みを挟んだら、もういじめないなんてこいつらが約束したか? 来るんじゃなかった!
「おい、気持ち悪い顔で泣いてんじゃねーよ」他の二人も、それに合わせて笑ったり、冷やかしたり。次いで、殴られた。腹を、顔を、背中を、足を。
「おらっ、こいつっ! アハハハー泣きながら耐えてるよこいつ」そう言って笑うこいつら、なんで私がこんなにされなきゃいけないんだ! 
少し頭が悪いだけじゃないか、だからこんなに殴られるのか? おかしいじゃないか!
「やめ……てよ……」必死に、言った。
「はぁ? きこえねぇよ」もう無理だった。
 そんなとき、ドアが開いた。
「お前ら、やめろよ!」なんで、ここにいるのかも分からないけど、さっき目が合った柴原だった。
 彼女達は完全に慌てていて、そそくさと何もしてないとかなんとか言って、屋上から出ていった。
「大丈夫か?」と柴原が言った。なんで来たのとか、いろいろ聞きたいことがあったけど、
ボロボロまだ涙がこぼれている私は、特に何も言えずに一言だけ「ありがと……」と言った。
「ん? あぁ……たまたま通りかかっただけだよ、礼なんていいよ」とか言って、照れながら保健室に連れて行ってくれた。
その日は、柴原は部活だったらしく、私は保険の先生に「転んだんです」と大嘘をついて、家に帰った。

32 :No.7 終わらない夏休み5/5 ◆1xAfNYTGOo :07/04/29 16:28:54 ID:WC1535bL
私は次の日も次の日も学校を休んだ。もう学校には行かないなんて、心にも誓った。あんな辛い思いをしてまで、なんで行かなきゃいけないんだと。
「この、制服結構好きだったんだけどなぁ」と呟く。
 私は、制服を手にとって、もう二度と着れないのかもなぁと思っていた。そして、思い余って、私はゴミ箱にそれを捨ててしまった。
「もう着ないんだ、絶対着ない」あんな奴らのおもちゃみたいにイジめられたくないんだ。そう思って、
夏休みからずっと敷きっぱなしの布団を頭までかぶらせて、眠ろうとウトウトしていた。
「ピンポーン」と、音が鳴ったような気がした。もう午後なので、お母さんはいない。私も出る気はしなかった。
「ピンポーン」二回、三回とチャイムが鳴る。いい加減うるさいので、私は窓のカーテンを少しずらして、チラっと外を見た。
 私は、何故か涙がこぼれそうになった。そこにいたのは、柴原だった。ガチャっと、扉を開ける。
「どうしたの? 学校は?」
「休んだ、お前に話がある」と柴原が言う。
 なんなんだ、確かに助けてもらったが、こいつとは近所で小学校のときに仲がよかっただけだ。いきなり、家に押しかけてきて話があるなんて。
「学校のことなら、もう行かないよ、制服も捨てた」と私が言うと、柴原はなんだか怒り出した。
「どこに捨てたんだよ!」
「ゴミ箱に決まってるでしょ」と私が言うと、柴原は勝手に家に入り込んできた。
「ちょ……ちょっと! 勝手に入らないでよ! 訴えるよ!」という私の制止も聞かずに家中を探し回って、ゴミ箱を発見されて、そこを漁っていた。なんだか、その必死さ加減がおかしくて、
「そっちは生ゴミのほうで……、こっちだよ?」と私が言うと、照れながら、埋め立てゴミのほうに手を入れて制服を引っ張り出した。そして、制服を私に投げて
「明日から学校来いよ」と柴原が言った。
「嫌だよ、この前も見たでしょ、もう嫌なの」
「俺が守るから」
「え……?」
 何を言ってるんだ、よく理解できない。こいつは、ただの近所の昔の友達だったような……。
「俺が守ってやるから明日から来い」
 恥ずかしいのか、照れてるのか、顔を真っ赤にして、それだけ言って帰ろうとしていた。私はその後姿に、
「なんで、ここまでしてくれるの?」と聞いたら、柴原は
「たまたま、お前がイジめられてるの見たからだよ」と顔を真っ赤にして言って、
「本当は?」って聞いたら
「うるせぇ!」って言って抱きしめられた。
 〜終わり〜



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