【 仏教戦隊ファイブッダー 】
◆PUPPETp/a.




23 :No.06 仏教戦隊ファイブッダー 1/5 ◇PUPPETp/a.:07/04/29 14:48:19 ID:XH/icld9
「シャーッシャッシャッシャ!」
 晴れ渡った空の下、太陽を背に浮かぶ影があった。
 背中に翼を持つその影は、緑生い茂る田んぼ道の真ん中で奇声を上げて笑う。
「我が名は昼を司る天使シャムシエル。梅雨の雨など降らせはしないぞ! シャーッシャッシャッシャ!」
 怪人シャムシエルの緩く波打つ長い金髪が風になびく。しかし髪と共に揺らめく、古代ローマ風の衣装が農道
に全く似あっていない。
 腰に手を置き、高笑いを続けているとそれをさえぎる声が聞こえてくる。
「待てーい!」
 腹から声を出すような野太い声が響き渡る。
「なに奴?」
 シャムシエルが声のする方向へと顔を向けると、五台のスクーターが土煙を上げて走っている。
 スクーターは怪人に近づくと、農道の端に彩り豊かなスクーターを行儀よく整列。エンジンを切るとスズメの
鳴く音が聞こえる。
 それぞれ五色のヘルメットを取ると、禿頭が陽光を受けて煌めく。ヘルメットをスクーターの椅子の下に収めた。
 各々ポーズを決めて声を上げる。
「ボーズレッド!」
「ボーズアッシュグレイ!」
「ボーズ利休鼠!」
「ボーズ渋柿色!」
「ボーズ!」
『仏教戦隊ファイブッ――』
「待て! 待て待て待って……」
 それぞれの顔を見合わせるファイブッダー。
「おまえら、その服はなに?」
『仏教戦隊ファイブッ――』
「それはわかったから!」
 ポーズを決めたまま、不思議そうに五人が顔を見合わせる。
 レッドはポーズを解き、いかにも「これ?」という風に坊主の正装である袈裟を持ち上げた。すね毛がちらり
と覗く。
 五人を代表して、レッドが問いかけに答える。

24 :No.06 仏教戦隊ファイブッダー 2/5 ◇PUPPETp/a.:07/04/29 14:48:35 ID:XH/icld9
「学生と言えば制服。看護婦といえばナース服。それでは坊主といえば?」
「……袈裟か?」
「そうです。みんな袈裟を着てるではないですか」
 それを受けてシャムシエルは首を振り、溜め息を吐く。
「いや、うん。袈裟はわかる。形状は袈裟だと思う」
 レッドは自分が着ている袈裟を試す返す眺めると「どこかおかしい?」と言わんばかりの表情を見せる。
「けど戦隊ものならこう、全身タイツみたいなアレは――」
 そこでシャムシエルは五人をじっと見た。
 五人のメタボリックな体型に全身タイツを思い浮かべてしまう。想像を拭うように頭を振った。
「袈裟はいいね。実に正しい。うん。それよりその五人の配色はなに?」
 ごまかし気味に言ったセリフを皮切りに、ファイブッダーがシャムシエル目掛けて、噂好きの主婦よろしく押
し寄せてきた。
「うちの庭の柿が渋くてねえ、これが食えたもん――」「リーダーはレッド!」「ちょっとだけ! 先っぽだけ
でいいから!」「若輩者なので色なんてまだ――」「千利休の持つ、和の心を大切に――」
 禿頭のむちむちとした生臭坊主たちが、額に血管を浮かび上がらせてシャムシエルに詰め寄ってきた。
 加齢臭漂う親父どもが押し寄せてくる。
 美少女然としたシャムシエルはそのおぞましい光景に青ざめたとしても無理はない。
「あー、わかった! わかったからみんな配置に戻って! あとおっぱい揉んでいったの誰だ!」
 ファイブッダーが一斉に自分以外のメンバーを指差す。指の方向はバラバラだ。ちなみに犯人はアッシュグレイ。
「……まあ、いい。とりあえず続きから始めようよ」
 ファイブッダーはその言葉に渋々と持ち場に戻り、ポーズを決め直す。
 リーダーであるレッドがシャムシエルに対し、指を指しながら口上を述べ始めた。
「梅雨の雨は農村にとって生命線。それを奪おうとはかわいい姿だが許せぬ!」
「シャーッシャッシャ。キリスト教こそが最高! それを理解しない愚民など死んでしまうがいい!」
 シャムシエルが翼を優雅にはためかせる。その姿はまるで一羽の白鳥が湖面に広げる純白の翼のようだ。
 その白い翼から何枚もの羽根がファイブッダー目掛けて飛ぶ。
「くそっ!」
 アッシュグレイが首にぶら下げた数珠を手に取り、シャムシエル目掛け構える。
 数珠が輝き「ビーズシューター!」という掛け声と共にシャムシエルが放つ羽根を一枚残らず叩き落していった。
「いまだ、卒塔婆ブレード!」

25 :No.06 仏教戦隊ファイブッダー 3/5 ◇PUPPETp/a.:07/04/29 14:48:51 ID:XH/icld9
 レッドは背中から卒塔婆を抜き取り、構える。
 その手の中の卒塔婆が赤く輝いた。ひとっ飛びでシャムシエルの間近に寄ると、袈裟懸けにする。
 しかしその瞬間、シャムシエルの白く輝くような肉体がまさに太陽のようにまばゆく光る。太陽の光に近づい
たイカロスが如くレッドはたじろいでしまった。
「シャーッシャッんがぐ!」
 シャムシエルが勝ち誇ったその一瞬の隙を狙い、背後に忍び寄るは利休鼠。
 のた打ち、転げまわるシャムシエルをよそに親指を立てて勝ち誇る。
「墓石アタック!」
 利休鼠が片手を置くそこには、墓石が端然と存在していた。
 起き上がり、利休鼠のえり首を掴んで叫ぶ。
「おい、それ死ぬから! 普通に頭蓋骨陥没して死んじゃごがあ!」
 文句を垂れるシャムシエルの背後から、黒御影石が黒い軌跡を描いて再度振り下ろされた。
「墓石アタック!」
 同じように墓石を置き、親指を立てて勝ち誇るのは渋柿色である。
 のた打ち回る元気すら削り取られたシャムシエルはただ頭を押さえてうずくまる。その隙に若輩者のボーズが
準備を完了していた。
 そこに鎮座するのは黒光りする、凶悪な存在感を示すまさに大砲である。
「今だ、檀家キャノン!」
 説明しよう。檀家キャノンとは、余命幾ばくもない檀家の老人を弾として打ち出すファイブッダーが誇る強力
兵器である。
「本日の協力者は隣町に住む渡辺さん!」
 レッドに手を引かれるのは、杖持つ手すら震える渡辺お爺ちゃん、御年九十二歳である。
 半畳ほどの畳の上に正座した渡辺さんは「お茶ー、くれんかのお」と言っている。それはともかく大砲へと詰
められていった。
「南無阿弥陀仏!」
 レッドの号令の元、点火された大砲の筒からお爺ちゃんが打ち出される。
 かすかに残る白髪が強風に揺らいでいた。
 曲がっていたはずの腰が伸び、皺だらけのその顔はシャムシエルの麗しの顔を見事にロックオンしている。
 シャムシエルは後頭部のダメージで身動きの取れない。
 お爺ちゃんは猛スピードで近づいてくる見目麗しいシャムシエルの顔を見て、ほんのり頬を赤く染める。

26 :No.06 仏教戦隊ファイブッダー 4/5 ◇PUPPETp/a.:07/04/29 14:49:07 ID:XH/icld9
 数センチ……、シャムシエルとお爺ちゃんとの距離は残りわずか。
 (い、いやあああああああああああああ)
 叫びを上げる間もなく、二人は熱いベーゼを繰り広げる。
「ぐあああああああああっ!」
 なぜか爆発。おそらくシャムシエルの嫌悪とお爺ちゃんの甘酸っぱい恋心が何か反応したのだろう。

 悪の枢軸キリスト教ローマカトリック教団総本部に場面は移る。
 清純さを表すその白い服装が似つかわしいとは言い難い、暗黒面に落ちたような顔のローマ教皇が杖を床に突
きつける。
「シャムシエルよ、死んでしまうとは情けない」
 そう言って手に持つ杖を振ると、謎の光が周囲を照らす。
 その光は日本とローマの距離など関係なく、倒れるシャムシエルの上へと降り注ぐ。
 しかしその瞬間を狙って、ファイブッダーは次弾を準備していた。
「本日二人目の協力者は先ほどお手伝いいただいた故渡辺お爺ちゃんと七十年付き添った渡辺お婆ちゃん!」
 レッドの前には腰の曲がった曲がった白髪のお婆ちゃんが立つ。
 さーどうぞ、と促すレッド。しかしお婆ちゃんの目が紫色の怪しい光を放った。
 瞬間、レッドの目の前からお婆ちゃんの姿が掻き消える。
「なっ――」
 お婆ちゃんの姿がレッドの背後に移る。
 骨と筋ばかりの細い手でレッドの腰をガッチリとホールド。
 一瞬、お婆ちゃんが腰を落とす。
 レッドが反応して重心を上げた。
 お婆ちゃんの目が再度妖しく光る。
「そおーい!」
 掛け声一閃。
 レッドの足は宙に浮く。
 レッドの目から地面が消え失せ、代わりに視界一杯の青空が映る。「ああ、空って蒼いんだ……」と感慨深く
思う。
 頭に浮かぶのはこれまでの数々の戦闘。そしてたくさんの人に感謝されている自分である。なお、感謝などさ
れたことはない。

27 :No.06 仏教戦隊ファイブッダー 5/5 ◇PUPPETp/a.:07/04/29 14:49:25 ID:XH/icld9
 そんな妄想に浸っていられたのもつかの間、見事にお婆ちゃんの体は弧を描く。
 しっかりとブリッジで体重を支えるお婆ちゃんに対し、レッドの後頭部が轟音と共に大地と衝突する。
 農作業着であるもんぺがしっかりと渡辺乙女の足を隠していた。
「今じゃ!」
 お婆ちゃんの掛け声と共にファイブッダーの他四名が動き出した。
 いそいそとレッドの体を檀家キャノンに押し込める。
「放てえ!」
 巨大化途中のシャムシエルに赤い、贅肉の揺れる肉体が命中、そして爆発。
「あーっはっはっはー!」
 腰に手を置き、高笑いを上げるお婆ちゃんの後ろでは、高く高く、シャムシエルとレッドの炎が燃えている。
「正義は勝つ、じゃ!」
 こうしてお婆ちゃんの活躍により、農村の平和は守られた。
 故お爺ちゃんも空でにこやかに笑っているにちがいない。
 行け! お婆ちゃん! 負けるな! 渡辺乙女!
 次の犠牲者は誰になる!

 次週予告!
 レッドよ、君の死は無駄にしない。
 ボーズレッドを討ち取った渡辺お婆ちゃんがレッドとして緊急参戦。
 しかし、若輩者のボーズが「俺がレッドになる」と憤る。
 次週『お婆ちゃん、荒野に立つ』
 お楽しみにね!



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