18 :No.05 あの白い帽子 1/4 ◇hmiAx5ixXM:07/04/29 14:14:47 ID:XH/icld9
慌しく就活なんかしていると余りわからなかったが、
気付くと季節は過ぎていくのだと実感する。
この前の受験が倍率が低かったと、ワイドショーで話している。
そうだ、似合わない花でも買うかな。この季節になると思い出すあの頃のために……
自分の進路が推薦で決定してから、俺は友里とよく遊んださ。
漠然としか夢が無かった俺は、まあ、どうにかなるだろうと、ほとんど考えていなかったさ。
そうあの時は何気ない一言だったっけ?
「将来の夢、なにかあるの?」と。
友里はちょっと恥ずかしそうにウーンと唸ったが、
「てへへ、女の子がパイロットになるなんて可笑しいかな?」
と聞いてきた。
「俺だってそりゃ少しは憧れたさ。
大きな飛行機や自動車、電車にも興味はあったな。
じゃあ、どっかの航空会社や運輸省関係にいくの?」
そう聞いてみたが、友里は何かを考えているのか言い出そうとしない。
「あれ、まだ考えていないなら無理には…
そう続けようとしたが、その言葉をさえぎるように友里は口を開いた。
「私、自衛官になろうと思うの。」
19 :No.05 あの白い帽子 2/4 ◇hmiAx5ixXM:07/04/29 14:15:02 ID:XH/icld9
「えっ?」
「私、海上自衛隊に入隊するの。」
「海上自衛隊なのにパイロット?しかもなんで?」
「一番、子供の頃からの夢に近い方法だったから。
航空自衛隊ならパイロットになれない率が高いって聞いたから。」
「パイロットにねぇ…」
「夢は諦めたくないから、だから一番近道な自衛隊にいくの。」
子供のときの夢。あんな小さい頃の夢。
それも、難しいってわかっている夢の実現のために、
友里は一番大切な高校卒業後の進路は海上自衛隊。
――――自分はどうか?
学校の推薦枠で楽々と大学決めて、将来もまあ、どうにかなるだろうと
楽観的に見ていた。
「だから」
彼女は声を張った。
「もう会えなくなるかも知れない…」
友里は残念そうな顔をしていた。
おかしいだろ?彼女自身の意志で決めたことなのに。
俺よりは、頭もいいのに。夢を追うって、大きな事をしているのに……
「俺のことは気にするなって、お互いもう大人なんだから」
そんな言葉しか、掛けれなかった。
友里は泣き付き、ただ待っていてね。ごめんね。と繰り返す人形になっていた。
20 :No.05 あの白い帽子 3/4 ◇hmiAx5ixXM:07/04/29 14:15:20 ID:XH/icld9
彼女と次にあったのは彼女の入隊の前日だった。
彼女の帽子の桜と絡み錨が目に入る。
「明日なんだね……」そんな言葉しか掛けられない自分が情けなかった。
「うん……」
「友里、別に明日死ぬんじゃないんだから、そんなに悲しい顔をするな。
なんかあったら必ず連絡くれよな。」
「うん…」
俺と友里はどちらからとなく、抱き合った。
記念写真はお互い目が赤かった。
俺は彼女の晴れ姿を見送った。
……いや、見送ることができたのだ。
…………そうこれでよかったんだと自分に言い聞かせたんだ。
最初の方は連絡は取れなかったが、月に一回手紙を送ったり、電話をしたりと
遠距離恋愛をできていた。だが、お互いに忙しく過ごしていたので
なかなか会うことが出来なかった。
21 :No.05 あの白い帽子 4/5 ◇hmiAx5ixXM:07/04/29 14:16:13 ID:XH/icld9
そうして、約三年半の月日が過ぎた。
そう、俺は意外な所で友里を見たのである。
『海自練習機墜落 女子練習生重体』、『海自操縦ミス? 練習機墜落』
朝、いつものように見た新聞の一面に載っていた。
新聞に載せられていた顔写真、名前・・・
ゆ、友里がどうして……
慌てて、テレビをつけて見ると、そこには
――――――乗組員死亡と画面を踊っていた。
「う、嘘だよな?」
そんな言葉が出てきたが、その言葉を否定してくれる人はいなかった。
友里の友達、知人へと電話しようと携帯電話を手に取る。
画面を見ると、普段ならありえない量のメールを受信していた。
……あいつ、みんなを心配させやがって……
テレビでは、偉そうなコメンテーターが五月蝿い。
「だから、なんで不適正な、あんな女の子を海自に入れたんですか!」
お前らは知らなさ過ぎるんだよ。マスゴミが!
夢を追った、友里の事を……
ふと、窓から空を眺める。航空灯だったかな?
飛行機から発せられた光は、宙に弧を描いている。
……アイツが民間機だったら、今頃……今頃……
空がにじみ始めたが、かまわずその光を見る。
ゆっくりと高度をさげ、近くへ着陸するようで、車輪が出始めていた。
低高度になりながら俺の視界からその光は去っていった。
22 :No.05 あの白い帽子 5/5 ◇hmiAx5ixXM:07/04/29 14:16:40 ID:XH/icld9
――――さて、そろそろ行こうかな……
どうでもいい入試必勝法の馬鹿馬鹿しいワイドショーを消し、家を飛び出す。
花屋で似合わない大きな花束を買う。
電車で二時間揺られながら、彼女の制服の写真
――――――最後に一緒に撮った写真を見る。
互いに目が赤くなっていたんだっけ……
桜を見ながら、墜落現場にやって来る。
地元の人の協力でここには、献花台が置かれている。
その献花台は、今だ現役でまだ俺以外の花がたくさん並んでいる。
友人が多かった友里だからまだ献花に訪れる人が居るのだと言う。
忘れたくない思い出。
自分の夢のために、必死に頑張った彼女。
そんな彼女を知っていたなんて誇りにすら思える。
自分と比べたら月とスッポン並みだったからな、あの時は。
でも今は違う。
今年は、国家公務員試験を受けようとずっと前から決めていた。
それも、航空局志望で。
彼女みたいな夢を支える仕事。
「夢を支える仕事なんていい仕事じゃないの?」
そんな彼女の声が聞こえた気がした。
今年も彼女を待っている。
――――――いや、彼女が待っているのかもしれない。