【 遠距離恋愛のすすめ 】
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161 名前: 大学中退(滋賀県) 投稿日:2007/04/22(日) 20:33:11.29 ID:BMPLnnqM0
「……だって、遠いんだもの」
彼女はそういって荷物を抱えて離れていった。
電車に乗って、小一時間。
多少遠いとは言え、国外というわけで無し。
それでも、俺との縁を切ろうというのが、
俺が至らなかった事を物語っている。
引越しする理由はいまだに良く分からない。
父親の転勤からか、それとも他の事由があるからなのか。
どうであれ、俺は分かれるつもり等さらさら無かった。
遠くに離れてもずっと会いに行くつもりだった。
だと言うのに、彼女は俺が会いに行くと
迷惑だとまで言いのけるのだ。
それには、さすがに少し涙が出た。女々しいのだが。
俺に非がある以外に思い浮かぶ節が見当たらなかった。
だから改善さえすればきっとやり直せると思えた。
また、それには、恋愛のプロフェッショナルである兄貴に、
色恋の極意を教えてもらう以外なかった。
「お前、それはやっぱり、愛が足りなかったのだろう」
162 名前: 大学中退(滋賀県) 投稿日:2007/04/22(日) 20:33:50.64 ID:BMPLnnqM0
兄貴が語るに、仲の良いカップルが分かれる場合には
二つしか理由が無いと言う。
一つは、相手に他に良い人ができたか。
そしてもう一つが二人の仲が冷めてしまったときか。
至極、当然のことを言っているようだが、
俺には目から鱗だった。
そして、元彼女と縁りを戻すには。
「とことん、お前の情熱を見せるしかないだろう」
それを聞いて思う。我に、勝機あり。
この遠距離が二人の仲を取り持ってくれることになるだろう。
そう、長い二人の距離を、
一歩一歩縮めていく様に、この足で踏みしめていくのだ。
それで何も感じないような、冷たい女と付き合った覚えは無い。
兄貴がどこぞの女の子と遊びにいくのを見計らい、
家に俺一人になると共に飛び出した。
何の荷物も持たない。お金も無い、無一文。
彼女の新しい住所だけを頭に、ただひたすら歩き始めた。
電車に乗って、小一時間。
意味もない徒労に終わるかもしれない。
163 名前: 大学中退(滋賀県) 投稿日:2007/04/22(日) 20:36:06.88 ID:BMPLnnqM0
初めての彼女、というのはとても厄介な者で。
自分も免疫がついていないから、振られても踏ん切りがつかない。
ああしとけば良かった、こうしとけば良かった。
なんて分かれて始めて自分の愚かさに気がつくもので。
そんな事、本で読んで分かりきっていることなのに。
それでも足は動き続ける。
置手紙を置いてきたが、家族は心配するだろう。
お金も無いので、今日はどこかの公園に野宿になるかもしれない。
それでも何故か足は動く。
彼女と一緒に映画に行くときは、動かすのも面倒だった同じ足なのに、
どうして今は堪えて自ら歩くのだろうか。
下手をすれば、彼女よりも元彼女の方が
愛おしい存在になるのではないだろうか。
そんな事を考えつつ、彼女の住む町へ向かった。
足はとっくに棒になっている。
それでも足は動いてくれた。
ここに彼女が住んでいるんだ。
会いに来られれば迷惑だと、彼女はいった。
だがもう無性に会いたくて仕方無い。
彼女の家を遠目で眺めた。
ここでの暮らしにとまどっていないか?
君は元気でいますか?
喉元からあふれ出る言葉を抑えながら。
誰かが家からでてきた。
間違いない、あの長い黒髪は愛しい元彼女――
164 名前: 大学中退(滋賀県) 投稿日:2007/04/22(日) 20:36:34.81 ID:BMPLnnqM0
と、俺の兄貴!
いや、元兄貴! 俺に内緒で彼女ト出来ているなんて。
そんな奴はもう俺の兄貴じゃない。
許せない。俺のこと心配じゃないのか?
それとも俺を探してここに来たのか。そうか。
二人は、短く視線を合わせると、
一瞬。俺にとっては数年に感じるキスをした。
俺は手元にある石を握り締めた。
強く、強く。もっと、もっと強く。
割れんばかりに力をかけて。
人に殴りつけると殺せるだろうか。
「あれ? 裕介さんじゃありません?」
はっと、驚いて振り返ると素朴な少女がいた。
「手から血が出てますよ! 消毒しないと」
俺は握り締めている石を離した。
柔らかな匂いが鼻をくすぐって怒りが何処かへ遠のいた。
目の前にいる娘を、抱きしめたい衝動にかられた。
彼女は俺の元彼女の妹。
俺の元兄貴の元彼女。人の繋がりはややこしい。
(了)