【 共同生活 】
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151 名前: 土木施工”管理”技師(兵庫県) 投稿日:2007/04/21(土) 19:23:06.84 ID:k2njA/EL0
「それでね、あの何とかっていう人が演技へたくそでさー」
「はあ」
 俺と女友達のSはコタツに入っていた。
「あそこのチョコレートケーキ、全然甘くなくてさー」
 俺は聞いてない。ゲームやってて忙しいから。
「学校行ったら○○が××と仲良くなっててさー」
「うん」
 俺は聞いてない。
「それでねー、○○にとったら△△なんだって言うんだけど、私は違うと思ったんだよねー」
 次が難しいんだよな……あ。
「うん」
「やっぱりさー、□□にはそういうのって大事だと思うんだよねー」
 何にとって大事なのかわからない。「そういうの」が何なのかもわからない。
ついでに何で俺の「うん」っていうのがどうしても必要なのかわからない。所々で必要になるみたいだが。
「あ、6時になったよー。テレビ見るね。」
「セーブしてないから待って」
「えー」
 なおも俺が黙々と来た道を引き返していると、Sは席を立った。
「カップラーメン持ってきたよー」
 カップラーメンかよ、といいたい所だが、早く食べられるのでこちらとしてもありがたい。
黙ってすすっていると、Sがまたうるさかった。
「それで、この前食べに行った○○のアイスクリームなんだけど、あっさりしてておいしかった」
「へえ」
 先ほどよりちょっと興味がある度合いが上がったような返事をしつつ、テレビを見た。笑い声がやたらと聞こえる。
「私残しちゃおうかな……」
「またかよ」
 つい言ってしまった。そんなことより俺のゲームを中断させてまで見たかったのがそんな続き物でもないバラエティーだったのか、
アイスクリームを冬に食べに行くなよ、もしかしてスーパーとかで売ってる奴か、そこまでして食べたいのかとも思わなくはなかったが。
 さて、食ったら寝るのではなくゲームを再開しよう。Sの方を伺いながらリモコンで「入力」を押してビデオの画面に変え、ハードのスイッチを入れる。足で。

152 名前: 土木施工”管理”技師(兵庫県) 投稿日:2007/04/21(土) 19:24:20.87 ID:k2njA/EL0
「お兄ちゃん食べてよ」
「うん」
 あ、うんじゃなかった。食べるけどさ。今忙しいから。
「じゃあこれ持ってくね」
 Sは容器を片付けに行った。俺はレベルを上げている。何回も見たエフェクトを飛ばせないのはつらい。
 え、話が進まない?そうかそれなら……仮にSは妹と呼ぶことにしよう。その方が早い。
 俺は俺だ。俺と妹はいつもこうやって仲良く?やっているが、男女のなんたらかんたらではない。
 俺にはいわゆる「モトカノ」が居たが、俺があまりにもだらしないのを見て逃げていった。まあ当然だ。
 妹にもいわゆる「モトカレ」が居たが妹はよく分かっていなかったらしく、そのまま愛想を付かされたらしい。妹から聞いた話からの想像で、どんな関係だったかはよく知らないが。
 そんなわけで、俺達は失恋したもの同士仲良く身を寄せ合って暮らしている。家賃も1人かからないし。食費も光熱費も浮くし。
 端的に言って、今の俺は家に引きこもる存在だ。引きこもるために存在しているかのようである。
妹は健全なので、この家全体としては成り立っている。収入源は妹の衣服を売った代金と、妹のバイト代である。
もちろん仕入れ値なんか吹っ飛んでしまうぐらいの高値で売り飛ばす。基本だ。当たり前だ。そうでなくて、親が買った家のローンまで払ってやっていけるか。
後はテープ起こし、ボールペン作り等々……しかしこれはいわゆる暇つぶしで、収入の内訳では服の売却代金が大半を占めていた。
 しかし男は実に馬鹿である。実によく売れる。ボロ儲けとはまさにこのことを言うのではないか。
卸してる店の店主は、リピーターが付いてると言っていた。信じられない……いや、実にありがたい話だ。妹が店頭で襲われたりしないかはちょっと心配だが。
 まあそんなわけで、俺達二人はその日暮らしのように見えて意外と心安らぐ毎日を送って……え?ヒモはかっこわるい?
いや、そんなことはない。内職のバイトが何もない時は俺もエロ同人を書いたり、エロ小説を書いたりして委託してるし、これで結構忙しい。
それに、着てる服がボロボロになってきたら妹の服としてヤフオクに出している。男物と言うことで一層喜んで買ってくれるらしい。ちゃんと収入に貢献しているではないか。
この前なんかめんどくさくなったので、パンツまで一緒に出してしまった。ちょっと冷や冷やしたが、なおのこと一層喜んでもらえたらしい……物凄い値段が付いていた。
心配は杞憂だったわけだ。案外、俺1人でもやっていけるんじゃないだろうか。マジで。

「それまだやってるの?面白い?」
「うん。ボス倒さないと先に進まないから。」
「うーん……後でロボミッションしよ。私は明日の売り物の準備してくるから。」
「いってらっしゃい。」
 妹は部屋に戻っていった。じゃあメタルマグネット3の続きは明日にするか。誤解のないように言っておくと今やってるのはエンボストリップ5だから全然違う作品だ。
気分を入れ替えたかった所だ、本でも読んで待つか。

153 名前: 土木施工”管理”技師(兵庫県) 投稿日:2007/04/21(土) 19:25:59.37 ID:k2njA/EL0
 プルルルル……
 電話か。鬱陶しい。興が削がれる。全く不愉快だ。
 一応説明しておくと、まともな用事で電話がかかってくるっていうのはアクシデントというか、事件である。
この家にかかってくる電話は手当たり次第にかけてくる勧誘か、詐欺か、公共機関からの反吐の出そうな用件でほぼ全部だ。
でも出ないと人に心配されるので、仕方なく出ることにしている。人にだらしないとか常識がないと思われることほど恐ろしいことはない。
「はいもしもし」
「あ、こんにちは!あの……葛澱君のお宅ですか?」
 ああ?言われなくてもわかってるよ。
「本人ですけど」
「あ、文化論と共通英語の授業で同じ鈴原っていう者です。あの、今日来てなかったよね?今日の連絡事項、メールに書いて送っといたから」
「え?うん、鈴原さんありがとう。助かったよ」
 俺はケータイを持っていない。パソコンに送っても俺が見ないかもと思って、わざわざかけてきたらしい。
「うん。もし大事なことがあったら、また連絡するね。ノートとかは必要?」
「うん」
「そっか。ずっとさぼってたから心配だったんだよ?えっと……必要だったら、声かけてね。授業は大体出てるから」
 ……そうですか。
 ええと……親切な人もいるもんだと思うが……こういう世話焼きからかかってくる電話はなかなか切れないのが問題だ。
それにどこから家の電話番号を聞き出したんだ?高校の名簿でも取り寄せたか?
「うん、助かるよ」
「うん……じゃあまた今度ね」
 ガチャン、ツー、ツー……やっと切れた。やれやれ。
モトカノじゃなくて良かったよ。しつこいのだけは勘弁して貰いたいものだ。
「あ、お兄ちゃん電話?」
「うん、学校のな。用事が出来たからもうちょっと待ってくれ」
 戻ってきた妹に返事をしながら思う。目下の所、俺は妹の保護者としてやっていかなきゃならない。
その役割を果たすのは他でもない自分だ。だから……得になる話を見逃すわけにはいかんのだよ君。え、いやちょっと。

154 名前: 土木施工”管理”技師(兵庫県) 投稿日:2007/04/21(土) 19:27:07.67 ID:k2njA/EL0
「全くもう……ギリギリまで連絡の一つもよこさないで。何なのよその人は」
「うん。貧乏学生だから、一緒に暮らしてる。」
「そう。」
「あ、お水くださーい!」
……挨拶しろよ。
「ふーん……じゃあ、しっかり世話になってるんだ。」
「別に一方的にってわけじゃないぞ。共存共栄だ。」
「共存?同類で集まってるだけじゃないの?」
 ご名答。
「とりあえずカツ丼」
「え〜っとー、メロンソーダとウーロン茶と海老とチーズのドリアください」
「ええ、ちょっと待ってね……お愛想御膳で」
「かしこまりました」
 ウェイトレスはお決まりの文句を並べた後、奥へ戻っていった。
「……お菓子は食べる?」
「別に」
 駄菓子で十分だからな。
「お金は持ってる?」
「ちょっと」
「私、いっぱい持ってきましたよ」
「じゃあ、何か必要なものは?」
「……おやつかな」
「はあ?あんた、さっき要らないって……」
「駄菓子だよ。それからすぐ飲める緑茶と米も買っとかないと」
「それで全部?」
「ああ、ありがとう」
「麦茶なら私が作りますよ?」
 それはそうと、うまいなこのカツ丼。
「ええと、1時に入り口の時計の前集合で。本屋には寄る?」
「いや、いい」

155 名前: 土木施工”管理”技師(兵庫県) 投稿日:2007/04/21(土) 19:28:43.88 ID:k2njA/EL0
「じゃあ、お金払っとくからね」
……そう言ってIは出て行った。

 俺達が二人並んで仲良く待ち合わせの場所へ行くと、Iは出っ張りに腰掛けて待っていた。
まずIがケーキを買うのに付き合い、その後俺の服を買いに行った。Sは途中で帰った。
「はい、あんたにはこれが似合うわ。流行も考えてね。これだと地味すぎるし」
「わかった」
 面倒なので大きいサイズにしたが、一応試着することになった。何というか、服を買う以上体裁っていうのもあるし。
「葛澱?」
 試着室にで着替えていると、Iから声がかかった。
「え?」
「今日来てたあの……賑やかな子、あんまり連れて来ないで欲しいんだけど。調子狂っちゃうから」
 ええと、そうですよね。そこが指摘されないんで気になってました。かなり。
「うん。Sって言うんだけど、外出るのあんまり好きじゃないんだって」
「そうなんだ。いいじゃない、退屈しなくて」
 ええと、すいません。
「この後、22nd Streetのケーキ食べに行かない?」
「うん。お金出すよ」
「いいのいいの、私が出すから」
 ええと、何かもうすいません。もうごめんなさい。

156 名前: 土木施工”管理”技師(兵庫県) 投稿日:2007/04/21(土) 19:30:09.85 ID:k2njA/EL0
「ただいまー」
「あ、お帰りお兄ちゃん!劇鉄やろー」
「うん、手洗うからちょっと待ってて」

……え、何か?あの後ケーキ食べて2人でワイドショー的なことを話して、それで帰りましたが?
「お兄ちゃん4Pねー、今3位だから」
「微妙だな」
「だって強い奴だよ?」
 サイケな色使いの絵が画面に映っている。



……コタツ出しっぱなしだな。ほこり取らないと。
「おにいちゃんのターンだよー」
「ああごめんごめん」



……何か不明な点でも?あ、22nd Streetっていうのは喫茶店の名前ね。



 さて、じゃあ今日の残りの時間だらだらして過ごすか。



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