【 妹が呪文をかけに部屋に来た 】
◆VXDElOORQI




520 名前: 貸金業経営(チリ) 投稿日:2007/04/16(月) 00:04:22.25 ID:pqyRbaC80
「今からお兄ちゃんに魔法をかけたいと思います」
 また妹がわけのわからないことを言い出した。
 この前は『お兄ちゃんを調教します』で今回は魔法か。
 今度は一体なにする気なんだ。
「その杖でか?」
「そうです。この杖でです」
 妹が手に持っている杖はピンク色をした棒の先端に星マークがついた、なんというかあ
りきたりなデザインだった。
 昔のアニメに出てきそうなデザインをそのまま拝借したような感じと言えばわかりやすいだろうか。
「その呪文とか唱えちゃったりして?」
「呪文は使いません。『えいっ☆』と掛け声かければイチコロです。『☆』これがポイントですね」
 俺をイチコロにする気か。
「ま、まあいいや。でなんで制服着てるんだ。魔法少女ならこうもっとヒラヒラっとしてピンク色の
ドレスなんかを着るもんじゃないのか?」
 妹は自分が通っている学校の制服に魔法の杖というファッションをしていた。
 漫画やアニメでは魔法少女と言ったら大抵変身して、可愛らしいドレスを着ているものだが。
「これはこれでまにあごころをくすぐるので、これでいいのです。本当はドレス着たかったのですが
おこづかいが足りなくて断念しました」
 おいおい、なんで涙目になるんだよ。あとでおこづかいあげるから泣くなよ。
「そ、それで、俺になんの魔法をかけるわけ?」
 今にも瞳から涙が零れ落ちそうな妹の気を逸らすために急いで話題を変える。
「こいの魔法です」
 涙を貯めた目を擦りながら妹は答える。
「鯉の魔法か」
 そういえばそろそろ子供の日だな。つまりあれか。鯉のぼりが欲しいってことか。女の子なのに変
わった趣味してんな。俺が子供のときに使った鯉のぼりどっかにしまってあったような。どこにしま
ったかな。
「違います。鯉じゃありません。恋です」
 鯉じゃなくて恋? 恋っていうとあの病の原因だったり、甘酸っぱかったりするあの恋か? その
恋の魔法を俺に?

521 名前: 貸金業経営(チリ) 投稿日:2007/04/16(月) 00:04:51.06 ID:pqyRbaC80
「あーつまり俺は魔法の実験体ですか?」
 それ以外に俺に恋の魔法をかける理由が思いつかない。
 きっと好きな男の子でも出来たのだろう。そいつにかけるためにまず俺を実験台にしようってこと
に違いない。その男にあったらぶん殴ってやる。
「違います」
 ん? 実験体じゃないのか。
「じゃあなんで俺に?」
 妹はほんの少しだけ眉間に皺を寄せる。どうやら少し怒っているようだ。
 なんで怒ってるんだろう。
「もういいです。今からかけるのでじっとしててください」
「いや、だからなんで俺に」
「いいからじっとしててください」
「はい、すいません」
 妹の目が怖いので黙っていうことに従う。
「えいっ☆」
 妹は律儀に語尾に『☆』をつけて杖を振るう。セリフが棒読みなのが玉にキズだが。
「どうですか? 私のこと好きになりましたか?」
 どうですかと言われてもね。
「俺は元々お前のこと好きだよ? たった一人の妹なわけだし」
「その好きじゃありません。どうやら失敗してしまったようですね」
 その好きじゃないってどういうことだ。好きになりましたか? と聞いておいて、好きだと答える
と、今度は、その好きじゃありませんって。まったく意味がわからない。好きは好きじゃないのか?
「これではダメなようですね。こうなったら最後の手段を使うしかないようですね。もうこれは用無
しです」
 妹はポイっと杖を投げ捨てる。
 おいおい捨てるのかよ。
「次の魔法をかけます。目を閉じてじっとしといてくださいね」
 さっきより目が据わった妹に逆らえるはずもなく、ただ黙った首を縦に振る。
「じっとして、私がいいと言うまで絶対目を開けてはダメですよ」
 妹がすぅはぁと深呼吸をしている音が聞こえてくる。

522 名前: 貸金業経営(チリ) 投稿日:2007/04/16(月) 00:05:19.34 ID:pqyRbaC80
「ではいきます」
 目を閉じじっと待っていると妹の息が顔にかかることに気付いた。妹は俺に顔を近づけてきてるよ
うだ。一体なにをするつもりなんだ。
 なんてことを考えていると不意に俺の唇なにか柔らかで温かいものが触れた。
 それはほんの一瞬。すぐにその感覚は失われたが、俺には妹がなにをしたのかすぐにわかった。
 キスだ。
「もういいですよ」
 目を開け妹の顔を見ると妹はさきほどまったく変わらない表情で俺を見ていた。
「どうでした?」
 どうって言われても、そのあれだ。なんでキ、キスなんか。えっとだな。あれだよ。あれ。
「これもダメでしたか」
 俺が混乱してなにも言えないでいると妹ははぁとため息をつくと踵を返し部屋の扉へと足を向ける。
「あ、ちょっと」
「次の魔法、考えてきます」
 妹はそう言うと部屋から出て行った。
 
おしまい



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