【 君の箒になりたい 】
◆bvsM5fWeV.




297 名前: ひちょり(アラバマ州) 投稿日:2007/04/15(日) 16:34:24.57 ID:U98IylZ90
 アホみたい、とマリカは思った。というよりずっと思っていた。車だって飛行機だってヘリコプターだってある時代になんで箒にまたが
って空を飛ばなければいけないのだろう。コンビニやスーパーが空に浮いてるなら話は別だが、実際はそんなことはない。箒なんか無くて
も生きてゆけるとマリカは思っていた。
 帚にまたがって登校するせいで、パンツは丸見えだ。毎朝一限目が始まるころにはマリカの本日のパンツの色がクラスの男子に広まる。
「はあ」
マリカはベッドの中で溜息をついた。息と声の間くらいの溜息。パンツの色をクラスに広める憎らしいヤツを思い出した。佐東大祐は毎
朝頭上を飛んで行くマリカのパンツの色を確認するのが日課だった。本当は帚に食い込むマリカの股間を見ては毎晩それを思い出してセン
ズリをこいているのだが、クラスの男子にパンツの色を知らせるのが自分の役目、という意味不明な大義名分で毎朝マリカのスカートを覗
き込む。
さらにマリカはベッドの中で思い出す。
「やあ、本日は白でござるなあ。あっはっはっは」
 みんなの前でそんなことを平気で言う。ふざけて言う。
 何かとマリカにちょっかいを出す、嫌なヤツ。ゲス野郎。死ね。
「はああ」
 頭の中で佐東を四回ほど撲殺してマリカはまた溜息をついた。今度ははっきりと声に出して。怒気を含めて。
 ベッドから抜け出したマリカは
「お母さん、わたし今日から歩いていくから電車代ちょーだい」
 とだけ言ってむしゃむしゃとこんがり焼けたトーストをほおばった。

魔女の家系だってだけでクラスからなんとなく浮いちゃうし、友達とも距離が遠いような気がする。中学に入ってからそれをいっそう強
く感じるようになった。そういういろんな原因があって、最後の引き金が大祐のアホなのだとマリカは考えていた。
「あれ、今日はどうしたのかいっ!!」
アホの大祐だ。
「わかった、今日はアレの日だな。毎月の、アレ!! ということは白じゃない!! だから箒もまたげない!!!」
アホの愛情表現は空回りして、あまつさえマリカの神経をざらざらと逆撫でする。拳を固めたマリカは大祐の顔面を思いきりぶん殴った。

298 名前: ひちょり(アラバマ州) 投稿日:2007/04/15(日) 16:34:50.45 ID:U98IylZ90
マリカが帚を使わなくなって三日が過ぎた。
おばあちゃんはぽつんと土間に取り残されたマリカの帚を見るともなく見ていた。そして誰に話すでもなくつぶやいた。
「時代なのかねえ」
「年頃なんですよ」
マリカの母親がそれに応える。文子は奥で洗濯物を干している。
「いろいろと気になる年頃なんですよ。それに今の時代に帚で空を飛ぶなんてやっぱり変ですもの。わたしも魔女の伝統をマリカに押
しつけるのはよそうかと思っていたところですよ。むしろこれまでよく反抗せずに帚で通ってくれたと思って」
文子は慈しむように微笑んだ。
「たしかに褒めるべきなのかもしれないわねえ。こんな雨の日でもマリカは帚で学校に通っていたのだもの」
 おばあちゃんは遠くを見るような目で言った。視線の先にはどす黒く吹き荒れる空があった。
天気予報はここ数十年で一番大きな台風だと報じていた。

 折りからの台風にクラスはざわついていた。それでもやはり大祐はアホだった。
 「おい、西川貴教ごっこしようぜ!!」
と昼休みに友達を連れて上半身裸になって学校を飛び出した。びちびちびちっ、と大粒の雨が少年達の身体に散弾銃のように炸裂する。
地鳴りのような暴風は校庭の防風林をぐにゃぐにゃにしている。大祐達は学校のすぐそばの河原に降りた。河原は左右を小高い山にV字型
に挟まれた地形で、風が校庭よりも強く吹き溜っていた。
「こーごーえそーな、きせーつにきーみは、あーいーをどーこーゆうのー」
 「大ちゃん季節感ねーなー」 大祐はへへっと笑い、
「からだが、なつになーるー!!!!」と叫ぶ。
「大ちゃん、もう帰ろうよ」風が強くて聞き取り辛い。
「何言ってんの、やっぱこういうデンジャーなところでパフォーマンスしないと最大限の力出ないっしょ」
誰に見せるパフォーマンスかは分からない。大祐は何も考えていないのだ。
 「そろそろ本気で危ないよ。先に帰ってるよ」と言って大祐の連れ添いは河原を出ようとした。
 友達らとの距離が大分開いてからから大祐はやっと気付いた。
待ってよう、と大祐が友達に駆け寄ろううとした瞬間、大地が動いた。地滑りだった。友人達も物凄い地鳴りに後ろを振り向く。その瞬間、
多量の土砂が大祐を呑み、そのまま川へ押し出して行った。あまりに映画的で現実離れした光景だった。

299 名前: ひちょり(アラバマ州) 投稿日:2007/04/15(日) 16:35:12.39 ID:U98IylZ90
 担任の東川は驚いた。何の前触れもなしに半裸でずぶ濡れの生徒達が職員室に駆け込んできたからだ。
 東川は生徒から大祐が、と聞いた時点でどきりとした。そして河原で、と聞いてめまいがした。土砂崩れ、と聞くと天地が
ひっくり返った。川に流された、と聞いて卒倒しそうになった。東川がヒステリックに問い正す。
「それで、佐東くんはどうなったの!?」
 生徒があそこです、といって指さした先は学校のすぐ近くの河原の中洲だった。学校は高台にあり、窓から見下ろすところ
に中洲が見える。中洲は濁流に打ちつけられ、今にも消え入りそうだった。
 友人らはあの後大祐を追い、中洲にたどりつくところまでは見届けた。だが、それ以上は何もできなかったのだ。
  「全然見えないじゃないの!!! こんな日に中洲に行くなんてあんたたちバカよ!! バカ!!!」
 東川はすっかり取り乱している。中洲にいるのは大祐だけだ。
 「そういっても何も解決しないでしょう。まずは警察と消防を」
 他の教師が東川をなだめて受話器を取る。
 オペレーションセンターは無情にも学校付近の道路が土砂で埋もれていること、到着するのに二時間以上かかることを告げた。
東川をなだめた教師も動揺と苛立を隠せない。緊急で職員会議を開いている時間もない。男の教師たちは河原へ向かった。残さ
れた女性教諭の東川はこうなったら、とマリカを呼び出した。マリカは狐につままれたような顔で職員室に入った。
 「先生、どうしたんですか?」
 「あのねマリカちゃん、実は――」
 ――担任の話を聞いてマリカは「いやです」と一言だけ発した。大っ嫌いなアホの佐東がアホなことをして間抜けに死んでゆく
んだから、そのままにすればいいと思った。その方が社会のためにもなる。
 「お願い、佐東君を助けてあげて。それができるのはマリカちゃんだけなの」
 マリカは都合がいい大人にだけはなりたくないと思った。担任は佐東のマリカへの嫌がらせは知らんぷりだったのだ。
 「わたしあいつ嫌いだし、許せないんですよ。どれくらい許せないかというと、土下座させてその上からあいつの頭をふんずけ
て足を犬みたいにぺろぺろ舐めさてその後でぼこぼこに蹴っ飛ばしたら少しだけ許してあげようかなって思うくらい許せないんです」
 マリカはちょっと言い過ぎたと思った。これじゃあSMだ。責めるのは好きだけれども。
 突然、「わたしからもお願いする」といってすだれハゲのおっさんが出てきた。教頭だ。
 「そんなにお願いされてもわたし、箒持って来てないんです。飛ぶの止めましたから」マリカはぴしゃりと言い切った。
 すると待ってましたと言わんばかりに東川が掃除用具入れから自在ぼうきを取り出してきた。「箒があるなら飛べるのね」と瞳が語っている。
 マリカは仕方なくアホの佐東を中洲から引き上げることにした。
 ただマリカには一つだけ不安があった。自在箒で空を飛んだことが無かったのだ。

300 名前: ひちょり(アラバマ州) 投稿日:2007/04/15(日) 16:35:34.52 ID:U98IylZ90
 台風は昼休み時よりも強かった。天気予報のとおり、ここ数十年で最大級の台風だった。豪雨は窓から飛びだしたマリカを一瞬で
下着までずぶ濡れにした。かっぱぐらい着てくればよかった。マリカはびちょびちょになって後悔した。
自在ぼうきも使いづらい。少しでも気を抜くと箒の柄を軸にぐるっと半回転して「豚の丸焼」のような体勢になってスカートがめくれあがる。

 大祐は死にたくない、助けて、ごめんなさいとアホながらも必死に祈っていた。キリストからムハンマドまで、
思い付くかぎり全ての宗教者へ祈りを捧げた。一通り祈ってなにも起こらなかったので、死ぬ前にマリカのパンツでオナニーをしようと思った。これでこの世の未練は無くなるのではないかと考えたのだ。
 大自然に囲まれてのオナニーも乙なものだ。と大祐は倒錯した性欲を持て余す。大祐がズボンのチャックを下ろそうとした時、
 「佐東!!」
 とあり得ない方向からマリカの声が聞こえた。大祐は声の方向を見やった。
 「あわわ、マリカー!!」
 大祐は神々に祈っていたのだが、皮肉にも助けに来たのは魔女だった。マリカは中洲が沈むのは時間の問題だと考えた。
 「早く後ろに乗って!!」自在ぼうきは佐東を乗せて一瞬ずしり、と沈み込んだ。かなり不安定な状態だ。
 「うわー、マリカー、助かったよーありがとう」大祐はマリカにぴったりとくっつく。マリカは内心ウザいと思った。
 中洲はから十メートルほど浮いたところで、これまでで最も強い風が吹いた。二人を乗せた箒はくるっとひっくり返り、
二人を「豚の丸焼」状態にした。
 「あばばあばー、落ちるー」大祐は必死に箒にしがみつく。マリカはなんとか体勢を立て直したが大祐はまだ「豚の丸焼」状態だ。
反転したはずみでマリカのスカートは思いっきりめくれあがっている。しかも水を吸ったスカートとシャツは強力にくっついている。

 つまり、マリカはパンツ丸出しで箒にまたがっている。
 大祐はそれを下から覗きこむように箒にしがみついている。今日は白だった。


301 名前: ひちょり(アラバマ州) 投稿日:2007/04/15(日) 16:35:53.55 ID:U98IylZ90
 今、大祐は毎晩おかずにしていたマリカのパンツに最接近している。こんなに真近でマリカの食い込みを見るのは初めてだ。
自在ぼうきは柄が細いのでいつもよりもよく食い込んでいる。マリカは必死に箒を制御しているのでスカートがめくれているのに
気付いていない。「佐東なにやってんのよ、上にいないと箒扱いづらいでしょ!!」マリカに言われて佐東はなんとか身体を上
へ反転させようともがく。だがもがけばもがくほど大祐の顔はマリカのパンツに接近する。
 パンツはぐちょぐちょに濡れており、薄布の奥の形がはっきりと見て取れる。毛はうっすらと生えている。「だってよー」
と言う佐東は情けなくも勃起していた。
 また強い風が二人を煽る。箒は高度を水面すれすれまで下げた。
 「さっさと上に戻ってよ!! 死にたいの!?」箒を制御する手に力がこもる。柄がパンツにむにゅむにゅっと食い込む。
 「だって、マリカの、おまん……おまん……」ごーっという風が大祐の声をかき消す。
 風がごーっと吹いた時、大祐は鼻血を出した。水面すれすれを通過する恐怖とマリカの食い込みで大祐の血圧は急上昇していたのだ。
 「早く!! わたしはあんたと心中する気はないのよ!!!」と箒を強く揺さぶる。
 ついに大祐の下半身も決壊した。箒の振動が大祐の陰茎にとどめをさしたのだ。マリカは期せずして大祐をイカせてしまった。
大祐はうっ、と言って下半身から白い汁を出した。どくっ、どくっ、と陰茎が脈打つ。大祐はもう死んでもいいと思った。大好きな
マリカの割れ目をみて死ねるんだから思い残すことはなにもない。
 大祐は箒にしがみついたまま失神した。
 マリカは仕方ないのでそのままの体勢で河原まで向かった。鼻血だらだらで失神している佐東をほったらかして河原に大の字になる。
慣れない箒は使うものではない。消耗した精神に雨が染み入る。教師達がマリカを発見してばらばらと駆け寄ってくる。
 「マリカちゃん!!」担任の東川だ。
 「ああ、無事なのね!! 本当によかった!! 佐東くんは!?」
 担任は倒れている佐東を介抱しようとしてぎょっとした。佐東は顔から鼻血を、下半身から精液を出して「くいこみが、くいこみが」
とうわごとを言っていたのだ。東川は職員室でのマリカの言葉を思い出した。
 「まさか……二人がそんなSMじみたことを……でも佐東君はこんなになっている……」
 マリカは佐東の鼻血とうわごとを聞いてやっと佐東は自分のパンツをみて興奮していたのだと理解した。どうりで情けない声を
あげていたわけだ。それにこんな時にもパンツを覗くなんてマジで最低だ。とマリカは改めて佐東を軽蔑した。
 「マリカちゃん、あなたまさか……佐東君を足でいかせたの?」東川には妄想癖があるようだ。マリカはどいつもこいつも変態だと思った。
 佐東はそのまま保健室へかつぎこまれていった。身体から紅白の汁をたれ流しながら「くいこみが、くいこみが」と何度も繰り返していた。よほど素晴らしい食い込みだったのだろう。
 翌日から佐東の名前は「食いこみの佐東」になった。もちろん言い触らしたのはマリカだ。佐東は学校中から変態のレッテルを貼られた。

 マリカは箒での通学を再開した。ただし、スカートの下にはハーフパンツを履いている。
 大祐は、それはそれでそそられるなあと思った。                         ――了



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