【 俺をたぶらかす白と黒の服 】
◆InwGZIAUcs




260 名前: 理学部(愛知県) 投稿日:2007/04/15(日) 14:31:07.39 ID:4IIwontE0
 ここはメイド学校の受付案内所。
「すみませーん。メイドさんを紹介して貰いに来たんですけど」
 剣術学校を卒業した俺は、一人前の冒険者になる為ここにやってきた。
 旅には必ずと言って良い程魔物に遭遇し戦闘することとなる為、パートナー、もしくはチーム
で行動することは当たり前なこのご時世。
 当然俺もそれに習って、パートナーを紹介して貰おうというわけだ。
 べ、別にメイドが好きなわけじゃないぞ! 
 ちょっとあのメイド服の白と黒のコントラストと、頭についているフリルのカチューシャがお気に入りなだけだ。
 可愛いなあメイド服。
 それに最近はメイドさんも魔法やら薬なんかを使って魔物との戦闘に参加したり、
身の回りのお世話も得意ときているから冒険者のチームに一人は欠かせない……らしい。
 何より、基本は身の回りのお世話なので、紹介されやすいのもポイントだ。


 俺は自己紹介カード(職業や、学校での成績が書かれたカード)を受付の眼鏡をかけた女性に渡した。
 このカードの条件で、パートナーになって貰える人を案内して貰えるというわけだ。
 それにしても綺麗な受付嬢だ。眼鏡もポイント高いぜ。
「剣士さんですね……あなたの成績ですと、この方達になりますね」
 眼鏡美人(勝手に俺命名)さんが提示した資料に目を通す。
 早い話、優秀な人程、優秀な人同士パートナーを組みやすいシステムと言えた。
 そりゃあ、足を引っ張るような人と冒険しようとは誰も思わないさ。
 んで俺みたいな劣等生(ほっといてくれ)も同様に、同じ背丈の者同士でいそいそとパートナーを組むのだ。
「うーーむ」
 予想していたけど少ないなあ。当然だけど、能力的にも俺に見合った人ばかり……でもなかった。
 あり得ない位優秀な人がいた。
 何コレ。このベル・ティアベルって人も選べるの?
 ベル・ティアベルさん。魔法の評価が「神。凄すぎる」ってなってます。
 一般的な魔法使いですら「結構魔法使える」か「まあまあ魔法使える」程度の評価なのだけど。
「このティアベルさんって?」
 何かの間違いではないですか? と言おうとした瞬間、眼鏡美人さんは待っていたかのように口を開いた。

261 名前: 理学部(愛知県) 投稿日:2007/04/15(日) 14:31:39.06 ID:4IIwontE0
「もちろん選べますよ。指名致しましょうか?」
 彼女が浮かべる苦い笑みに嫌な予感を覚えた。が、せっかくなので、
十八歳で俺と同い年の少女、ベル・ティアベルさんを指名することにした。



 そう、それはあっという間の出来事だった。
「ちょっときて下さいな」
 突然現れて、俺の腕を引っ張りメイド学校の広い運動場まで連れてきたのは、そうベル・ティアベルさん。
 おっとりとした雰囲気を漂わせる美しい横顔にドキリとする。
 なされるがままの俺。
 そして気付けば俺は、自前の剣を握ってベルさんの召喚したドでかい魔物と対峙していた。
「この魔物を倒すことができれば、あなたと組みすね」
 大胆な行動に反して、思わず見とれる程柔和な笑みのベルさんに俺は何も言えない。
 彼女は固まっている俺に「頑張って」と頬にキスをすると、少し離れた所へ移動した……。
 思わず戦闘状態に陥りそうな息子を必死になだめ、俺は魔物を見据える。
 ホント何この魔物。パッと見一人で戦う相手じゃないだろう……俺の二倍くらい背丈があるし。
口から火こそ吐いてないけど、緑色した煙吐いてるよ。絶対体に良くないって。
 いやまあでも、一人前の冒険者になると決めたんだからここで背を向けては駄目だよな……。
 修羅場の一つや二つくぐってやる。 
 幸運なことに、相手は様子を見ているのか仕掛けてくる気配はない。
 最大の一撃をお見舞いする絶好の機会だぜ。
 俺はありったけの闘気を剣に込めた。
 体内エネルギーである闘気を剣に宿すことにより、剣の鋭さ、威力は数倍に跳ね上がる筈だ。
 みなぎる気力に滴る汗。
 俺は走り出した。その勢いに任せ飛び跳ねる。

 斬!

 確かな手応えが俺の剣から伝わってきた。

262 名前: 理学部(愛知県) 投稿日:2007/04/15(日) 14:32:12.95 ID:4IIwontE0
 魔物の皮を切り裂く爽快な音が運動場に響き渡る。

 切れた!

 魔物が。
 薄皮一枚切られた魔物がキレちゃいました。
 もう駄目。俺闘気弱すぎ。お手上げだ。こうなったら逃げるしかない……流石に命あっての冒険だろ!
 追いかけてくる魔物から、俺は全速力で逃げ回る。すると、
「クス」
 そう聞こえた。ほのかに聞こえる笑い声。
 無我夢中で疾走している俺は、どういう経緯か分らないが、ベルとすれ違ったようだ。
 ――シュン!
 次の瞬間、甲高い音とあり得ない程の熱と爆音を背に受け振り返る。
 すると、メイド服をなびかせたベルが片手を上げ、魔物を木っ端微塵に粉砕しているのが目に飛び込んできた。
 その時俺は、ああ、メイド服が爆風ではためいて格好いいなあと夢見心地で思っていた。
 次第に熱波も収まり、いつの間にか尻餅をついていた俺をベルはじっと見つめる。
 そして笑い出した。
「クス……クク、クスクス」
 ええ、ええどうせ不合格ですよ。
 もういいさ、もう帰らせて頂きますよーだ。
 どうせ俺は引きこもって、メイドさんのプロマイドでも集めてた方がお似合いですよ。
「合格! 君ってば本当に弱っちいのですね! 今のは見かけ倒しの魔物なのですよ?」
 何? 喧嘩売ってるの? 合格? え? ごうかく?
 今なんて言いました?
 クエッションマークを浮かべる俺にベルさんは答えた。
「合格よ! 私君みたいな弱っちい人待っていました」
 とにかく大きなお世話はこの際おいておこう。
「私英雄モノが大好きで大好きで。君みたいな弱い冒険者志望の人を待ってたのです。……メイド学校で待っていれば、
オタク崩れのヘタレ君がやってくるとは思っていましたが、まさかこんなに分りやすい人が来るなんて……クスクス」
 後半はベルさんの小声の独り言……って聞こえてますよ!

264 名前: 理学部(愛知県) 投稿日:2007/04/15(日) 14:32:44.22 ID:4IIwontE0
「英雄モノって言うとアレですか? お姫様を悪いドラゴンから助け出したり、
世界が闇に包み込むような魔王を倒したりするような……子供向けの作り話の事でつか?」
 その俺の言葉にベルさんムッとした表情を作ってみせた。
 ああ、可愛いなこんちくしょう。
「このお馬鹿さん! 英雄モノはとても奥が深いのです! オタク崩れのあなたに子供向けと言う資格はありません!」
「……スミマセン」
 それ言われたらグウの音もでないさ。
「つまりですね、私は君みたいな弱っちい奴を助けながら冒険がしたいのですよ! ヒーローみたいに! 
 あらゆるピンチから守り抜く為に、私は一所懸命魔法勉強したのでお任せあれ!」
 胸を張って豪語する彼女は本気だろう……。
 俺は、どうするべきか?
「迷ってますね?」 
 その言葉と笑みに嫌な予感を覚えたが、時は既に遅かった。



「わかったわかった! 自分でやるってば!」
 その後、最初に訪れた眼鏡美人のいる受付で、有無を言わせないベルさんの強引な手段(人体操作の魔法)
で手続きを済まされた俺。
 それが地獄への片道切符でないことを祈ることにする。
 しかしウキウキでハイテンションなベルさんの背を追おうとした時、受付の眼鏡美人さんに呼び止められた。
 そして彼女は、耳打ちするように声を小さくして俺にこう告げた。
「もしも、彼女があなたの手に負えないランクの魔物を討伐しにいこう! とか言い出したら逃げるのが得策ですよ?」
 言われるまでもない。
 さっきもベルさんの召喚した魔物から逃げ回る位だからな。その心配はないぜ。
「大丈夫ですよ」
 笑って答える俺に、彼女は眼鏡を外し、潤ませた瞳で俺を見つめた。
 な、可愛い……。
「お願い……行かないで」
 何を言い出すのいきなり! てか眼鏡外したギャップが堪らないぞおおおお!

265 名前: 理学部(愛知県) 投稿日:2007/04/15(日) 14:35:35.76 ID:4IIwontE0
 俺が固まっていると、眼鏡美人さんは急に冷めたように眼鏡をかけ直し、冷めた声を投げかけてきた。
「この程度の女の武器で固まってしまうようでは、ベルさんのおねだりには抗えないでしょうね」
 ……この学校の人には驚かされてばかりだと思う。
 すると、ベルさんが現れた。後ろに俺がついてきてないことに気がついて戻ってきたようだ。
 すると彼女は、いまだ動けないでいる俺の首根っこを掴んで校門へと引っ張っていった。
 遠くなっていく美人眼鏡さんに言いたい。
 合掌するのは止めてくれ。
「さあ、早速魔物をぶったおしに行きますよ!」
 そんな明るい笑顔で物騒な事を言わないでくれ。
 というか戦士顔負けの力で引っ張られる俺が酸欠で気を失っていることに早く気付いてくれ。
 ……さい先は極めて不安。
 理由は簡単、この先も俺はこの白と黒のコントラスの女性には逆らえないだろう……。
 でも、悪くない。
 


 終わり



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