【 魔女は実在するかについて 】
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228 名前: 国会議員(兵庫県) 投稿日:2007/04/15(日) 11:32:22.72 ID:OXV7nNWE0
 今日は土曜日で、今は朝だ。かといってすることもない。もちろん常識的な意味でである。
つまりどこかに出かけたり、人と話したりしないという意味である。
 今は起きたばかりだが、もし寝ぼけた頭で必死になって、平日が来るまでの近い将来の自分の行動を一々段取りをつけて思い描いて、
さらにそれを懐疑的に検証してみても、その近い未来の自分の行動は揺るぎなく確実だと断言できる。
 もっともそんなことしないが。

 いつも寝ているリビングは比較的広く、机などがあっても部屋の中央の空いた場所に布団を広げることができる。
 もし自分が一人暮らしのサラリーマンなら、悠々自適な生活を送っている人だと思われるだろう。正確に言うと、
もし僕が毎朝決まった時間に家を出、決まった時間か夜遅くに帰ってきて、同じアパートの人とすれ違うたびに挨拶をし、
ついでにもう少し年をとっていれば皆そう考えると思う。
 ここまで延々と述べてきたが、その人と親しいというのでなければ、人からどう思われていようと関係ない。
コーヒーがコップに注がれコポコポ音を立てるのを聞きながら、そんなことを考えた。
さて、準備万端整った。布団は押入れに突っ込んだし、朝食もゆっくり食べることにしよう。
そもそも、くそ面白くもない生活をしている人間に……いや、そんなことはどうでもいい。
 とにかく矛盾してるじゃないか。……明らかに。明確に。
 テレビの画面の中のキャラをジャンプさせたり、ダッシュさせたりしながら思う。朝食はちびちび食べた。
そもそも、人に向かって馬鹿にしたような物言いを堂々とできる神経自体どうかしている。
クソくだらないことをやってると自分でも思ってる人間が、人にクソくだらないことをやれという辺り、到底理解できない。スムーズな動きで敵を片付けていく主人公を引き続きスムーズに操りながら、そう思う。
 もし透明人間のように姿を隠してしまえるなら、どれだけ……あ、落ちた。
 この面は足場が少ないので、すぐに足を滑らせるのだった。
 
 兎に角、外に出ても何もいいことがないというのが僕の結論だ。外に出て待ち受けているのは、神経を磨耗させるイベントと、
衰弱させるタスクしかない。
 ゲームのカセットや本の中には情報が詰まっている。数限りない現象と法則と経験が詰まっている。
 別に比較するつもりはないが、こっちのほうが素晴らしいし、これで十分だ。僕はおもむろに電源を切り、別のカセットを入れた。
 さてさて前回はどこまで進んだのだったか。僕もある種の超自然的な現象について真剣に考えていたことがあった。
 いや、唐突なようだが、別に誰かに語りかけているわけでもないのだ。兎に角あった。何か超自然的な現象が世に存在する
有形無形のさまざまな事象全てに対して働きかけていて、それが全てをバランスしている――言うのも馬鹿馬鹿しい。
 ともかく、そんな状態――「中二病」などというえげつない、使ってるほうもどうかと思われるような語感を持つ言葉で語られる状態――からは
とうに脱却した……いや、片足を突っ込んでいることは変わりない。

229 名前: 国会議員(兵庫県) 投稿日:2007/04/15(日) 11:34:42.92 ID:OXV7nNWE0
 だって、そうでなくてどうして社会に適応できるんだろう。
 三次元の空間を切り取る――自分が知っている範囲で――ことで、閉じた空間を作り出し、
そこにできた境界――貼り付けられたテクスチャのようなもの――を見て暮らすのが人間だ。もちろんこれは比喩でしかないが。
 何か超自然的な、窺い知れない物の存在というのは容易に想像することができる。それがないとは言い切れないし、あるとも言い切れない。
『なにやら考え事をしておるようじゃな』
 そんなことを考えながらも次々に面をクリアーしていたところ、後ろから重々しい声で話しかけられた。とたんに振り向くと、おばあさんが立っていた。

「おおすまん、普通に話さなくてはな……まあこんな風にしておる所を見ると、とんでもない大馬鹿者のようじゃな」
 おばあさんは背が低く、朱と茶を混ぜたような、まだらの色のワンピースを着ていた。袖が下のほうに垂れていて、茶色い髪はぼさぼさで
彫が深く、鼻は大きな鉤鼻だ。魔女か何かかもしれない。
 少し間があって、僕は愕然とした。こんな所にいきなり現れることができるなら、普通の人じゃない。勿論魔女か何かに決まっている。
「馬鹿と決めつけることもできんかの。お前が余りにもごちゃごちゃと考えておるんで気になっただけじゃ」
「とりあえず座らして貰うぞ。心配せんでも用事があってきてはおらん。聞きたいことがあったら聞いてもええ」
「ええと、こんな風にしてても、別に構いませんよね?」
 つい口をついて質問が出てしまった
「どういう意味じゃ?」
「いや、こんなことしてていいのかなって……」
「何を今さら。」
 首を傾げながらおばあさんは言った。
「別に構わんよ。ただ善悪で言えば、良くもないが悪くもない」
「ええと、そうですか」
 しばらく沈黙があったが、やがて僕が尋ねた。
「じゃあ、その……世界の真理っていうのはありますか?」
 言ってから「ありますか」じゃなくて「どういう物ですか」と質問するべきだったかなと思った。
 魔女らしきおばあさんは少し眉を上げしばらく黙った後、横を向いて顎に手をやりながら言った。
「そんな物はない」
 また沈黙があった。
「強いて言えば、それが真理かの。いや、真理などやはり存在せんな。聞いただけで寒気がするわい」
「そうですか」
「だが、それもつまらんじゃろう。いや、お前には関係ないのかの。では儂はもう行くぞ。次に会ったら、もう少しまともなことを聞くようにな」

230 名前: 国会議員(兵庫県) 投稿日:2007/04/15(日) 11:36:04.92 ID:OXV7nNWE0
 気が付くと、ゲームのキャラクターがスタート地点に突っ立っていた。タイムアップを繰り返したらしく、残機は半分ほどに減ってしまっている。テレビの前の床に座ったまま眠っていたようだ。
あの妙なおばあさんも、おばあさんが言ったことも、夢だったのだ。それにしては妙にはっきりしているが、後から考えるとあれが現実なわけがない。
この部屋は無人の筈なんだから、母親が出てきたってもうちょっと驚くだろうに。
 でもこれではっきりしたことがある。幻想とはいえ、観念的な存在は時に形を持って現れる。それから……
 別にはっきりしたことなんてなかったか。クソ。寝過ごした。



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