【 もう一人の私の罪 】
◆L4/iHEg6iQ




87 名前: 巫女(東京都) 投稿日:2007/04/14(土) 22:00:35.56 ID:Y7Ym78Qg0
「そなたの『願いはなんだ』」
 私は眼前の男に魔法の言葉を投げかける。
「俺は……、俺はかなえと結婚したいんだ!」
 男が足元から闇に包まれていく。
「ふむ、そうか。では願いをかなえる前に一つ話をしておこう」
「――なんだ?」
 警戒したように後退りする男。少しばかり恐怖で色づけされた表情に追い討ちをかけるように言葉を紡ぐ。
「そなたの願い。それは、そなた達の関係に依らず人間との関りを捻じ曲げるもの。そういう類のものは願いの『代償』が大きい」
「代償……?」
 男はあまり理解してないかのような顔を見せる。
「そなたの『寿命』だ。この場合は八十年だな」
「そんな……何故そんなものが!?」
「私を誰だと思った? ただ願うだけで私が動くとでも?」
「じゃあ……俺の願いはない! 何もない!」
 今にも逃げ出さんとする男に止めの一言を投げかける。
「ふふ、その言葉を最初に言えば助かったものを……。まあ私の前に現れた時点でそれはない、か。どちらにせよもう遅い。願いはそなたが言った時点で叶えておる。では、寿命を戴こうか」
「ちょっと待っ……」
 男の顔まで闇が包み込み、やがて男だったものが闇から出てきた。


88 名前: 巫女(東京都) 投稿日:2007/04/14(土) 22:00:59.37 ID:Y7Ym78Qg0
 私は世間からは魔女と呼ばれる存在。こうやって願いの代償を頂き、それを私の寿命として貰う。
 そういう家系に生まれた。私の家系の女は本来全員寿命が短い。
 その運命に嘆き、私の遠い先祖はこの呪詛ともとれる魔法を発見した。
 先祖の中では魔法を決して使おうとしなかったものもいた。当然だ、人の命を貰ってまで生きようとは中々思えない。
 でも私は長く生きたかった。何故か。願いを叶えたいからだった。
 それは、まあその、わ、私だってさっきはあんな口調だったがまだ一応少女だ。――色恋沙汰である。

「おはよ慎也。起きて」
 私はいつものように彼を叩き起こす。
「んあ、おはよう佳奈、いつもすまない」
「いいんだけどね、別に。寝起きさえよければ。ってほらまた寝る!起きてよ!」
 そう、私は幼馴染を好きになってしまったのである。彼と共に末永く暮らしたいがため魔女となった。
 まあ好きになった経緯でさえありがちなのであえて詳しく言わない。

89 名前: 巫女(東京都) 投稿日:2007/04/14(土) 22:01:25.40 ID:Y7Ym78Qg0
「あー、今日の一つめの授業なんだっけ?」
「いつも言ってるけどホント勉強する気ないよね。数学よ」
 等といつもと同じ通学路、変わらない話をしていた――はずだった。

「そういえばさ、お前って願い事とかあんの?」
「なによ急に。そうね、長生きしたいのよ私」
 まだ流石に告白できる気持じゃなかったので少しだけ遠まわしに願いを教えた。
「なんだよ。すっげえ普通だな。なんか面白くないな」
「な、なによ別にいいじゃないのよ願いなんてそんなもんでしょ!?」
「そんなに怒ることないだろ?」
 そう、本当の願いが否定された気分になって
「じゃあ……」
 私は聞いてはいけないことを聞いてしまった。
 魔法の言葉ということを忘れて。

「じゃあさ、慎也は何よ!慎也の『願いって何かあるの!?』」

 私は魔法を彼にかけてしまっていた。彼の足元が闇に包まれる。
「え、ちょっと待っ……」
「あるぞ。え、えっと、好きだ! か、佳奈と結ばれたいんだ!」

 私は彼の話を聞いて、喜びとともに、彼を闇が包み込む様をただ見ていた。



BACK−魔女との約束 ◆gXIWJpzFXw  |  INDEXへ  |  NEXT−勉強中 ◆59gFFi0qMc