80 名前: ネットカフェ難民(和歌山県) 投稿日:2007/04/14(土) 21:55:36.81 ID:q7EXwg/H0
母が病気になった。あと数ヶ月の命らしい。
私は母を助けたかった。父を早くに無くし、女手ひとつで私を育ててくれた母に孝
行らしいことは何一つしてこなかった。
噂では「魔女が作る薬で治らない病気は無い」と言う。 私は魔女を訪ねた。
魔女は老婆・・・では無く若く美しい女だった。
「母の命を助けてください」
私は必死に頼み込んだ。しかし魔女は悲しそうな目をして言った。
「それはできません。確かにこの薬を飲めばあなたのお母さんは助かるでしょう
しかし、人はいつか必ず死にます。今回私が助けても次はどうするのですか?
その度に薬を寄こせとおっしゃるおつもりですか?」
確かにそうだろう、しかし諦める訳にはいかなかった。 私はなおしつこく食い下がった。
「仕方ありませんね 今回だけと約束してくれますか?」
とうとう根負けした魔女は私にもう一度「約束ですよ?」と念を押し、見た目よ
りもずっと重い1錠の薬が入ったビンを手渡した。
私は泣きながら魔女に礼を言い、帰路についた。そして母は助かった。
81 名前: ネットカフェ難民(和歌山県) 投稿日:2007/04/14(土) 21:56:32.05 ID:q7EXwg/H0
あれから何年たっただろうか・・・、数年後母は再び病気になったが私は魔女を訪ね
なかった。「今回だけ」と魔女は言った。約束であったし、薬をもらった経緯を話した
母も再び魔女の薬を私が得ることを望まなかったからである。
母が亡くなり数年後、私は結婚し娘が生まれた。幸せな家庭であったと思う。娘が病気にかかるまでは・・・
「後、数ヶ月しかもたないでしょう」
医師にそう宣言された。私は悩んだ。しかし、再び魔女を訪ねない訳にはいかな
かった・・・・魔女は以前と変わらぬ美しい姿だった。
「約束したはずです」
悲しそうな目でそう魔女は答えた。「今回は娘なのです。」私は食い下がったが、とうごう魔女がうなずいてくれることは無かった。
82 名前: ネットカフェ難民(和歌山県) 投稿日:2007/04/14(土) 21:57:36.13 ID:q7EXwg/H0
私はどうしても娘を助けたかった。あの薬さえあれば娘は助かるのだ! 無理矢理魔女を押しのけ、
魔女の家に押し入る、狭い家の中ー目当ての薬は目立つ場所に一つだけ置かれていた。
「やめなさいっ」
魔女は私の前に両手を広げ立ちふさがった。しかし私も引き下がる訳にはいかない
近くに置かれていたナイフを手に取る どうしてもこの薬は必要なのだ。
故意では無かった・・・ハズである。 しかしナイフは魔女の胸に深々と刺さっていた。 魔女は絶命していた・・・・
私は薬の入ったビンを握りしめ家に帰った。魔女を殺してしまった後悔よりも、この薬で娘が助かる。その喜びで私の胸はいっぱいだった。
83 名前: ネットカフェ難民(和歌山県) 投稿日:2007/04/14(土) 21:58:03.85 ID:q7EXwg/H0
娘の寝室に入る・・・・ベッドの上でやすらかに眠る娘を見る 安らかに眠ってい・・る・・・・?? 急に襲ってきた恐怖に耐えながらおそるおそる娘の掛け布団をめくると・・・ その胸には あのナイフが深々と刺さっていた。
震える手で息をしていない娘の顔を見る。・・・・どうして気づかなかったのだろう・・・ 娘の顔はあの魔女そっくりだったのだ。
84 名前: ネットカフェ難民(和歌山県) 投稿日:2007/04/14(土) 21:58:30.66 ID:q7EXwg/H0
ふと気がつくと 私は魔女の家の前に立っていた。 今までのは全部・・・夢???
年老いた魔女が悲しそうな目で
「あきらめなさい」
そう言って静かに扉を閉めた。 その悲しそうな目は若く美しい魔女と同じだった。
終わり