【 実例から見る宇宙時代の価値基準 】
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252 名前: ジャーナリスト(東京都) 投稿日:2007/04/08(日) 23:36:22.93 ID:S2cXmz8r0
排泄物の価値  星間交易会社社長、ヘストン・ガリバルディ氏へのインタビューより。
 そのころの俺は、バキュームシップの操縦士をやっていた。要するに汲み取り屋だ。
 昔、人類が数十年、あるいは数百年単位で宇宙を旅してた頃は、排泄物なんかは全部水耕農業プラントの肥料
として再利用してたらしいが、空間転移航法が普及した今じゃ、そんなことをしてる船なんてほとんどない。な
にせ、作物ができる前に船が目的地に着いちまうからな。
 そうすると航宙中に排泄物がたまってくるわけだが、そいつを宇宙空間に垂れ流すわけにはいかない。万が一
フリーズドライの糞尿が浮いてる座標に船が転移してきたら、とんでもないことになるからな。
 そこで航路局のバキュームシップが、航行中の船からたまった糞尿を回収してまわってるってわけだ。
 それでまあおれの話に戻るが、その時も俺はいつも通りに糞尿を回収して、適当なステーションに帰還しよう
としてたんだ。ところが、そこでいきなり転移機関に異常が起こって、例のあの星の近くの宙域に放り出された
わけだ。その時は、あんなことになるなんて思いもしなかった。
 着陸してみると、その惑星には地球産の昆虫が巨大化したような姿の知的生命体がいた。そう、ハエにそっく
りな姿のな。
 いまどきエイリアンなんて珍しくないが、そいつらは今まで人類が会ったことのある種族じゃなかった。いわ
ゆるファーストコンタクトってやつかな。記念すべき出来事なんだろうが、その時のおれは少しも嬉しくなかっ
た。なにせ、相手が相手だしな。
 それでそいつらがやけに近づいてくるんで、どうしてなのか聞いたんだが、奴らはこう言った。
 「あなたの宇宙船から、なんだか物凄くおいしそうな匂いがするんですよ」さすがハエだよな。
 そこで俺は、溜まりに溜まった排泄物を奴らに売ることにしたってわけだ。対価は星間交易のセオリーにのっ
とって貴金属で払ってもらった。全部で百万トンの排泄物を売ったら、なんと宇宙船が二隻ぐらい買えそうな額
の金になってたってわけだ。
 そうして大金を手に入れた俺は、その金を元手に会社を興し、成功した。あの時のことがなかったら、今でも
しがない一船乗りで終わっていただろう。まったく、世の中なにが起こるかわからないものだと思う。
 え? その後彼らとはどうなったのかって?
 それがな、俺は奴らと契約して、近いうちにさらに大量の排泄物を持ってくるから、その時のために金と運搬
用の機械を用意しとけって言ったんだ。なにせ大量に持ってくると、運ぶのも一苦労だからな。
 で、三ヶ月後に今度は二千万トンの排泄物を持っていったんだが、奴らは何の準備もしてないどころか、俺の
ことなんて知らないと言いやがった。
 なんと、奴らは一か月ほどで世代交代しちまうので、俺が契約した奴は全員くたばってたってオチさ。

253 名前: ジャーナリスト(東京都) 投稿日:2007/04/08(日) 23:37:13.29 ID:S2cXmz8r0
空気の価値  南天星間大学星間関係学教授、エリザベート・リー氏の講義より抜粋
 ……地球人類が宇宙に進出し、最初の地球外知的生命体に出会ってから千年あまり。今では人類とエイリアン
が交易を行い、利益を享受しあうことはごく当り前のことになっている。
 しかしながら、エイリアンたちとの交易が、常に人類にとってプラスになってきたわけではない。時には、彼
らとの交易が人類存亡の危機の原因となったことすらある。
 その最も有名な例としては、髪の毛座β星系の植物型宇宙人との間で起こった事件があげられるでしょう。
 当時は、いまだ人類が地球のみに居住していた時代であり、同時に地球温暖化がピークを迎えた時代でした。
 そのころはエイリアン達との交流の黎明期でもあり、髪の毛座β星人は、かなり早い段階で地球人との交易を
始めた部類に入ります。そして彼らとの間で最も盛んに取引されたのが、二酸化炭素でした。
 先にも述べたように温暖化が末期的症状を迎えていた人類は、温暖化の原因物質である二酸化炭素を有害なも
のとみなしていました。
 反対に、髪の毛座β星人は光合成に必要な二酸化炭素が、人口の増加によって慢性的に不足しており、彼らと
地球人との利害は見事な一致を見たのです。
 そのころは星間航行技術も未熟であり、二酸化炭素を直接輸出するには効率が悪すぎました。そこで、彼らの
一部を移民として地球に受け入れることとなったのです。第一期から第三期までの移民の総数は、二千万人にの
ぼりました。最初のうちは、二酸化炭素濃度が順調に下がって気温も安定し、彼らも十分な量の二酸化炭素を摂
取することができることになり、移民は成功かと思われました。
 しかし、髪の毛座β星人の繁殖力の高さは、地球側の予想をはるかに超えていました。今までになく多量の二
酸化炭素を摂取できるようになった彼らは、盛んに光合成を行い、大量の種子を作り出すようになりました。さ
らに人口が増え、彼らはその分多量の二酸化炭素を吸収するようになったのです。
 その結果、なんと地球に存在する二酸化炭素の量が足りなくなってきてしまったのです。温室効果ガスの濃度
が下がった地球では、気温が当初の予想をはるかに上回るペースで低下し、ついには平均気温が氷河期並になっ
てしまいます。地球人たちは、温室効果ガスの、地球の気温が下がりすぎないようにするという重要な働きを忘
れていたのです。
 そして地球人は、髪の毛座β星人を地球から排斥しようとし始めました。そのため髪の毛座β星との関係は急
速に悪化し、ついには人類史上初の星間戦争にまで発展します。長い闘いの末、第三星人の調停によって停戦し
ましたが、戦火による死者は当時の地球人口の一割にも上りました。
 この例が示すとおり、星間交流は我々の想像もつかないような結果をもたらすことが往々にしてあり、その利
益とリスクを正当に評価するには、幅広い知識が必要とされるのです。

254 名前: ジャーナリスト(東京都) 投稿日:2007/04/08(日) 23:38:23.00 ID:S2cXmz8r0
性の価値  地球人類諸星系連合対地球外知性体外交委員会、第二種機密指定外交記録音声資料(宇宙歴三百八
十二年に一般に開示)より。以下は地球側代表団と竜骨座α星人との会談の音声である。
 
 「するとあなたがた竜骨座星人にとって、その、SEXはなんら恥ずかしいこともなく、オープンなものなん
ですね?」
 「その通りです。我々は挨拶代わりに交尾しますから。地球人にとっては違うんですか?」
 「ええ。我々にとっては、それはあまりオープンものではなく、広言するのははばかられるものですから」
 「そうですか。それははなはだ意外ですね」
 (ここでしばらく沈黙)
 「そうすると、これは貿易の対象になるかもしれませんね」
 「どういうことですか?」
 「我々地球人にとって、SEXはただ生殖行動として以上の価値を持ちます。一方で、それはあまりオープン
なものではないので、SEXすることが難しい場合がある。結果として、地球人の、特に雄の中には、欲求不満
におちいるものが多くいるのです。
 そこで、そういった地球人達をあなた方の所へ連れて行く。そうすると、彼らも同じ地球人を相手にするより
も、はるかに簡単にSEXすることができることになります。あなた方にとってはただの挨拶がわりですから。
 幸いにも、我々とあなた方とは姿かたちがほとんど同じです。必ず需要はあります。そしてSEXしたら、地
球人はあなた方に対価を支払うのです。いかがでしょう? あなた方はただ挨拶するだけで金銭を得ることがで
きるのですよ」
 「それはすばらしい! ぜひやりましょう」
 「賛成していただいて嬉しいせすよ。それでは細部を詰めましょう。まずは……あれ? なぜそこで服を脱ぐ
のですか?」
 「なぜって、交尾するに決まってるじゃないですか」
 「ええっ? ちょ、ちょっと待ってください! あなた達も私達も全員男ですよ!」
 「なに言ってるんですか? これは私たちにとっては挨拶だって言ったじゃないですか。挨拶に男同士もなに
もないでしょう。我々の新たな門出を祝って、一緒に気持ちよくなりましょうよ」
 「ちょ、ちょっと、だから、そうじゃなくて! 我々にとってはそれはそうじゃなくて! だから、だからそ
れだけはやめ……」

 「うっ…………」

255 名前: ジャーナリスト(東京都) 投稿日:2007/04/08(日) 23:39:33.40 ID:S2cXmz8r0
文字の価値  超光速星間ニュースサイト「オメガステラ通信」の宇宙歴五百二十二年の記事より
 
 「文字輸出問題解決の糸口みえず」

 「地球人類諸星系連合の常任委員会で九月七日、オリオンβ星系人への文字供与問題について話し合われたが
ものわかれに終わった。
 この問題は、高度な文明と多くの人口をかかえながら、今まで文字というものを持たなかったオリオンβ星系
人が、地球側に対して文字の使用権と文字についての情報を買い取ることを提案してきたもので、どの文字をオ
リオン側に供与するかが焦点となっている。
 旧欧米文明圏の諸星系からなる、ネオサンフランシスコ条約機構側の、フレディ・ウェゲナー大使は、
『人類にあまねく普及している点から言っても、アルファベットを供与するべきである』と語り、連合もこれに
同調する動きがある。
 これに対し、旧東アジア文化圏の諸星系からなり、地球人国家中最大の人口を抱える東亜文明圏星系共同体側
の、グエン・シン・ヨシキ代表団長は、
『発音に頼る表音文字では、異なる言語体系と発音法をとるオリオンβ星系語に適用するのは不適当であり、表
意文字である漢字を供与するのが望ましい』
と主張し、会議は平行線のまま終わった。
 どちらも内心では自らと同じ文字を供与することにより、オリオン側との交易において優位を占めるねらいが
あるとみられ、問題の解決は十月の連合総会にまでもつれ込む見通しだ」

                          
                         地球特派員  カーネル・B・ブラックマン

 
 
                                        《了》



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