131 名前: アイドル(新潟県) 投稿日:2007/04/08(日) 17:33:38.11 ID:C89hx4ip0
この暑さはいつまで続くのだろう。いつになったら秋の到来は感じられるのだろうか。
炎天下の中、バスを待ちながらそんなことをゆらり、ゆらりと考えていた。
きっとわたしの目の前を通り過ぎてゆく人々は、わたしの瞳を見て虚ろだと形容するだろう。それに自分でも気付いてしまうほどに、
わたしはこの陽射しに負けてしまいそうになっている。今日は真夏日だからと言って着てきた半袖のブラウスも、いつもより少しだけ
短めのスカートも、何の意味も持ちえていないのだ。日光は自分を守るために身に着けているものの全てを通り越し、じりじりという
音を伴ないわたしを犯していく。
あと何分待てば涼しい場所へと避難できるのだろう、と細い柱に括りつけられたバスの時刻表を見て、まだ二十分以上待たなければ
いけないことを知った。その途端に脱力感が増し、ゆっくりと沈むようにわたしはしゃがみこむ。
近付いたアスファルトからは、まるで湯気が上がっているように見えた。サンダルを履いて露出された自分の足の指先を見ると、橙色
に塗られた爪だけが輝きを持っていて綺麗だと思った。それは、まるで太陽のような色をしている。自分の爪を見つめて、それから空
を見上げて、わたしは暑さからは逃れられないことを再確認した。
「……はあ」
わざとらしくため息をついて見たけれど、それは聞こえることも無く蝉の声にかき消された。夏に負けている、ちっぽけなわたし。
ふと、薬指にはめているリングを見つめる。太陽の光を受けてきらきらと光っていた。単純に綺麗だという思いと共に、何度も苦しんだ
思いが生まれ、わたしは侵食されていく。
ピンクの小さな石が付けられただけの、特別に高級な訳でもないこの指輪。三年前に亡くなってしまったあの人がくれた指輪を、今も
わたしは持ち続けているのだ。あの人が死んでしまった悲しみを全く昇華しきれていない訳ではない。ただ、この指輪の価値を思うと、
身に付けずにはいられないのだ。
――あなたへのプレゼントを買った帰り道だったのよ。あの子が車に轢かれてしまったのは。
あの日おばさんが言った言葉が頭の中で蘇る。思い出して、ただ泣きたくなる。
あの人が夢に現れるたびに、わたしは何度も繰り返し言った。指輪なんていらないから、戻ってきてよと。
アスファルトに、わたしの涙が落ちて斑点を作った。
バスはまだ来ない。