【 卒業式に行きたくない 】
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569 名前: 動物愛護団体(チリ) 投稿日:2007/03/25(日) 23:34:04.38 ID:zQShORc+0
 カーテンの隙間から覗く空は真っ青で、絶好の卒業式日和だということは誰の目から見ても明らか
だった。
「今日は絶好の卒業式日和ですね」
 そんな感じで街頭で適当に捉まえた人に聞いてもきっと十中八九、イエスと答える。それほどまで
に卒業式日和だった。

 布団にすっぽりと頭から潜っている彼が布団の隙間から覗くもの。それはカーテンの隙間から見え
る例の絶好の卒業式日和の空。彼、カズヤはしばらくその空を忌々しげに睨みつけ、今度は隙間から
その空を覗くことがないよう、布団に潜りなおした。
「邪魔するぞ」
 その彼の部屋にノックもせず、いきなりやってきたのは一人の少女だった。
「む。やはりな。こんなことだろうと思っていた」
「何しに来たんですか。ハルカさん」
 布団の中のカズヤは無愛想にそう答える。
「卒業式には行かないのか?」
 カズヤからの返事はない。
 ハルカは人間一人分膨らんだ布団の前に屈み、腰まで伸びる漆黒の髪を耳にかけ彼の言葉を待つ。
 それでもカズヤからの返事はない。
「そうか。それが君の答えならしょうがない。君と……。いや、いい。とにかく残念だ」
 ハルカは少し悲しそうにそう告げると、ゆっくりと立ち上がり部屋の出口。扉へと向かう。
 扉の前でハルカは立ち止まり、振り返ってもう一度カズヤが潜っている布団を見つめる。
 沈黙がその場を包み込む。
 その沈黙を破ったのはカズヤだった。
「ハルカさんはいいんですか。俺たちもう同じ学校に通えないんですよ。一緒に登校することも、一
緒に弁当食べることも、一緒に授業サボることも。一緒に学校帰りに買い食いすることも。全部出来
なくなるんですよ」
 カズヤは布団の中から泣きそうな声でそう告げる。
「それはしょうがないことだ。いつまでもこのままでいることは出来ない」
「しょうがない? ハルカさんにはしょうがないで済む話なんですか?」
 ハルカはそれに答えず、扉から布団の前まで戻り、力一杯カズヤが潜っている布団は剥ぎ取る。

570 名前: 動物愛護団体(チリ) 投稿日:2007/03/25(日) 23:34:26.53 ID:zQShORc+0
 カズヤはうずくまっているかのように体を丸め、瞳には涙が滲んでいた。
 そのカズヤの顔をハルカは両手でしっかりと掴み、正面に向ける。
 じっとカズヤの目を見つめるハルカ。カズヤは眩しいものでも見たかのように、必死にハルカから
目を逸らそうとする。それでもハルカはカズヤの顔を両手でしっかり挟み、それを許さない。
「学校がなくなっても私達はいつまでも一緒だ。会いたくなればいつでも会える」
「こ、怖いんですよ。学校が終わったら俺達の生活も変わる。そうしたら、俺とハルカさんとの関係も変
わっちゃう気がして……」
「私は君が好きだ。今までもこれからもずっと。……これでは不足か?」
 カズヤは驚いたような顔をしたあと少し困ったような照れくさそうな顔をしたあとこう言った。
「いえ、十分です」
 ハルカはカズヤの顔を挟んでいた手をそっと離す。
「うむ。では行こう」
「はい」





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