【 『あなたの知らない世界』 】
◆SOS..QJZFc




650 名前: すくつ(糸) 投稿日:2007/03/18(日) 23:10:18.19 ID:2v+ZrhV90
ここは市街地から少し離れたところにある不動産屋。そして、私は店主である。
宅建の資格は持っていないから普通なら違法なのだろうが、気にせず営業している。
ここは場所柄、客の年齢層が恐ろしく広いが、金銭が絡まないから縄張りさえ気を付ければ滅多に問題は起きない。

久しぶりの客は十八世紀の落ちぶれた貴族みたいだった。だいたいにおいてこの手の連中は古城やら洋館がお好みだ。
「洋館をお願い出来るかな」
やっぱりだ、もうかなりの年数この仕事をしているんから勘はそれなりに当たる。
「どの辺りがよろしいでしょうか?」
「ジャパンならどこでも結構」
これは物珍しい依頼だ。ジャパンに洋館なんてあるのだろうか?
「では、また明日にでも来てください。」
私がそう言うと没落貴族様はさっさと帰っていった。
しかし、私の仕事はこれからが本番である。ひとっ飛びして物件を探さなければならないのだ。
私は物件ファイルを作っていないし、ここはパソコンがないので物件を探すには直接現地に行くしかない。

651 名前: すくつ(糸) 投稿日:2007/03/18(日) 23:11:08.14 ID:2v+ZrhV90
という訳でジャパンにやって来たのだが驚くべきことにジャパンは近代的だった。時の流れというものなのだろうか。
これなら洋館もすぐ見つけられそうである。
物件を探すにあたりいくつかの注意事項がある。まず有名どころの物件はNGだし、あまり人通りが多いところも良くない。
そして、なによりも先客がいないのが大事だ。
これらの条件を満たす物件はナガノの山中にあった。
全く意味がないが、シンカンセンとやらを使えば東京まで100分と交通の便もいい。

次の日、私が没落貴族様に物件を紹介するとすぐに物件まで案内してくれとせがまれた。
私達はひとっ飛びで洋館のもとへ向う。葉が見事に色付いた九月の山を飛んでいくのはなかなか気持ちがいい。
そうこうしているうちにだいぶ物件が近付いて来た。
没落貴族様はそれを見てしきりに頷いているので、きっと気に入ったのだろう。
彼は着地するとすぐにドアをすり抜けていった。これで仕事は終わりである。

足が無い私は帰りももちろん飛行だ。





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