【 映画 】
◆5GkjU9JaiQ




163 名前:映画1 ◆5GkjU9JaiQ :2006/04/23(日) 20:02:05.50 ID:SL7ZTlGEO
断言してもいい。
映画は家で観るべきだ。
高い金を払って映画館なんかに来る価値はない。
何故かって?じゃあ、説明しよう。

まず場内に入り、あの狭くて固い座席に座る。
そして両脇を他人が厚かましく占領してくるのだ。まあここまでは我慢出来る。
その状態で暫く待たされた後、照明が落ちて暗くなる。
ようやく始まりか、と思いきやスクリーンに映るのは見たくもない映画の予告編。
それも数本まとめて。これはちょっと苦痛だ。
お目当ての映画が始まっても、安息は決して訪れない。
暗闇の中聞こえる、喋り声。何かを飲食する音。遠慮がちなのがまた腹立たしい。
もし映画が傑作ならば、作品の半ば頃にはそれも静まり、
客は皆観ることに集中していることだろう。
しかし、そんな中でも必ず空気の読めない輩は居るのだ。
耳につくのは、いびき、歯軋り、不明瞭な寝言。
わざわざ金を払って居眠りをする神経が僕には理解出来ない。

164 名前:映画2 ◆5GkjU9JaiQ :2006/04/23(日) 20:03:56.32 ID:SL7ZTlGEO
苦汁を舐めさせられ続け、耐えた先にあるのは泣きのクライマックス。
そう、僕はこれを求めに来たのだ。
溜めに溜めた涙、いざ流さんとしたその瞬間に限って。何故。

場内に響くのは、主人公の悲痛な絶叫でも、ヒロインの甘い囁きでもない。
豪快なくしゃみ。
こうなっては泣くに泣けない。
僕はスクリーンに映る情景とその現実の落差を恨めしく思うしかないのだ。

以上、全部僕が過去に経験した事実だ。
全く、現実の空気を忘れることも出来ないのに、何で皆映画館に来るんだろう。
だから僕は、映画館は嫌いなんだ。

「ふうん。
 なのに、どうして来てくれたの?」

隣に座る女性は、僕に言った。

え?

聞き返すと、女性は悪戯っぽい笑みを浮かべながら続ける。

「嫌なら断っても良かったのに」

返す言葉を捜している内に、アナウンスが流れて場内はゆっくりと暗闇に包まれていく。
スクリーンに映るのは、退屈な予告編。
けれど、何故か僕の胸は高鳴っていた。

―了―



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