【 ハリーポッターとマンション暮らし 】
◆sTg068oL4U




138 名前:ハリーポッターとマンション暮らし(1) ◆sTg068oL4U :2006/04/23(日) 18:21:54.49 ID:InVQ86qj0
幽霊はやっぱり夜行性だろうか?でも明日は早い、今日は寝ることにしよう。
ハリーポッターのDVDを付けっぱなしににたまま床に付く。日用品はだいたい揃えた。
二人分のコップ、二人分の歯ブラシ、今日からは食事も二人分作った。
「彼女」がまだ成仏出来ずにいるとしたら、生活に不便がないようにしないといけない。

「彼女」とはこの部屋で自殺したかつての住人、近所では有名な「いわく付き」の人物だったらしい。
全身黒ずくめで昼夜問わず黒い日傘を差していた。人形のように整った顔立ち、
表情に乏しい白い顔と充血した大きな眼、触れただけで折れそうな手足。
それらが相まった「彼女」は不気味で得体のしれない人物だった。

139 名前:ハリーポッターとマンション暮らし(2) ◆sTg068oL4U :2006/04/23(日) 18:24:18.81 ID:InVQ86qj0
「彼女」はこのマンションの一部屋一部屋を訪れ、「私の部屋で一緒にハリーポッターを見ませんか?」と聞いて回っていた。
勿論誰からも相手にされず、しまいには誰もが呼び鈴を無視して急な来客を拒絶するようになったらしい。
助平な独身男でさえ気味悪がって扉を閉めたのだから、彼女ははじめから「幽霊」として扱われていたのだろう。

その「彼女」はこの部屋で自殺した。
誰からも拒絶された彼女の無念さ、それを思うとやりきれない。
上京して以来友達もできず、四角い部屋で団子虫の様に生きる僕には、
誰彼構わず人を呼びたくなる気持ちが痛いほどよく解る。
彼女が幽霊としてここにいるのなら、僕が彼女を一人にさせない。
生活に必要な物を揃え、大好きなハリーポッターを一緒に観よう。



140 名前:ハリーポッターとマンション暮らし(最後) ◆sTg068oL4U :2006/04/23(日) 18:27:07.67 ID:InVQ86qj0
朝起きたらテレビは真っ黒だった。当たり前かと思いつつDVDを取り出すと、
DVDは真っ二つに割れていた。食事の載ったテーブルはひっくり返され、
マグカップは流しで粉々になり、天井には赤い字で大きく「バカ!」と書かれていた。

「彼女」からの反応だろうか?だとしたら何がいけなかったのだろう?

そうか!何でこんな事に気づかなかったのだろう。
「彼女」はハリーポッターが観たかった訳じゃない、誰かと一緒に映画が観たかったのだ。
部屋で一人、四方から壁が迫ってくるような孤独を一緒に共有してくれる人、
それが彼女の望みだったのだ。「何を観るか」は問題じゃない。
ならばもっと沢山のDVDを借りてこよう、一日中映画を観ていよう、
今日は仕事も休みだ!僕は何処にもいかない。

家から飛び出した勢いそのままにエレベーターへ乗り込む。
僕の気持ちを察してか、エレベーター凄い速度で落下し、地面で粉々に砕け散った。

終わり



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