【 感動が売りの映画 】
◆9hFOOwtqQI




128 名前:感動が売りの映画-1 ◆9hFOOwtqQI :2006/04/23(日) 16:57:02.03 ID:69Sfp0VI0
日曜日、いつもなら十二時くらいに起きて、昼食をとって、ごろごろしながら
骨董品番組を見て値段に驚いたり、競馬を見て興奮したり、旅行番組を見て気分だけでも旅行に行ったりして、
特にこれといったことをせずに日ごろの疲れを癒しているのだが、この日は違った。
サラリーマンの誰もが嫌がる日曜出勤だった。
五時にやった仕事が終わったが、このためだけに外出したと思うとあまりいい気分ではなかったので、
最近やたらCMを流している感動が売りの映画を見ることにした。
館内は少し混んでいたが、空いている座席もあった。
今まで元気だった彼女が死ぬかもしれない、そんな内容だった。
感情移入せずにスクリーンを見ていると、左手を握られた。
とっさに左側を見ると、OL風の女性がいた。
彼女は右手で俺の左手を握り、右手に持っているドリンクを飲みながら無表情でスクリーンを見ていた。
周りには何人も人がいるので声を出すのをためらった。
もう一度手を抜いたが、手を握られた。俺は抜くのをあきらめた。
映画が終わった。そんなに面白くなかった。病気の彼女は結局死んでしまった。隣にいるOL風の女性はまだ俺の手を握っていた。


129 名前:感動が売りの映画-2 ◆9hFOOwtqQI :2006/04/23(日) 16:59:33.55 ID:69Sfp0VI0
「あの、手を離していただけませんか?」俺は映画が終わるこのときを待っていた。
おかげで映画にまったく集中できなかった。まあ、元からそんなに集中して見ていなかったが。
「ああ、すみません」彼女はやっと俺の手を離した。
「わざとですよね?三回もやったのですから。何がしたかったのですか?」
「すみません・・・迷惑でしたよね。お詫びをさせてもらえませんか?」
彼女さりげなく俺の質問を流した。
「食事一緒にしませんか私のおごりです。ここの一階のレストランの料理おいしいんですよ」
何回か断ったが俺は結局おごってもらうことにした。
彼女の言ったとおり、運ばれてくる料理はなかなかおいしかった。
話していくうちに彼女についていろいろわかったが、手を握った理由はわからなかった。
食事が終わり彼女はデザートを、俺はコーヒーを飲んでいるときに聞いた。
「なぜあんなことしたのですか?」
笑顔だった彼女の表情は暗くなり、黙ってしまった。
「私、癌なんだそうです」彼女は口を開いた。俺はその内容に驚きを隠せなかった。
「最初にあの映画を見たとき、彼女は恋人に大切にされ、看取られる。すごくうらやましく見えました。私には看取ってくれる人が誰もいないんです。誰でも良かったから相手をしてほしかっ・・・た・・・」
彼女はすべて言い終わる前に泣き始めた。



130 名前:感動が売りの映画-3 ◆9hFOOwtqQI :2006/04/23(日) 17:00:47.23 ID:69Sfp0VI0
どうやら彼女は映画と同じような状況になっても逃げないでいてくれる、最後を看取ってくれる男をさがしていたようだった。
ひっそりと死んでいくことに耐えられなかったようだった。


久しぶりにあの映画を見た。やっぱり面白くなかった。映画くらいハッピーエンドでいい。
俺は隣にいる妻の腹をなでた。
消えていく命と生まれる命、どちらも最後まで輝かせると、いるのかわからない神に誓った。

                終了



BACK−アフロの悪魔◆ZKiCFm8B3o  |  INDEXへ  |  NEXT−あいつと俺と彼女◆4lTwCuEYQQ