【 アフロの悪魔 】
◆ZKiCFm8B3o




105 名前: ◆ZKiCFm8B3o :2006/04/23(日) 15:16:19.42 ID:8PkMUoxR0
「あの、見えないんですけど・・・」
俺の戦いはこの一言から始まった。

今、俺は映画館に来ていた。
ジョッキー・チョーンの最新作 「VIP拳 〜萌えるツンデレ〜」を見る為である。
生まれも育ちもジョッキー信者の俺にとっては、この映画を見ないということは即、死に値する。
ジョッキーの最新作 オラ、ワクワクしてきたぞ・・・
内心の昂ぶりを抑えつつ映画館に入る。
座る場所は全体が見渡せる場所、そう、中央ど真ん中を選ぶ。
中央の方が画面全体を見渡せるしな・・・
ジャッキーの映画をスクリーンの隅まであます所無く見たい俺にとっては、
この選択は、自然と習慣化されていった。だが、そこにあの悪魔が現れたのだ、いやアフロが。
なんだこれは・・・
目の前は黒一色。
幾重にも絡み合う、禍々しい黒い髪が、俺の前に広がっている。
なんて大きさなんだ・・・
目測で全長1メートルはあるだろうか、そんな黒い塊が奴の頭の上にのっている。
まったく、前が見えない・・・
そうこう考えているうちに映画が始まってしまった。
館内のスピーカーからジョッキーの声が流れる。
「ブーン」
声しか聞こえない・・・
このままでは駄目だ。とにかく、スクリーンを見て状況を把握せねばならない。


106 名前: ◆ZKiCFm8B3o :2006/04/23(日) 15:17:22.10 ID:8PkMUoxR0
俺は体を少し左に倒す。
見えない。
今度は少し右に倒す。
もちろん、見えない。
ちっ、やはり駄目か・・・
なにせ、全長約1メートルだ。やる前から無駄だと、わかってはいたが、
ジョッキーを見るために、やらずにはいられなかった。
くっ、どうすれば・・・
それでも、映画はどんどん進んでいく。
このままでは、見れずに映画が終わってしまう・・・
内心焦りだした俺は、意を決して話し掛けた。
「あの、見えないんですけど・・・」
しかし、アフロは気付いていないのか、
何の返答も無い。もう一度話し掛ける。
「あの、アフロが邪魔で見れないんですけど」
そう言った瞬間、俺の顔めがけ裏拳が飛んだ。
危ない・・・
とっさに、右手でガードするもアフロと比べ体重が軽い俺は、軽く吹っ飛ばされてしまう。
なんて、パンチだ・・・
中央の通路に着地しながら、今度は後ろに飛んだ。アフロの追撃が来ていたのだ。
ダァァァン!!
アフロの蹴りが中央の通路を砕く。
「おい、アンちゃん 俺のアフロを馬鹿にするとは いい度胸じゃねえか」
床から足を引き抜きながらアフロが言う。
「邪魔なものは 邪魔なんだよ!!そんな髪形にして、お前、頭おかしいんじゃねえの?」
ブチッ
俺の暴言に対し、アフロから何かが切れた音がした、
その瞬間、俺の眼前からアフロが消えた。
「な!!」

108 名前: ◆ZKiCFm8B3o :2006/04/23(日) 15:18:28.91 ID:8PkMUoxR0
左右を見渡す、俺。
「どこに・・・?」
「後ろだよ、雑魚 死ねや!!」
俺の右脇腹に思い衝撃が走る。
早い・・・
一般客の座る席まで蹴り飛ばされる。このままでは一般客を巻き込む事になる。
このままでは駄目だ・・・
俺は右手を客の一人に突き出し、衝撃を与えぬよう姿勢制御を行う。
しまった、あれは・・・
ハゲだ。
さらに、脂ぎっている。
あれでは、手が滑って大惨事に・・・
しかし、それでも俺は手を伸ばす。
まだ、道は残されていた。
一本の毛だ。
禿げた頭の中心に、毛が一本生えている。
あそこを狙えば・・・
人差し指を突き出し、指運一つで体制を立て直す。
「ごめん 波平さん!!」
初対面なのに何故か、名前がわかったが、気にしない。
反対側の通路に着地しアフロを睨む。
「ほ〜う あんちゃん アフロじゃないのにやるねえ」
「今度はこっちの番、て事かな?」
俺は飛んだ。
今度はアフロが俺を見失う。
「なんだと!!」
「上だよ」
俺は天井に両手両足をついた状態で言う。
そして・・・
加速する。

109 名前: ◆ZKiCFm8B3o :2006/04/23(日) 15:19:51.35 ID:8PkMUoxR0
まずは、両手で天井を弾き飛ばす。
もっとだ・・・
状態が逆さになり、今度は足で天井を蹴飛ばす。
もっと、速く・・・
後は重力が俺を導いてくれる。
重力による更なる加速を受けながら、俺はアフロに迫った。
「その醜いアフロを、吹き飛ばしてやる!!」
「馬鹿め!!」
アフロが笑う。
「なに?」
そこで、俺は思いがけない攻撃を喰らう。
アフロのアフロが俺めがけて飛んだのだ。
「ば、馬鹿な!!」
「今度こそ死ねや!!」
アフロのアフロが俺に迫る。
あのアフロを喰らったら、死ぬ・・・
すぐに俺はそう悟った。
だが、俺は死ぬ訳にはいかない、ジョッキーの映画を見るんだ!!・・・
「ジョッキー!! 俺に力を貸してくれ!!」
「おk だお!!」
偶然か必然か
映画の中のジョッキーがそう言った。
ありがとう、ジョッキー・・・
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
俺は叫び、右腕を振りぬく。
重力加速度をつけた渾身の一撃だ。
「貫けえええええええええ!!!!」
俺の右拳とアフロが接触した瞬間。
映画館は、
光に包まれた

110 名前: ◆ZKiCFm8B3o :2006/04/23(日) 15:20:37.56 ID:8PkMUoxR0
光が収まった映画館の中、俺は一人立っていた。
買ったのか?・・・
俺は自分の拳を見る。
そこには、一本の毛が巻きついていた。
あの時の波平の毛?・・・
あの時、俺が姿勢制御を行う際に抜けて、
俺の指に絡み付いていたのだ。
「お前が俺を助けてくれたのか?」
返事と言うように、その一本の毛は、
俺の指からほどけ、風に乗って飛んでいった。
ありがとう、波平の毛・・・
心の中で感謝を伝える。
俺はまだまだ弱かった。
たくさんの人達の助けが合って、やっと勝つことが出来たのだ。
みんな、ありがとう みんなおかげで俺はやっと映画が見れるよ・・・
そう思って、スクリーンを見た俺は愕然とした。
吹き飛ばされた元アフロの禿げ男が、スクリーンに激突しており、
スクリーンはボロボロになっていた。
「う、嘘だろ・・・・?」
呆然と立ち尽くす俺は、駆けつけてきた警察官によって、
連行されていった・・・

BAD END



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