【 スクリーンの中の恋 】
◆qd25XT18e2




97 名前: ◆qd25XT18e2 :2006/04/23(日) 14:37:46.31 ID:0eM2bKOoO
映画館に男と女の二人だけが座っている。
二人は一目で恋に落ち、だんだんと席の間を縮め、
映画が終わるまでの二時間一二分を手を重ね愛し合う。
暗転。
画面に映し出される男。女は座席からその男をみつめている。
画面の中から、男は女に愛を囁き続ける。女はただ黙っている。
暗転。
誰もいない映画館。見せるための誰かもおらず映写されるフィルム。
画面の中では映画が終わるまでの二時間一二分をただ男と女が愛し合っていた。
終幕。

つまらない映画だな、と僕は思った。そりゃあ、個人経営の映画館だし、
そういうどこか通好み、悪く言えば独りよがりな映画ばかりやっていても仕方はない。
僕は雨宿りにスペースを貸して貰った身だし、入館料もたった1000円だったから文句を言う気も起きない。
やれやれ、とスタッフロールの途中にも関わらず僕は重い腰を上げた。構いやしない、僕以外に人はいないんだから。


98 名前: ◆qd25XT18e2 :2006/04/23(日) 14:39:12.65 ID:0eM2bKOoO

「まだ雨は降ってますよ」
声の主を探すと、出口付近の席に一人の女性がいた。
僕が雨宿りをしていると分かったのは、まだほんのりと湿り気を持った髪や服で分かったんだろうが、
一体どうして雨がまだ降っていると分かるんだろう。この女性にそんな疑問と、妙な違和感を感じた。
実際外の様子を見るとまだ大粒の雨が地面を打っていたし、僕は館内に戻って女性の隣の席を貰った。
「どうせお客もいないんだし、もうしばらくいても問題ないですよね」
「どうぞ」
女性はふふ、と笑って言う。やけに上品でそれなりの人なんだろうな、と僕は思った。

99 名前: ◆qd25XT18e2 :2006/04/23(日) 14:40:09.30 ID:0eM2bKOoO


それからして、館内が暗くなった。またあの映画が始まる。
僕は退屈な気分でそれを見ていたが、二度目だけあって細かいところに気がついた。
この映画の撮影場所は今僕がいるここだということと、主演女優が先ほどの女性ということだ。
僕はそれに気づいて真っ先に隣を見た。女性はいた、だが彼女は僕を見上げていた。
僕はスクリーンの中から彼女を見ていたのだ。
「もうすぐそちらに行きます」
女性は言う。僕はただ暗転するまでを待った。

おわり



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