【 映える画 】
◆vMDm/ZpiU6




335 名前:1/2 :2006/04/22(土) 21:47:03.61 ID:qpRRnBfD0
 ― 映える画 ―

「……以上のことを守って、楽しく映画を見てくれよな!」
 二本足のウサギのアニメキャラクターが変わり映えの無い注意を終える。
私はそれを、ポップコーンを摘まみながら聞き流していた。
 この映画館の系列ならではの演出だった。
最初こそ楽しみに見ていたが、月十何回も見るとさすがに飽きる。
 注意事項に引き続き、スポンサーのコマーシャル。「まさにガスだね」だからどうした。
 私はこの館内が暗くなってからの間が嫌いだ。大嫌い。
運営上仕方の無いことなのだが、とかくどうでもいいことで時間を浪費することが嫌いなのだ。
 ポップコーンをひとつまみ、口の中に放り込む。今日は塩バター味。
 周囲の席は埋まっていない。館内の人間も私を含め、二十人にも満たないだろう。
平日なのもあるが、この映画が恐ろしくマイナーかつくだらないというのが主な理由に挙げられる。
確かにくだらない。人より映画を見る私が太鼓判を押す。B級もいいところだ。
 だがここにいる。映画を見るために。
 B級特有の笑えるくだらなさではない。飽き飽きするようなくだらなさ。
これで『ハリポタ』や『電車男』と同じ値段を取るのはおかしいんじゃないか。
 だが、なぜだかここにいる。「見なくてはいけない」と思う。何を?
 映画が始まる。

「で、どうだったんですか?」
「あぁ、もう一度見たいな。あんなにおもしろい映画、他に知らない」
「……だそうです、教授」
「フムン」
 映画の鑑賞を終え、晴れ晴れとした気分で映画館を出た私は、白衣の二人組に捕まっていた。
今の映画に関してあれこれ聞かれている。

336 名前:2/2 :2006/04/22(土) 21:47:30.49 ID:qpRRnBfD0
「映画館に入ったときも、そうだったかね?」
 教授と呼ばれた白衣の男が問いかける。
「……いえ、なぜあんなくだらない映画を見てたのか、と思っていました」
「で、改めてみたらおもしろかったと?」
「……そう、ですね」
「自信がなさそうだね」
「ええ、なぜだか」
「もう一度、見てみるかね?」
「お金を出してくれるなら」
 あれ、あんなにおもしろかったのに、何度も見る気にはならない。
「……フムン。では、教授」
 教授が、俺の耳元でぼそぼそと何かを呟く。
「……って……映画を……くれよな」
 あぁ、ウサギの台詞だな。何を言っているんだ。おかしいんじゃないか、この人。
 急に頭の中に苛立ちが募る。なぜこんなところにいるんだ?
 助手らしき白衣が、こちらを覗き込む。
「で、先程の映画は面白かったですか?」
「いいえ、全く」
 ふん、と鼻を鳴らし、大股で私はその場を離れた。

……

「教授、サブミナルによる洗脳は……」
「フムン、ある種の抗体ができてしまうようだな」
「キーワードを複雑にしても、これでは」
「まぁ、一時数万人を洗脳できれば、国を引っ繰り返すには十分だ」
「そうですね。ワハハ」
「ワハハ」
 二人の研究者が笑う。
 今日も、銀幕でコンマ数秒のコマが映える。



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