【 幻想旅行 】
◆ptNT0a7knc




95 名前:幻想旅行1/3 ◆ptNT0a7knc 投稿日:2007/03/11(日) 23:35:42.28 ID:VAOQFJfj0
 流れ星のレールを汽車が進む。
客車にはいつものようにわたしだけ。
他の客車もそうなのかな? そう思いはするけれど、席を立ち上がって確認しようとまでは思わない。
 窓の外が徐々に明るくなってきた。
何かと思って窓を開けて見てみるとそこには次の駅がみえた。
「大きい駅だなぁ」
「ええ、次の駅はミルキーウェイの路線では特にでかいペテルギウス駅ですから」
 後ろから誰かが声をかけてきた。
振り向くと車掌が立っている。
車掌は靴と手袋と帽子だけ、後の部分は見えないのだ。
初めて見たときはとても驚いたが見慣れると中々かわいい姿である。
「車掌さん、次はどのくらい停車します?」
「エー、と次は二十三時間ほど止まりますね」
 少し呆れているわたしに短い方ですよ、と付け加えて車掌は次の客車に行く。
確かに車掌やこの路線に乗りなれている者達にとってはわずかな時間だろう。
けど、ただの人であるわたしにはとても長い時間だ。
「ま、仕方ないか。自分で決めた旅なんだから」
 声に出して自分に言い聞かす。
「次はペテルギウス〜、次はペテルギウス〜」
 窓からホームを見るとそこにはたくさんの汽車とたくさんの人がいる。
本当に大きな駅だ。
 客車から降りると異星人たちが旅行カバンを持ってホームに群れている。
その群れを右に左にかわしながら星で出来た階段にたどり着く。
「おやおやこれは中々の体捌き、誰にぶつかる事もなくよく階段まできた」
 いつのまにか肩に帽子をかぶったネズミが早口で話し掛けてきた。
「そういうキミは、人の肩に乗って楽々かい?」
「大きい図体にしがみ付いて移動をするのが僕らのやり方さ、それに結構つらいんだ。気づいて振り落とそうとする奴もいる」
 わたしの肩の上で旅行カバンを開いて、手鏡で服装の乱れを確認しながら答える。
そのネズミの頭を軽くなでながら階段を下りる。
ネズミは少し嫌がりながらも別に文句も何も言わない。

96 名前:幻想旅行2/3 ◆ptNT0a7knc 投稿日:2007/03/11(日) 23:36:30.63 ID:VAOQFJfj0
 下に来るとホームよりも賑わいでいる。
ぽかーんと立っているわたしにネズミが聞いてきた。
「おいおい、ここは始めて降りるのかい? ここで突っ立てると邪魔だからはじの方によろうぜ」
 言われるままに壁際に移動する。
そこから駅内を眺めるとそれぞれのホームに繋がる階段がたくさんあり、少し先にはいろいろなお店がある。
わたしがお店の方に興味を持ったのに気づいたのか、ネズミがわたしの頬を押した。
「あんたあっちに行くのか、それじゃここでお別れだな」
 言うが早いかわたしの肩から飛び降りてのっしのっしと歩く異星人に素早くしがみ付いてそのポケットに忍び込む。
顔だけを出し、わたしの方に向いて軽く帽子を上げる。
別れの挨拶だろう、それに答えて小さく手を振る。
 ネズミと別れたわたしは居並ぶお店の中から一つのお店に入る。
そのお店で売っているのは全て流れ星であった。
それらを手にとって眺めると、きらきらと手の中で光り輝く。
「珍しい、あなた人間だろ? いやホント珍しい」
 お店の奥からおばさん声の星の形の顔をした人が出てきた。
その人は物珍しそうにわたしを見ている。
「これはなんですか?」
 わたしは手に持っている小ビンを見せる。
「それは流れ星を粉々に砕いた物だよ。そのまま眺めるのもいいし、寝る前に月の雫に混ぜて飲んで流れ星の夢を見るのもいい」
 流れ星の夢が面白そうに思えたのでこれを買うことに決めた。
「ああ、お代はいらないよ。変わりにどうやって来たのか教えなさいな」
 小袋に小ビンを入れながら聞いてきた
「ある喫茶店のマスターに教えてもらったんですよ。なにか変わった旅はないかってそれで紹介されたんで」
「人間で喫茶店……。あー、あの人か」
 古い知り合いを思い出すかのように目を閉じている。
小袋を渡した後もその人は目を閉じて思い出に浸っている。
他にのお店を窓越しに商品を眺めて時間を潰した後、もと来た階段を登る。

97 名前:幻想旅行3/3 ◆ptNT0a7knc 投稿日:2007/03/11(日) 23:37:14.28 ID:VAOQFJfj0
 乗ってきた汽車に乗って時間を確認するとまだ十六時間もある。
歩きつかれたのでイスに座るとだらしなくすぐに横になった。
「お休みになられますか? それなら寝台車の方でお願いしますよ」
 車掌がない顔を覗き込ませる。
「うん、そうするよ。それじゃおやすみ、車掌さん」
 荷物をまとめて寝台車の一つの部屋に入る。
こじんまりとした星色の部屋。
入っただけで眠くなる。
ベッドに横になってから今日買った小ビンの事を思い出す。
備え付けられている冷蔵庫には確か月の雫があるはず。
使おうかと思ったけど次の時でいいや、そう思って目を瞑ればすぐに睡魔はやってきた。
 目が覚めた時にはすでに汽車がカタンコトンと動いていた。
どうやらずっと寝ていたようだ。
荷物をまとめて寝台車からいつもの客車に移る。
今日も昨日と変わらない客車、またわたし一人。
 窓を開けて外の風景を眺める。
暗闇の中で光を放つたくさんの星達。
そしてすぐ近くを流れる、天の川。
 天の川の流れに乗って三日月が流れてきた。
その三日月はナイトキャップを被って眠っている。
そういえば前に見た三日月たちもみんなナイトキャップを被って寝ている。
それが気になったわたしはすぐそばを通る三日月に尋ねる。
「おーい、三日月。キミたちはどうしていつも寝ているんだい?」
 汽車の横を流れる三日月はうっすらと目を開け、大あくびをした。
「いつも、太陽がいないからね、僕はずっと寝ていられる」
 ウインクした後目を瞑りすぐさま寝息を立て始める。
気楽な生き方だな、そう思いながら三日月を見送る。
そしてわたしの気楽な旅もまだまだ続く。         
<終わり>



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