【 アイスランド産298円 】
◆Qa4hZ/fjOg




848 名前:【品評会作品】アイスランド産298円1/2 ◆Qa4hZ/fjOg 投稿日:2007/03/11(日) 21:01:39.78 ID:ExZ8QqQ20
 そこは――煉獄だった。
青く高く、透き通っていたはずの空は、今やその影もない。
あるのは、ただ暗く、低く、赤熱した空だけだ。

 周りには仲間の死体が転がっている。
無残に焼け焦げた骸。かつて気侭に世界を巡っていたことが夢のようだ。
同胞の脂と肉が焼ける匂いだけが、この地獄には充満していた。

 どれほどの時間が経ったのか。地獄は唐突に終焉した。
突如として空に光が戻る。どこまでも白く、強すぎるほどの閃光。
無機質な光が、希望のように辺りを煌煌と照らす。
しかし、すでに死んでしまった私にとって、それが一体何の役に立つのだろうか。

 光に続いて、天から巨大な手が現れた。手は乱暴に遺体の一つを掴む。
天高く連れて行かれる同胞。その先には、巨大な穴がぽっかりと空いていた。
虚無と絶望を濃縮したような、冥く深い洞穴。入ったが最後、存在全てを磨り潰されて魂すら残るまい。
哀れな同胞は、一瞬にして暗黒へと消えた。

 たった一人では飽き足らないらしく、手はさらに別の死体を取り上げた。
腹が大きく膨れたその遺体は、どうやら妊婦のようだった。しかし、手にとってそんな事は些末な事であるらしい。
微塵の躊躇も無く、暗闇は親子を磨り潰し、魂を蹂躙する。
私は確かに、生まれる事なく消え去った何千何万の命の怨嗟を聞いた。


849 名前:【品評会作品】アイスランド産298円2/2 ◆Qa4hZ/fjOg 投稿日:2007/03/11(日) 21:02:30.28 ID:ExZ8QqQ20

「ん、何かな、こーちゃん。お姉ちゃんをじっと見つめちゃって、もしかして惚れちゃった?」
 姉の声でふと我に返る。どうやら意識がトんでいたようだ。
「あー、いや……ししゃもの気持ちになってた」
ニコニコしながら聞いてきた姉にそう返すと、姉はあからさまにがっかりした顔になって、なんじゃそりゃー、と言った。
「こんなに美人なお姉ちゃんよりししゃもか! ちくしょう!」
 ばん、とテーブルを叩く。……かなり酔っているらしい。
 姉は僕を上目遣いで睨んでから、ししゃもの乗っている大皿を差し出して言った。
「むー……食べたいなら食べていいよ。ビールいる?」
「お願いします」
ほい、と姉から手渡されたビールをちびちび嘗めながら、つまみ代わりのししゃもを齧る。
「うーん、旬モノはやっぱおいしいにゃー。安いしにゃー」
姉はテーブルに突っ伏しながらそう言った。相当酔いが回っているのか、目を細めてにゃーにゃーと鳴く。
コレは捨て置くことにして、僕は2匹目のししゃもを齧る。
よく焼けたししゃもを食べながら、ししゃもはやっぱり子持ちのほうがうまいな、と思った。 





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