【 All men are created equal 】
◆tsGpSwX8mo




827 名前: ◆tsGpSwX8mo 投稿日:2007/03/11(日) 20:37:41.67 ID:ex203g3x0
神は万物を相等しく作ったといわれている。
だが、今の世の中を見てみろ。
メイドロボを粗大ゴミとして廃棄し、ダッチワイフのように扱う人間達。
メイドロボは人間と全く同じような行動、全く同じような動きをしている。
神は万物を相等しく作ったというのに、何故人間は人と物に価値を付け、分け隔てをするのか。
それは人が物に心がないと思っているからだろう。
だから、僕は今現在最高の技術、重ね合わせの原理を応用した量子コンピュータを使用し、人の心を持つメイドロボ『マナ』を作り出した。
順調に開発は進み、言語や身体能力はもちろんのこと、笑いや涙など、
細かな感情の仕草もそこらにいる幼稚園児どもと混ざっても分からないくらい純粋に機能していた。
残るは最終テストだけ。
それはある学校で人間と同じように行動ができるのかというものである。
制作者の16歳の天才科学者である僕、清水吏も最終テストに参加していた。

僕はその日、情けなさと悔しさで一杯になっていた。
階段を駆け上り、いつものように屋上の扉を足でぶちあげた。
「真奈!!」
マナは耳くそをほじりながら、フェンスに腰を預けて、漫画を読んでいた。
「あ?また清水かよ……たりぃな」
「今日はお前が掃除当番だろ?こんなとこで何やってんだ??」
「別にいいんじゃね、んなもん休んだって困りゃしねぇ」
「そういう問題じゃない!」
マナは露骨に肩をすくめると、耳くそもでやしないのに、ふっと小指に息を吹きかけた。
「セリルが全部やってくれるって」
セリルというのは対抗する研究室が作った試作機である。
セリルは機能性のみを徹底させた純粋な機械。
命令を忠実に遂行し、全く間違いを犯さない完全に機械の思考をもつメイドロボであった。
「俺はここで漫画でも読んでるよ」
「あのタイプは、必要の無いところではサボルことができず、仕事の効率化が難しい。
柔軟な思考ができるお前なら、あいつの倍の速度でもっときちんと仕事ができるはずだ」


829 名前:All men are created equal ◆tsGpSwX8mo 投稿日:2007/03/11(日) 20:38:34.07 ID:ex203g3x0
「褒めたってやらねーよ。読むか?このエロ漫画面白いぞ。」
「え、エロ漫画??」
「面白すぎてちんこみるくでちゃう……なんてね!キャハハ」
僕は呆れてものが言えなかった。
実はこの最終テストはセリルとマナのどちらをメイドロボとして生産するか決めるテストなのだ。
選ばれなかった方は、スクラップとして処分される。
僕はそのことを会社から聞いたとき気が気ではなかった。マナがプレス機にかけられて、つぶされることを想像して胃の中の半分くらいをはき出していた。
なのに、マナは最終テストをただのお遊びだと思い、まるで不良学生のように過ごしている。このままではマナが処分されるのは確実だった。
僕は目をかっと見開くと、マナの持っていた本を地面へたたき落とした。
そして、フェンスに手を叩きつけ、フェンスの上でゆれるマナに言いはなった。
「早く行け!」
「チッ……うっさいな。あーわかりましたよ……なんでそんなに必死なんだか」
処分という事実を彼女たちに話すのは禁止されている。普通の生活をする比較テストなのだから、
処分という言葉を聞いて、日常とは違う動作を行われては困るからだ。

テストも最終日に近づいた頃、昼休みの始まりに、寝ていた僕の肩を誰かが叩いた。
振り返ってみると、無表情なセリルがいた。
セリルは淡々とした口調でこう言った。
「第一種危険状態にある人間がいます」
第一種危険状態とは人間が生命の危機に瀕したときに発するエマージェンシーコールだった。
僕は背中にかけていた学ランを急いで羽織ると、セリルが指を指す方向へと一緒に走っていった。たどり着いたのはよく知っている屋上だった。
そこにマナがいた。
彼女はバタフライナイフを男子高校生に突きつけていた。男子高校生は財布の中から札束を出す。
僕にはマナが何をしているのか一瞬でわからなかった。
「お前、何してんだ?」
「カ・ツ・ア・ゲ。おぼっちゃんの清水は知らないの?」
男子高校生は隙を見て、逃げ出した。彼の肩に手をやり、急いで財布の中から手一杯札束を握らせた。
「どうか内密にしてくれ」
「えぇ?あ、ああ……」


830 名前:All men are created equal ◆tsGpSwX8mo 投稿日:2007/03/11(日) 20:39:13.68 ID:ex203g3x0
そいつは訳が分からないような表情をして帰って行った。
「おい!こんなことしてどうなるかくらいわかるだろ?セリルみたいにプログラム打つまでわからんわけじゃないだろ!?」
マナはきっと僕をにらめ付けた。
「うっさいわね!日頃からあんたにはむかついてたのよ……説教ばかりでこっちの気持ちなんてこれっぽっちもわからないじゃない……」
「いや僕はマナのことを思ってだな」
マナの目の色が変わった。
「お前うざい」
とっさにナイフが僕の胸へと垂直に迫ってきた。僕はとっさに体を捻る。切っ先が肩をかすめていた。
「いつっ」
避けなければ、今の軌道は完全に心臓を貫くものだ。
マナは血のついたナイフをべろりと舐めていた。
「ふん、人間なんて弱いものね……弱くて怠惰で、金に狂い……人の命をなんとも思わず殺す。あんたたちの求めているのは、最低のもの。そう私はあなた達みたいに最低な人間になったの」
マナは暴走している。メイドロボが暴走したら、止める方法は一つだけだ。
僕はポケットから金属溶解銃を取り出した。金属塑性弾を用い、打たれた部分から中側を浸食して壊す対ロボット用の銃である。
それをゆっくりと彼女に向けた。
「ふん、そんなもの持っていたの?これだからあんたは信用できないのよ」
「マナ……お前はここで壊さなきゃならないんだ」
「死ぬもんですか!」
マナはナイフを振りかぶって、襲ってきた。
「第一種危険状態 第一種危険状態 第一種危険状態」
その切っ先は僕の首元を抉るように放ってきた。僕はナイフを持っている方の腕を取り、そのまま後ろに流す。
こうすると、体の3点のバランスが崩る。そして、今度は腕を逆側に引っ張って、そのまま空中に投げはなった。
バタンと大きな音がして、マナは背中から地面に叩きつけられてしまった。
「てめっ……合気道ができんのかよ」
「伊達に天才といわれてるんじゃない」
「でも誤算だったわね……わたしは機械なのよ!」
彼女は体を反転して起きあがった。一瞬の油断……ナイフが僕の腕に突き刺った。
銃が地面に落ちてしまった。
「くっ」


831 名前:All men are created equal ◆tsGpSwX8mo 投稿日:2007/03/11(日) 20:39:53.35 ID:ex203g3x0
「これで終わりよ!!!」
殺されると思った……だけど
いいんだ。
「マナに殺されるなら、僕は……」
「…………っ!!」
マナのナイフが僕の首もとで止まった。
その瞬間、マナの胸が砕け散った。
セリルが銃を構えていた。
「第一種危険状態を回避いたしました」
マナは壊れた胸を抑えつけながら、泣いていた。
「痛い……くそっ……へんな機能つけやがって……」
僕はマナを抱きしめると、ぎゅっと手をにぎりしめた。
「マナ、お前は賢いはずだろ?なんでこんなことを……」
「…………お前に…俺の気持ちがわかるはず………ねぇ……よ」
マナの手がすとんと地面に落ちた。
「マナ!おい!しっかりしろ!マナ?マナ!!!!!!!」
「第一種危険状態を回避いたしました」
セリルの声がむなしく、僕の心の中に響いていた。

僕は壊れたマナを直すために量子素子をパソコンで見た。
そこには驚くべき状態が保存されていた。
マナは全く同時期に作られたセリルを姉妹のように思っていたらしい。
まともにテストを行えば、勝つのは自分。
そう思ったから、マナは僕を殺しに来た。自分が処分されるために。
量子素子の中には、マナの処分される苦悩とそれと比例するように、セリルとの日々がぎっしり詰まっていた。
マナにとって処分におびえる日々をいやしてくれたのはセリルだけだったようだ。
僕ではなく。セリルだけだった。
僕はそれの処分を始めた。



832 名前:All men are created equal ◆tsGpSwX8mo 投稿日:2007/03/11(日) 20:40:25.12 ID:ex203g3x0
彼女は目を覚ました。
髪を振り乱しながら、手を見ていた。
自分が何故生きているかわからないようだった。
そして、不意に涙を流していた。
僕はマナを抱きしめた。
「触るなよ!……くそっくそっ……なんで俺が生きてるんだ……俺は死ぬべきだったんだ」
「僕はマナを愛してる。たとえ世界中の人間が理解しなくても……」
「自分勝手なことばっかりいいやがって!お前はいつもそうだ!こっちの気持ちなんてこれっぽっちも理解しないじゃないか!!」
「ああ、今まではな……」
「第一種危険状態を回避いたしました」
「え?」
セリルが紅茶をマナに差し出していた。
「会社に無理を言って持ち出した。辞表を置いて。会社の物を持って逃げるのは立派な窃盗罪だが、この際仕方あるまい。逃げ先が見つからんように家具は全部処分したよ」
「て、てめぇ……これから食っていけんのかよ」
「お前にとってセリルが一番大切だったように、俺はお前が一番この世で大切だ。」
「……え」
「だから、もう離れない」
僕はマナを抱きしめた。
「じゃあ……もう寂しいときは離れたりしない?……絶対、絶対だよ?」
「ああ」
セリルの水晶球の目に、見たこともないようなマナの安心した笑顔が見えていた。

神は万物を相等しく作ったといわれている。
だが、僕にとってマナはどんなものよりもかけがえのないものだった。



BACK−彼と鳥の話 ◆VZ39.PknyI  |  INDEXへ  |  NEXT−アイスランド産298円 ◆Qa4hZ/fjOg