【 守る者 】
◆XS2XXxmxDI




729 名前:「守る者」 ◆XS2XXxmxDI 投稿日:2007/03/11(日) 11:35:53.09 ID:ZjIN6w4LO
「人間とはつまらないものさ」
取るにも足らない、と言わん許りに、僕は顔をしかめた。

白を基調とした、円形の部屋の中央。テーブルを挟み、男と向かい合っていた。
時折、窓を見やれば、瞬く様に煌めく星々や、引き込まれる様な青と、緑の惑星が宇宙に泳いでいる。
部屋の目も眩む様な白とは対照的な、美しさがあった。
「そうかい? そうは思えないけどね」
僕が外に見惚れていると、男が言った。
目をギラギラと輝かせ、食い入る様に僕を見詰める。
「人間はアナタから見ても優秀な生命体のはずだ」
「優秀? 同じ人間同士殺し合う事がかい? 僕が散々教えたじゃないか」
思わず吹き出しそうになった。
あれほど人間の愚かしさを伝えたと言うのに、こいつはまだ諦めていない。
「それはアナタが人間の神だからではないのか? 過小評価という言葉もある」
「それは違う、僕は神だからこそ、過小評価も過大評価もしないのさ」
「本当かい?」
疑念のまなざしの奥にある、凶暴な光が僕を居抜く。
ジットリとした汗が身体中から流れた。

730 名前:「守る者」 ◆XS2XXxmxDI 投稿日:2007/03/11(日) 11:36:29.54 ID:ZjIN6w4LO
「あぁもちろんさ」
にこやかに微笑んでも、男の目の奥は怪しい光を湛えている。
僕の目の一点を、穴が空くかと思う程、真っ直ぐに見詰め、なにも言わない。
その無言が、僕には応えた。
得も言われぬプレッシャーが僕に押しかかるのだ。
堪らず、
「神が嘘をつくと思うかい?」
今度は真剣なまなざしで男を見詰め返した。
男の目の奥の、怪し気な光の奥より深い、思考が見透かせそうな程に。

「良いだろう」
恋人同士でもこんなには見詰め合わないだろう、というほど、僕と男は見詰め合った。
その結果、信用を勝ち取ったのだ。
思わず安堵の溜め息が出た。
「神でも緊張するのか」
僕の溜め息に、男の顔がほころんだ。
「人間は神と見詰め合えないからね」
「それはそうだ」
男と僕はひとしきり笑うと、席を立った。
「では帰らせて貰うよ、愚かな人間は神がいないと何も出来ないからね」
「そうか。決まりで送迎しか出来ないが許してくれ」
男が、申し訳なさそうにうなだれる。
僕は男の肩をポンポン、と叩き、
「構わないさ、美しい景色を見せて貰った」
僕と同じ様に、顔を上げた男は微笑んでいた。

731 名前:「守る者」 ◆XS2XXxmxDI 投稿日:2007/03/11(日) 11:37:08.52 ID:ZjIN6w4LO
ゴウゴウ、と唸り声を上げ、ロケットが地球に下り立った。
僕は久々の地面と、大役を果たせた達成感に、打ち震えた。
「どうだったね!?」
僕が感慨に耽っていると、大統領が駆け寄って来た。
僕は笑顔でそれに応えた。
「はい、成功しました! 相手方はすっかり僕を信用したようです!」
「そうか、神という大役ご苦労だったな」
「ありがとうございます」
大統領の目からは、大粒の涙が零れていた。
つられて、僕の目にも熱いものが込み上げる。
そうだ、確かにやったんだ、と遥か彼方の宇宙船を見上げた。

732 名前:「守る者」 ◆XS2XXxmxDI 投稿日:2007/03/11(日) 11:39:49.63 ID:ZjIN6w4LO
「で、神との話はどうだった?」
「そうだなあ、俺達が心を読めるとも知らず、騙そうとしてきた」
「そうか、なら仕方ないな」
「ああ、知能が高くて好戦的な生物を野放しには出来ない」
「いつ俺達の星に攻め込むが分からないからな」
「……じゃあ早速、惑星破壊レーザーの準備をしてくれ」


終わり



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