【 白い羽 】
◆E4NrfUMMM2




477 名前:タイトル『白い羽』(1/2) ◆E4NrfUMMM2 投稿日:2007/03/10(土) 15:27:22.79 ID:M+7VBIfg0
時計の日付の変わり目に鳴る電子音が俺の集中を断った。
ちょうどいい具合に、レポートはおおよそ完成している。
大きく息を吸い込んで体を伸ばす。
背中がばきばきとかなり大きな音をたてたが痛みはなく、むしろ感じるのは爽快さだ。

一息つくため立ち上がり、ベランダに接した大きな窓へ向かう。
確か今日はニュースで流星群がなんとか、としつこいほど放送されていた。
天気予報の美人なお姉さんは明日も晴れるといっていたから、運が良ければ流れ星が見れるかもしれない。

そんな事を考えながらカーテンを開け、俺は絶句した。

何かがいた。
詳しく説明するならば、背中に白い羽を生やし、いちじるしく時代錯誤である古代ローマ人のような布をまとった少年だ。

たとえるなら、それは天使。

それはこちらを見てにやり、と笑った。
にこり、ではない。飽くまでにやり、だ。
少し、目が疲れているらしい。
カーテンを閉めると俺は机の上に置いてあると思われる目薬を探した。

ベランダの方向からわめき声と窓をたたく声が絶え間なく聞こえてくる。
このままではマンションの他室の住人から苦情がきそうなので仕方なくカーテンをまた開けた。
すると少年はしてやったりとばかりに、にやり。
その笑顔には厄介事の予感しかしないので無視してしまいたいところだが、また暴れられるのも困る。
凶器などを持っていないか慎重に確認した後、細く窓を開けた。
「なにしてる、人の家のベランダで。不法侵入で訴えるぞ」
この際その奇天烈極まりない格好からは目をそらして、常識的に対応する事にした。
きっと重度のコスプレイヤーというやつなのだろう。
あまりのできの良さに人に見せびらかしたくなってしまったに違いない。

478 名前:タイトル『白い羽』(2/3) ◆E4NrfUMMM2 投稿日:2007/03/10(土) 15:30:07.87 ID:M+7VBIfg0
俺は何事にも偏見を持たないタイプであるが、人に迷惑を掛ける趣味はいただけないと思う。
この地上4階のベランダにどうやって入り込んだかしらないが、そんなことは俺にとってどうでもいい事だ。
問題はこの少年が俺に迷惑を掛けているということ、それだけである。
「おまえ、何でそんな冷静な反応するわけ?もう少し可愛げのある反応できないのかよ」
「不法侵入者に何でそんな反応をしなければならないんだ?何か用事があるなら早急に言って帰ってくれ。ないなら今すぐ帰ってくれ」
少年は不満げに暫らく文句を言い募ったが、俺が窓を閉めようと手を掛けるとようやく本題にはいった。
「閉めるな!用事ならある」
「だから早く言ってくれ。いつまでも窓を開けていると寒い」
「聞いて驚くなよ。俺様は神の使いだ。今日は特別にお前の望む事を一つかなえてやる」
「あぁ、そう・・・。妄想は脳内だけでするように。垂れ流すと弊害があるから」
「お前ぶっ飛ばすぞ」
「お前こそぶっ飛ばすぞ」
睨みあうことおよそ一分。
馬鹿らしくなって俺はため息を吐いた。

「願い事を言えば帰るのか?」
「心から言えばな」
「わかった。じゃあ世界を今すぐ戦争も困窮もない平和なものにしてくれ」
「心にもない願い事言うんじゃねーよ」
「そうやって何でも疑ってかかるのは良くないことだと思う。もし俺が心から世界平和を願っている純朴な青年だったらどうする」
まぁ、自分で「もし」とか「どうする」とか言っている時点で語るに落ちるというやつだが。
少年は苦々しい顔をして吐き捨てるように答えた。
「そんなお綺麗な人間なんか存在するわけないだろ。人間なんて、すぐ私欲に走って、必要以上に望み、挙句争う生き物だからな」
何か嫌な事でもあったのだろうか。
皮肉でなく、真実心からこんなふうに貶めた言い方をするのは珍しい。



479 名前:タイトル『白い羽』(2/2) ◆E4NrfUMMM2 投稿日:2007/03/10(土) 15:31:42.68 ID:M+7VBIfg0
「まるで、自分が人間じゃないようだな」
「だから最初にいっただろ。俺様は神の使いだ」
「あぁ、そうだっけ?それはどうでもいいけど、そんなに嫌いなら願い事かなえるなんて言わなきゃいいだろ。何がしたいわけ?」
「義務だ。俺様は人間なんて大嫌いだが、神は人間が大好きだと言う。一年に一度こうして誰かの願いをかなえる事は俺様に課せられた仕事だ」
「人間が大好き、ね」
「神はいつも俺様に言う。『人は儚くて、壊れやすいのにそれでも必死に生きる。泥臭いがすごく綺麗だ。希望を抱いて真っ直ぐに生きている彼らが私はたまらなく愛しいと思う』と。俺様には理解できない。
が、神は絶対だ。だからお前の願いも仕方なくかなえてやる。心から願い事を言え」
「・・・・・・わかった。じゃあ、これこそ本当の願いだ。お前、今すぐ家に帰れ」
少年は少しだけ驚いた顔をして、小さく呟いた。
「変な奴・・・」
少年の姿が少しずつ薄れてゆく。
目を凝らすが、やがて少年は完全に姿を消した。

目を開ける。
体を起こして時計を見る。
00:05
夢?
そうだ。夢だと思えばあの不思議な出来事にもすべて説明がつく。
不思議な夢だった。
でも気分は悪くない。
心地よい風がどこからか吹いてきて顔を上げる。
ベランダの窓が開いているようだ。
このままでは風邪をひいてしまう。
俺は窓にむかう。
すると視界に白い何かが飛び込んできた。
そこにあったのは一枚の白い羽。

終わり。



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