【 ちいさな 】
◆1985/2Zwgk




386 名前:【品評会】 ちいさな 1/3 ◆1985/2Zwgk 投稿日:2007/03/10(土) 02:29:34.50 ID:N1oB2Hcw0
 誰かが訊いた。
「知ってる?微生物ってどこにでもいるんだって」
 誰かが答えた。
「へえ。それで?」

「俺たちの口の中とかにも知らない間に普通に入ってるらしいぜ。病原菌とか、ダニとか」
「でも問題ないんだろ?」
「ああ。免疫だかが働いて体内への侵入物は排斥されるからな」
「人間って素晴らしい」
「体の表皮にもたくさんくっついているんだってよ」
「だけど見えないし、わからない。気にすることじゃないさ」
「ああ、そうだな。ただちょっと気持ち悪いと思っただけだ」

              ◇◇◇

 ある所に一種類の微小な虫がいました。
顕微鏡でしか見えないほどの大きさながら、強い毒と高い知能を持ち、同じくらいの大きさの微生物はおろか
自分たちより遥かに大きい昆虫でさえも、集団で襲い掛かっては餌にしてしまう連中でした。
 彼らは微生物界の食物連鎖の頂点でした。
 そんな彼らも秋になると、他の虫たちと同様、冬に備えて木の幹の穴や地中に食料の貯蓄にかかります。
しかしここ数年というもの、彼らが食料とする他の微生物の数は減る一方。
 彼らの知能を持ってすれば、いえ、例え知能を持たない下等な動物にとっても、その原因は明白でした。

387 名前:【品評会】 ちいさな 2/3 ◆1985/2Zwgk 投稿日:2007/03/10(土) 02:30:12.36 ID:N1oB2Hcw0
 人間です。
 人間が生態系を人間の生きやすいようにと変えていくため、そのしわ寄せがこんなちっぽけな虫にまで及んでいたのです。
彼らは虫なりに世界規模で議会を設け、話し合い、一つの結論に達しました。
 多少荒っぽいやり方でも、人間の数を減らすため殺してしまう他無い、と。
ただ、いくら強い毒を武器とする彼らでも、あまりに大きすぎる人間相手ではその効果は薄まってしまうでしょう。
そこで、何千体・何万体もの彼らの仲間が一丸となって、一人ずつ人間を殺していくと決められました。
例え時間がかかっても、最速の手段を採るしかない。
虫たちはその想いの下一丸となり、数多の精鋭が選りすぐられ、世界中の仲間が各地でXデーを待ちました。
 そして、決行の日。
 虫たちは草むらに潜み、通りすがりの人間を見つけると一斉に飛びつき、その毒牙を突き立てました。
 しかし、そこには彼らの誤算があったのです。
一つは、人間が大きすぎて、数万の彼らが飛びついたところで全く意に介されないこと。
誰でも世界地図に自国を描くときは、やたら大きく描いてしまう、そんな思い違いが生じたのでしょう。
そして二つ目、それ故に、数万体集まったところで、彼らの毒が殆ど人間に効かないことでした。
これは致命的でした。しかも、そう分かったときに、一旦出戻って策を練り直せばまだよかったのでしょうが、
彼らは必死に毒を注ぎ込むあまり、次々にと力尽きていったのです。
 何処の国でも同じ結果でした。
 多くの優秀な個体を失った彼らは、すごすごと引き下がり、冬をしっかり越せるかどうか思案するしかありませんでした。

388 名前:【品評会】 ちいさな 3/3 ◆1985/2Zwgk 投稿日:2007/03/10(土) 02:30:39.03 ID:N1oB2Hcw0
 彼らに攻撃された人々は、患部が少し腫れたので、医者に薬を処方してもらっただけで済んだとか。
 こんなちっぽけな虫では、たとえ自分たちが生きる環境を変えられたとしてもその身の丈にあった程度だけで、
大きな意味では何も動かせないということなのでしょう。

                ◇◇◇

 何かが訊いた。
「知ってる?微生物ってどこにでもいるんだって」
 地球が答えた。
「へえ。それで?」

―結―



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