【 シークレットファイア 】
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363 名前:【品評会】シークレットファイア 1/5  ◆2wMY7a0ZRY 投稿日:2007/03/10(土) 01:50:22.04 ID:PNeTrH6q0
                 【問題編】
 午後七時四十五分。
「警察は、明日の朝にならないと来れないそうです……」
 ある山奥の研究施設。病院のようなその建物のロビーは、淀んだ空気に包まれていた。
 二人の大人と、二人の子供。
「こんな事になるのならサイコメトラーも造っておくべきだったな」
 山岸要介がソファに深く腰掛けて足を組みながら言った。
 細身に白衣、さらにレンズの細い眼鏡の山岸はいかにも科学者というような雰囲気。
「ちょっと、山岸さん。彼らのいる前でそう言う事を言うのはどうかと……」
 おどおどした様子で佐藤健が山岸に小声で囁く。
「佐藤さん、別にいいです。俺達、馴れてるんで」
 赤っぽい髪の少年が静かに言うと、黒髪の少女も小さく頷いた。
                   ◆
 午後五時二十分。
 三階建ての宿泊棟はL字の建物で、病院の個室がいくつも並んだような造りになっている。
 その二階にある所長室の前に佐藤健は立っていた。
「あれ? 佐藤さん、どうしたんですか?」
 そこに通りかかった長い黒髪の少女が声をかけた。
「ああ、ミサキちゃんか。所長、見なかったかな? 朝から一度も会っていないんだけど」
 千里ミサキは少し数秒沈黙してから答えた。
「見てませんね。部屋の中にいないんですか?」
「分からない。鍵はかかっているみたいなんだけど」
 そう言って佐藤はドアをノックする。
「返事が無いんだよ」
「わたし、見てみましょうか?」
 少女はニコっと笑って見せた。
                   ◇
 午後七時四五分。
「灰路アキラ。お前が犯人では無いんだな?」
 山岸要介が聴くと、少し赤い髪の少年はやはり静かに答える。

364 名前:【品評会】シークレットファイア 2/5  ◆7UK3oAVeI6 投稿日:2007/03/10(土) 01:51:22.66 ID:PNeTrH6q0
「俺にそこまでのチカラはありません。山岸先生が一番分かってるでしょ」
「実験の結果からして、お前のポテンシャル的には不可能じゃない」
 山岸は手にした書類に目をやる。
「ミサキ、中の様子を見た時の事を詳しく思い出して欲しいのだが」
 千里ミサキが少し目を見開いて動揺を見せる。
「山岸さん、あの部屋の様子を思い出させるのはちょっと辛いんじゃ……」
 佐藤の言葉を遮るようにミサキは言う。
「大丈夫だと、思います」
「しかし、ミサキちゃん……」
 ミサキは唇を振るわせながらゆっくり口を開いた。
「他の、個室と同じ内装の部屋で……見えたのはテーブルに煙草とライター。それと……」
 そこまで言ってミサキは黙ってしまう。唇はまだ震えていた。
 山岸要介はその様子を見て抑揚の無い声で言った。
「もういい」
                   ◆
 午後五時二十五分。
「しかし山岸さんのいないところで君の能力を使うと、後から僕が……」
「大丈夫ですよ。それに、所長が中で倒れてたりしたら大変じゃないですか!」
 ミサキの勢いに押されて、佐藤はミサキのチカラを借りる事にした。
「それじゃ、ちょっと見てもらおうかな」
「じゃ、ちょっと静かにしててくださいね!」
 そう言ってミサキは静かに目を閉じた。
 数秒の沈黙の後、ミサキは急に目をパッと見開いた。
「べ、ベッドで……黒い……人みたいな……焦げた……」
 ミサキの普通じゃない怯え方を見て、佐藤はドアを開けるための道具を探しに走った。
                   ◇
 午後七時五十分。
「佐藤さん、最初に部屋に入った時の様子を」
 山岸は佐藤をじっと見ながら言った。
「まず、ミサキちゃんが室内を透視で見た後……あ、ミサキちゃんには僕が無理矢理頼ん

365 名前:【品評会】シークレットファイア 3/5  ◆K0pP32gnP6 投稿日:2007/03/10(土) 01:51:50.75 ID:PNeTrH6q0
だようなものなので、ミサキちゃんは怒らないであげてくださいね」
「構わない」
 山岸はそう呟いて黙る。
「そ、それで中を見た後のミサキちゃんの様子が普通じゃなかったので、ドアを壊すものを
探しに行きました」
「その時、灰路くんが所長室の前を通りかかって……」
                   ◆
 午後五時三十五分
 佐藤健は斧、灰路アキラはつるはしを持って所長室のドアの前にいた。
「それじゃ、いくよ?」
 斧とつるはしを使うと、ドアは意外と簡単に壊れて開いた。
「二人は、ここで待っててくれるかな?」
                   ◇
 午後七時五十五分。
「中にはベッドに横たわった黒焦げの所長がいた、ということか」
 山岸は目を瞑ったまま言った。
「そう言う事です」
「鍵は部屋の中にあった」
「ええ、ライターの横に。所長室の鍵は、あれ一つしかありませんでした」
 眠ったように黙りこむ山岸。
 数十秒の沈黙の後、思いついたように山岸は口を開いた。
「本当に、所長以外に部屋の中に焦げた跡は無かったのか?」
 佐藤ではなく、ミサキの方を見ながら山岸は言った。
「外から中を見たときは、ありませんでした……」
「実際に中に入った時も、焦げ後は見当たらなかったです」

※問題編はここまで。三十秒ほど犯人を考えてから解答編へどうぞ。



366 名前:【品評会】シークレットファイア 4/5  ◆K0pP32gnP6 投稿日:2007/03/10(土) 01:52:18.94 ID:PNeTrH6q0
                 【解答編】
 翌朝。午前七時十分。
「亡くなっていたのは……山岸要介さん、三十八歳だと思われます」
 山岸要介の部屋の前で、警官が無線と話している。
「ええ、昨日通報があったもう一人と同じで鍵のかかった部屋で焼死してます。ここ、怪
しいですよ。なんでも、超能力の実験をしていたとか……第一発見者は透視能力者の少女
だ、って言ってますし。それに、熱を操る能力を持った少年がいるとか」

 午前七時十五分。
 佐藤健と灰路アキラ、千里ミサキはロビーのソファに座っていた。
 周りでは何人もの警官がせわしなく歩き回っている。
「佐藤さん。これであんたしか犯人はいなくなった」
 灰路アキラは静かに言った。
「何を突然……」
 アキラは佐藤の言葉に耳をかさず続ける。
「焼死体の方は意外と簡単だと思うんです。ここが超能力の研究をしてる施設だから怪し
く見えただけで」
「でも、灰路くん、焼死体以外はベッドにも壁にも焦げた跡はなかったんだよ?」
「逆に、それが答えです。死体は夜のうちにどこか別の所で焼かれたものだったとしたら?」
 佐藤は少し眉をひそめて言った。
「何故わざわざそんな面倒な事を……」
「俺に罪を着せるためじゃないですか?」
 アキラは少し声を荒げて言った。周りにいた警察官がアキラの達の方を見る。
「しかし、人を焼死させる程の力は君にはないんだろう? それじゃ罪は着せれない」
 至って落ちついた声の佐藤。
「それが唯一ののミスだったんです。たぶん、山岸先生の持ってた書類を見たんでしょう?
あれには俺の能力は人を焼死させれるポテンシャルを持ってる、と書いてあったはずです」
 アキラが言うと、佐藤は険しい表情で目を閉じ、フリースの上着のポケットに手を入れた。

367 名前:【品評会】シークレットファイア 5/5  ◆K0pP32gnP6 投稿日:2007/03/10(土) 01:52:41.33 ID:PNeTrH6q0
「しかし、アキラくん。密室はどうなるんだ?」
「問題はそこです。予想は出来てますけど、確信が持てない。で、ミサキに質問がある」
 突然呼ばれ、ミサキは少しビクっとした。
「……わたし?」
「そうだ。あの部屋の事、思い出して欲しい。ライターの隣には、何か置いてあったか?」
 佐藤がふと、目を見開いた。
「……ライターの隣には……何も無かったと思うけど……」
「やっぱりそうか。ありがとう。ところで佐藤さん、昨日、山岸先生に所長室の鍵はライ
ターの横に置いてあった、と言ってましたよね? 警察にも同じ証言をしたんでしょ?」
 佐藤の表情が一変。動揺が見えた。
「し、しかし、山岸さんの部屋の鍵は……」
「山岸先生の部屋の鍵は、所長室の鍵と違って一つしか無かったわけじゃない」
 アキラがそう言い終わると、佐藤は無表情でただ黙っていた。

「君の推理、すまないが立ち聞きさせてもらった」
 背後から低く響く声。その声の主は一人の刑事だった。
「しかし、お嬢さんの目撃証言ってのは透視で見たものなのだと、正式な証拠として認め
られるのは難しいかもしれないな……」
 険しい表情で刑事は言うと、佐藤はニヤリと笑った。
「それは、超能力は法律の範疇じゃない、ってことですか?」
「今の日本だと、残念だがそうなる」
 刑事が険しい表情のまま言うと、アキラもニヤリと笑った。
「いいえ。むしろ、好都合です」
 アキラの手の上で小さい炎が渦巻いた。何も知らない者が見れば、手品にしか見えない炎。
「ア、アキラくん! 何を考えている! やめろ、そんな事をしたら……」
「超能力はまだ罰せられないそうですよ。佐藤さん」
 その炎は佐藤に向かって真直ぐ飛ぶ。そして服に燃え移る。
「ぐああああ、なんて事をしてくれた! この化物が!」
 佐藤が着ていたフリースは良く燃えた。
 ≪終わり≫



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