577 名前:ある日、雨の日(1/1) ◆Haru/zq.o6 投稿日:2007/03/05(月) 00:08:48.02 ID:7qJpmIeh0
私は五人姉妹の末っ子で、姉妹の仲でも特にお母さん子だった。暇があればお母さんにしがみ付き、その暖かさに包まれて目を閉じる。
そうすると、なんだか守られているようで安心した。
でも、それも長くは続かなかった。見知らない格好をした奴らが私たちの家に入り込み、みんなを連れて行ってしまったのだ。
私は、お母さんやお姉ちゃんが必死になって逃がしてくれたので、どうにか捕まらずに済んだ。
そうやって家も家族も失った私は、行く当てもなく彷徨った。お腹はペコペコで、それに雨まで降って来た。
軒下に移動して雨宿りをし、私はぼーっと空を眺める。
暗い雲に覆われた空は、私の心を映したみたいだ。
それからどのくらい経っただろう。雨は止むことなく降り続き、私は変わらずに空を眺め続けた。
――その時、こちらへ走ってくる影が見えた。鞄を傘代わりに駆けてきたその人は、私が雨宿りしている軒下に入った。
ハンカチで顔を拭いて、鞄を下ろそうとして……ようやく目が合う。
その目はとても優しい目で、お母さんを思い出した。
その人は下ろそうとした鞄を開け、パンを取り出すと私の目の前に差し出した。
芳ばしい香りに涎が垂れそうだが我慢して、それを受け取る。久しぶりのご飯はとても美味しかった。
食べ終わる頃になると雨も止んでいた。その人が歩き出したのでつられて付いて行く。
それに気づいたその人は少し困ったように笑ったけど、すぐに私を抱きかかえてくれた。
着いたのは、それなりに大きいマンション。中に入るとその人はタオルを持ってきてわしわしと私の体を拭いた。
その人の手は暖かくて力強くて、お母さんとは少し違うけど、守られている感じがする。
柔らかなタオルの感触に包まれ、私は眠気に身を任せた。
◆
「あれ、お前猫の飼い方の本なんか買って、飼うの?」
同僚の言葉に少し照れながら答える。
「いや、一目惚れしちゃいまして」