【 仮面いもダー 】
◆VXDElOORQI




563 名前:仮面いもダー(1/3) ◆VXDElOORQI 投稿日:2007/03/04(日) 23:59:47.07 ID:nxYeH1QH0
「お兄ちゃん!」
「なんだ、朝っぱらから騒々しい」
 朝、いきなり兄の部屋にやってきた妹は、部屋に入るなりいきなり怒声をあげる。
「これなんなの! どうせお兄ちゃんの仕業なんでしょ!」
 妹はパジャマをお腹までまくり上げ、そこに装着されたベルトを見せる。ベルトはバッ
クルの部分が漫画の単行本ほどの大きさで、中央には小さな風車のようなものが見える。
「少しサイズが大きかったかな」
 そのベルトはサイズが大きいよう少したるんでいた。そのおかげでベルトに隠れずに見
える妹の健康的なお腹がなんともまぶしい。
「だーかーらー! なんでこんなのが私のお腹に付いてるの!」
 兄の態度に妹の怒りはさらにヒートアップして、更なる怒声を兄に浴びせる。
「改造したから」
 やっと出た兄からの回答を理解するのに、妹は少し時間を必要としているようだった。
 しばらく二人の間を沈黙が包み、それを破ったのは妹の疑問に満ちた一言だった。
「誰を?」
「お前を」
「誰が?」
「俺が」
 兄の答えに、妹は頭を掻いたり、腕を組んで「うーん」と唸ってみたり、そのまま部屋
の隅を睨んだり、一通りの考える仕草をして見せる。
「意味がわからない」
 一通り考えたあと妹の口から出た言葉はまたしても疑問の言葉だった。
「ねー」
「ねー。じゃないっ」
 兄の態度に妹は地団駄を踏む。
「まぁ試しにこれを使ってみろ」
 妹が地団駄を踏む様子を華麗にスルーし、兄が取り出したのはヘアドライヤー。
 黙ってヘアドライヤーを受け取った妹は電源コードを兄の首に回す。
「待て。やめろ。違う。使い方が。根本的に違う。電源コードはおとなしく電気供給に使
え。絞殺用じゃない。とりあえずコンセントに繋げ」

564 名前:仮面いもダー(2/3) ◆VXDElOORQI 投稿日:2007/03/05(月) 00:00:11.92 ID:thD9oxML0
 妹は渋々といった様子で兄の首から電源コードを外し、プラグをコンセントに差し込む。
「スイッチを入れて風をベルト中央の風車に当てるんだ」
 兄に言われるがままドライヤーのスイッチを入れ、吐き出される風を風車へと送り込む。
 ドライヤーから吐き出された風が風車を動かした瞬間、ベルトが光り、その光はすぐに
妹全体を包み込む。
「……なにこれ」
 光が消えるとそこには先ほどまでとはまったく違う服を着た妹の姿があった。
「これが弱気を助け強きをくじく仮面いもダーの姿だ! これからお前は悪の秘密結社と
戦い、この町の平和を守るんだ!」
 腰にはベルトがそのまま付いたままで、上半身はセーラー服。その下にはスクール水着
が装着され、乙女の大事なところを守るものはそのスク水のみ。足には白いオーバーニー
ソックス。頭には自転車通学用のヘルメットを被っている。
「……なんでこんな頭の悪そうな格好なの?」
「趣味だ!」
「……仮面は?」
 この質問にまとな答えを期待しても無駄だと悟ったのか、妹は別の疑問を兄にぶつける。
その疑問もある意味、当然の疑問だった。妹が今している格好に『仮面いもダー』の『仮
面』に該当する部分がまったく存在していなかった。
「女の子だし顔は出しておいたほうがいいと思ったんだが、顔隠してないと恥ずかしい?」
「顔がどうとかよりもお兄ちゃんみたいな兄を持ったことが恥ずかしい」
 こめかみをピクピクと痙攣させながら妹はそう答えた。もう怒りの限界点が近いことは
誰が見ても明らかだった。兄以外には。
「そんなこと言って本当は嬉しいくせに」
 妹の言葉のどこをどう解釈して、そういう言葉が出てくるのかまったくわからないが、
兄はなにやら納得した様子で頷いていた。
「お兄ちゃんのバカたれー!」
 その態度についに妹の怒りが爆発した。妹は怒りにまかせ、両手で兄の体を思いっきり
突き飛ばした。
「バッ」
 兄は押されると同時に意味不明な言葉を発し、壁まで吹っ飛んでいった。

565 名前:仮面いもダー(3/3) ◆VXDElOORQI 投稿日:2007/03/05(月) 00:00:35.84 ID:thD9oxML0
「カ野郎……。その姿になったお前は妹千人分の力、千妹力なんだぞ……」
 壁に勢いよく叩きつけられ、息も絶え絶えと言った様子で、兄は妹に文句を言う。
「大体さっきから、仮面いもダーとか、せんいもうとちから、だっけ? ネーミングセン
スがおかしいよ。仮面シスダーでもシスターでもいいじゃん」
 兄が「ぐふっ」とか言いながら苦しんでいるのを気にする様子もなく、妹はさらなる疑
問を兄にぶつける。
「バッカ!」
 兄はヨロヨロと立ち上がり、そう叫んだ。
 いきなりの兄の大声に、妹はビクッと体を震わせ驚く。
「いいか。シスターとはどういう意味だ。姉、妹という意味だ。そしてお前は俺のなんだ! 
姉か!」
「い、妹です」
 妹は兄のいきなりの豹変ぶりに驚きながらも、なんとか答える。
「そう妹だ! 姉ではない。ここがシスターという言葉の致命的な欠陥だ。姉と妹を区別
できない。それではダメだ。お前は妹なのだ。この点だけ見ても、姉と妹を簡単に分けて
表現できる日本語の素晴らしさがわかったと思う。そして俺が付けた『いもダー』という
名称。これは一目で妹とわかる日本語の素晴らしさと現代のカルチャーを融合した画期的
な名前なのだ! わかったか!」
 兄ははぁはぁと息を切らし額に滲んだ汗を拭う。心なしかその顔は達成感に満ちている
ような気がする。
 反面、妹はすっかりあきれ果てた顔をして、投げやりに次の疑問を口にする。
「で、私が戦う悪の秘密結社ってどこにいるの?」
「ふふふ。それはな……。って、し、しまったー!」
 兄はそう叫ぶといきなり頭を抱えてうずくまってしまった。
「ど、どうしたの?」
「じ、実は……」
 兄の深刻な声に妹も思わず息を呑む。
「秘密結社作るの忘れてた……」
 その言葉を口に出した瞬間、兄は再び千妹力の力によって壁に叩きつけられ、しばらく
動くことはなかった。

566 名前:仮面いもダー(3/3) ◆VXDElOORQI 投稿日:2007/03/05(月) 00:01:46.56 ID:thD9oxML0
おしまい

あはははははh



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