【 不思議少女 】
◆InwGZIAUcs




547 名前:不思議少女1/5 ◆InwGZIAUcs 投稿日:2007/03/04(日) 23:47:13.69 ID:GVGSsNSp0
 都会は田舎に比べると数が多い。
 質より量といった感じの小物がうようよしているが、田舎の手に負えないモノに比べれば可愛いモノ。
 夕子はそんな事を思いながら、やたらしつこく付きまとう魑魅魍魎を埃を払うように散らせた。
 端からみれば身だしなみを整えるの為に制服を叩く動作だろう。
 そして彼女は、今日から通う中学校の校門をくぐり抜けた。
 


 その日、朝のホームルームの時間はいつもとは雰囲気が違った。
「おはよう。今日は転校生が来たから紹介するぞ」
 先生の言葉通り、大きな要因はこの転校生。
「えと、お父さんの転勤でこちらに引っ越してきたそうだ。新しい環境に早く馴染めるように皆仲良してもらいたい」
 さあ自己紹介をと勧める先生に促され、その転校生は口を開いた。
「三崎夕子です。よろしくお願いします」
 その素っ気ない言いぐさに、クラスの生徒は反応に困った。が、一人だけ変わった女の子が手を上げる。
「先生! 私の席の隣空いているんで、ここに座って貰いたいです!」
「ん? じゃあ三崎、あの西川の隣に座ってくれ」
 ニコニコした女の子の隣に座った夕子は、彼女をあまり視界には入れずに黒板へと目を向けた。
 隣にいるだけで元気が体中からにじみ出ているのが分るような女の子だと夕子は思う。
 正直苦手なタイプである。
「私、西川麻衣っていうんだ。よろしくね三崎さん」
 夕子は少しけ首を傾け頷いた。



 西川麻衣はとにかく変な女の子であった。
 得体も知れない無口な転校生に喜々として口を聞くのは、人の多い都会の学校とはいえ麻衣だけである。
 良く言えばとても面倒見が良い女の子ということだ。
「ねえねえどこからきたの?」
「誕生日は何時? そう、じゃあ天秤座だね!」

548 名前:不思議少女2/5 ◆InwGZIAUcs 投稿日:2007/03/04(日) 23:47:49.69 ID:GVGSsNSp0
「夕子ちゃんたまにボーッと明後日の方向見てるよね? 悲しそうに見えるけど、何を見てるの?」
 こんな要領で、とにかく質問攻めだ。
 それは夕子にとって憂鬱な学校生活の始まりでもあった。が、一ヶ月も経てば慣れるもの。
 夕子は彼女を適当にあしらいながらも、自分を見てくれる彼女を心のどこかで気に入ってたのかも知れない。
 そんな心を溶かすような西川麻衣の暖かさのせいか、夕子は昔の夢を見た。
 それはまだ夕子に笑顔がよく似合っていた日。

 親友の夏美が苦しんでいる。
 私はその原因を知っていた。
 霊感体質の私と仲良くしているせいだ。
 私に寄ってくる霊が彼女に憑いてしまう。
 私はそれを気のせいにしていた。偶然だと。
 そんな自分を醜く思う。
 そう、私は醜い心に「夏美を守るという」仮面を被っていたんだ。
 私は夏美に憑く霊を払いのける。すると夏美はニコッと笑って言ってくれた。
「ありがとう」
 でもある時、その言葉は違っていた。
「私はもう夕子の側にはいれない……ごめんね」
 それは夏美が田舎独特の荒神に取り憑かれ、私の首を絞めた時のこと。
 誰だってそんな悪霊にまとわりつかれる人間といたくない。
 離れていく親友。
 その後すぐ私の転校が決まったのは唯一の救いだったのかもしれない。
 その日からもう友達は作らないと決めた。誰も守らないと決めた。
 そうすれば悲しくなかった。

 まだ鳴き始めたカラスの声。薄暗い光がカーテンから差し込んでいる。
 目覚めた夕子は枕が少し濡れている事に気付いて苦笑を漏らした。
 その時、カラスの鳴き声が嫌に不吉に聞こえたのは恐らく気のせいではない。
 虫の知らせ。
 それがなんとなく夕子には分った。分ってしまった。

549 名前:不思議少女3/5 ◆InwGZIAUcs 投稿日:2007/03/04(日) 23:48:52.29 ID:GVGSsNSp0
 新しい学校に通い始めて一ヶ月。
 夕子は自戒するように否定をしていた気持。しかし心のどこかで嬉しさを隠せなかった。
気付けばなんとなく麻衣の近くにいた夕子。もっと彼女をはね除ければこんな事にはならなかったかもしれない。
 そう、麻衣は今悪霊に襲われている。



 早朝の校舎には人気がないため、少々の気味が悪い。
 しかし、麻衣にとってそれは今どうでも良いことだ。彼女はただ、声の聞こえる方へ、聞こえる方へと歩いていた。
 焦点の合わない瞳で、麻衣は校舎を少しずつ上にあがっていく。それに伴い自分を呼ぶ声も大きくなっていった。
 古びた扉をこじ開けると、そこはフェンスもない放たれた屋上。
 すると声は下の方から聞こえてきた。
 一歩踏み出せば転落する位置で麻衣は立ち止まる。
 下を覗く。
 そこには何百何千という人間の手と顔の塊。
 その光景に、霞のかかった麻衣の頭の中が少しだけ回転し始める。。
――なんて悲しい色なんだろう? なんでそんなに手を伸ばすの。知りたい。可哀想。行けば……わかる。

「待って!」

 麻衣の肩がぴくっと反応した。
 踏み出そうとした一歩をやめて、ゆっくりと振り返る。
「夕子ちゃん?」
 そこには、髪を振り乱し汗を浮かべた夕子が立っていた。
「こっちにきなさい!」
「夕子ちゃん。何をそんなに怒ってるの?」
 夕子は麻衣の腕を思いっきり引っ張ると、手に持っていたお札で夕子の頭を叩いた。
「散れ!」
 すると、
「あれ?」

550 名前:不思議少女4/5 ◆InwGZIAUcs 投稿日:2007/03/04(日) 23:50:29.24 ID:GVGSsNSp0
 麻衣の虚ろだった瞳が輝きを取戻した。
「夕子ちゃん……私」
「まだなの……もう少し待って」
 夕子は、いつの間にか屋上まで這い上がってきた巨大な手と顔の塊、巨大な魑魅魍魎を見据えて言い放つ。
「あなた達の生は終わりを告げた! ここにいても螺旋の苦しみに足掻くだけ。 散りなさい!」
 次いで彼女は先程麻衣を叩いたお札を投げつけた。
 すると、巨大だった塊が見る見る小さくしぼんでいく。
 額に汗を滲ませ、夕子は全てが塵へと化すのを睨みながら見届ける。
 少しでも残せばあっという間に魑魅魍魎はまた集結し、自分たちを襲ってくるだろう。
 しかしその時、夕子は背後で小さな呟きを聞いた。
「可哀想……」
 思わず振り返ると、普段からは全く想像出来ない、悲しみに顔を歪ませ涙を流す麻衣がいた。



 それから二人は誰もいない自分たちの教室へ戻った。すると、
「助けてくれてありがとう」
 そういってはにかんだ笑みを浮かべる麻衣に、夕子の心にちくりと痛みが走る。
 今回も、大本の原因は夕子自信にあるのだから……。
「私……」
 夕子が口を開き書けた時、麻衣が少し大きな声で遮った。
「私ね! 人の心が色で見えるんだ……寂しそうな人、悲しそうな人、楽しそうな人、全部色で見えるんだ」
 それは麻衣にとってはある意味告白だった。それは誰にも教えなかった自分だけの秘密。
 そして全く予想してなかった麻衣の言葉に、夕子は大きく目を見開らいた。
「人の……心?」
「うん! って言ってもどういう風に見えるかは言葉じゃ伝えにくいんだけど……
けどそれは夕子ちゃんの能力も一緒よね」
 そう言って苦い笑みを浮かべる麻衣。
 当然夕子にその言葉を疑う余地はない。彼女は日頃から人の気をよく汲む子であるの良い証拠である。
「それでね、私なんでこんな変な能力はあるんだろうって悩んだこともあったんだよ?」

551 名前:不思議少女5/5 ◆InwGZIAUcs 投稿日:2007/03/04(日) 23:50:59.25 ID:GVGSsNSp0
 それがどれだけ苦しいことか夕子には理解できた。
 そして夕子はもう一つ理解した。
 麻衣は初めから分っていたのだ。
 夕子の抱いていた苦しみ、悲しみを。ソレが何か具体的には知らなかった麻衣だが、
きっと自分と同じような苦しみの色を持っていた夕子をほっとけなかったのだろう。
「けど私思ったんだ。せっかくこんな素敵な能力があるんだから、できることをやってみよって! 楽しい人がいれば一緒に楽しんで、悲しんでる人がいればその悲しみを半分こ……なかなか上手くはいかないけどね!」
 てへっと舌を出す麻衣。
 夕子は堪えきれず嗚咽を漏らした。
「私も……」



 私は自分の能力、それから転校前の事を話した。
 熱心に聞いた麻衣は、私にこう言った。
「夏美ちゃんは、これ以上夕子ちゃんに迷惑を掛けたくなかったんじゃないかな? 大切な人が苦しんでるのに自分は何も出来ない……それに大切な人を傷つることはとても辛いこと」
 私は聞いた?
 じゃあ、麻衣は私が側にいて、もしまた今回みたいなことがあったらどうする?
「夕子ちゃんが守ってくれるんでしょ? だったら大丈夫よ!」
 堪えきれず私は麻衣を抱きしめていた。
 一人はとても寂しいのだ。
「きゃ! 何この展開?」
 あははと麻衣は笑って抱きしめ返してくれた。
 私も自分に出来るために精一杯守ろう。
 手に届く全ての人を。
 それは誰でもない、自分が自分であることを、守る為に。

終わり



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