【 とある守護霊の一年 】
◆SOS..QJZFc




408 名前:とある守護霊の一年(1/3) ◆SOS..QJZFc 投稿日:2007/03/04(日) 21:50:29.08 ID:aDA/Vxhm0
 多くの人が勘違いしているが、守護霊というのは好き好んで人に憑くわけじゃない。
基本的に俺達はお偉いさんが選んだ人物に憑くいわばガードマンだ。
 そのお偉いさん達が今回俺に選んだのは十八歳のうら若き乙女だった。
ちょっと嬉しかったがそれを伝えに来た事務のおばさんがあまりに「良かったですね」
を繰り返すものだから喜びも半減してしまった。おばさんには思春期の少年は
盛りのついた犬にでも見えるのだろうか。俺はおばさんを完全に無視してさっさと
総務部にネックレスを受け取りに行く。
幽霊の俺が言うのもなんだが、このネックレスというのがまた奇怪なもので首に
かければひとっとびで憑くべき人の下へワープさせてくれるのだ。
どういう仕組みか大変気になるが下っ端が余計なことを知らなくていいのはこっちでも一緒だ。

ビュン

 耳もとで風を裂くような音がするとそこはどこかの大教室だった。彼女の年齢は
十八だったしきっと予備校だろう。首を少し回して俺が憑いた少女を見ると
突如強烈な既視感に襲われたが、こんな美人の知り合いがいた記憶は無い。
そもそも生前の記憶は全て消されているのから記憶などあるはずはないが……
ぱっちりとした二重の目、形のいい鼻、腰まで伸びた艶やかな黒髪。
憂鬱そうな表情が彼女の彫刻のような美しさを引き立てていた。
何度見ても美しい以外の感想はでなかった。
どうやら彼女のほうは俺に気づいていないようで、ノートに落書きを続けている。
頭はあまり良くは無いようだが、それがまた愛らしかった。
前に憑いたおじさんと違い俺が見えないようなのは残念だったが、棘のない
薔薇はないというし案外その方がいいのかもしれない。
 予備校が終わるとその教室にいた五十人ほどの生徒は蜘蛛の子を散らすように帰っていく。


409 名前:とある守護霊の一年(2/3) ◆SOS..QJZFc 投稿日:2007/03/04(日) 21:51:05.66 ID:aDA/Vxhm0
彼女と俺も早々に帰っていくが、彼女が向かった先は家でなく病院だった。
誰が入院しているか結構気になるが、謎の障壁のせいで幽霊は病院に入れない。
敵の死神が一番出そうな場所なのになぜだろうか? まあ下っ端が気にすることではないが。
彼女は三十分後に病院から出てきた。ちょっと目が腫れぼったかったから泣いたのかもしれない。
ますます入院している人が気になるがやっぱり病院には入れない。
そこからは電車に乗りまっすぐ家に帰ったが、家には灯りがともっていなかった。
もしかしたら母親が入院しているのかもしれない。
結果として俺の推理は当たっていたようだ。深夜に父親が帰ってきたが、母親は帰ってこなかった。
薄幸の美少女といったところだろうか、幽霊と人という身分を乗り越えてでも恋したくなるような設定だ。
次の日もその次の日も彼女は病院に行った。その度に彼女は泣いていた。

事件がおきたのは俺が彼女に憑いて四日目のことだった。いつものように
病院から帰る途中、彼女が路地裏で三人のチンピラに絡まれたのだ。
チンピラが汚い言葉で罵りながら彼女を地面に押し倒すと三人の中の一人
スキンヘッドが倒れた彼女に馬乗りで跨り服を脱がそうとした。
俺はその時思わず人に触れるという禁忌を犯してしまった。そう、スキンヘッドと彼女に触ってしまったのだ。
俺はスキンヘッドの顔を正面から蹴り飛ばし彼女を抱きかかえ飛び上がった。
きっとスキンヘッドと彼女にはもう俺の正体が見えているに違いない。
俺は心の中で舌打ちしたが、後悔は無かった。
そもそも守護霊が攻撃していい対象が生命の無いものだけという決まりがおかしいのだ。
どこまでも澄み渡った夜空の中、彼女を連れてどこまでも逃げようと決心した。
俺がふと彼女の顔を見ると彼女の顔に!マークが浮かんだ。


410 名前:とある守護霊の一年(3/3) ◆SOS..QJZFc 投稿日:2007/03/04(日) 21:51:50.73 ID:aDA/Vxhm0
そして笑いながら一言
「病院まで連れっててよ馬鹿」
と命じた。
よく分からないが俺は病院まで飛翔を続けた。
「ほら着いたぞ」
「着いたぞじゃないわよ、中まで行きなさいよ」
「生憎と幽霊は病院には入れないもんで」
「全く世話かけるわね」
彼女はそういうとスキップするように病院に消えていった。
俺の頭は完全に混乱していたので、しばらく思考を整理していると
何か重そうな人のようなものを持った彼女が帰ってきた。
「はやく戻りなさいよ」
そういった彼女が指差していたのは紛れも無く俺だった。
俺は恐る恐る自分の入れ物に触った……
 目を開けると恐ろしいほどの太陽の光に視界がホワイトアウトした。それでも俺は頭に浮かんだ一つに単語を呟いた。
「百合絵」
「ずいぶん長いこと寝てたのね、お寝坊さん」
「たかが一年じゃないか」
俺達は空白の一年を埋めるかのように笑った。

思い出したが百合絵のおふくろさんは海外勤務だった。

それともうひとつ次に死んだ時は事務のおばさんに謝らないといけない。





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