【 妖刀地獄変 】
◆VaqwaF8GAA




121 :No.35 妖刀地獄変 (1/1) ◇VaqwaF8GAA:07/02/25 23:20:50 ID:6Tu5S6sN
 かつて、最強と謳われた一振りの刀があった。
 その刀は戦場で、人も、馬も、生きるもの全てを斬り捨てた。
 人を斬るたび、その刀身は血に濡れ、妖しく輝いたという。

 妖刀。そう呼ばれるのに、さほど時間はかからなかった。


 ある日、その妖刀を一人の侍が手に入れた。
 侍は、妖刀を鞘から抜いた。
 しゃら
 その刀身は、綺麗だった。幾百、幾千の人を斬ったにもかかわらず、脂一つ付いていなかった。

 美しい。
 侍は心を奪われた。
 その妖しい魅力に取り付かれた侍は、頭の中で声を聞いた。

 斬れ。斬れ。人を、馬を、生きとし生けるもの全てを、斬れ。
 斬れ。斬れ。斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ。

 侍はその声に抵抗することができなかった。ふらり、ふらりと戦場に歩いてゆく。
 しかしこの侍、根っからのヘタレであった。
 血がこわい。死が恐ろしい。
 技巧は優れていたが、それだけである。
 そしてそんな彼が、人を斬れるはずもなく。

 結局彼は、その妖刀を引っさげて、料理人となった。
 今では妖刀は人ではなく、野菜や肉を切って生活している。

 めでたし、めでたし。
                                              おしまい



BACK−消えゆくわたくし◆X3vAxc9Yu6  |  INDEXへ  |  NEXT−骨董刀◆KARRBU6hjo