【 盲者と魍魎 】
◆FVCHcev9K2
107 :No.30 盲者と魍魎 (1/1) ◇FVCHcev9K2:07/02/25 22:58:21 ID:XGJefOCM
これは狐に化かされたか、と旅の男は思った。
ここ数里歩いてきたが、きっかり一町ごとに柳の木がある。
さらに言えば先ほどからその木の下に人がいるようだ。
というのも今は宵闇の中。なんとなく気配がするだけだ。
薄気味悪いと思いつつ男はそれに声を掛けた、が答えない。近づいた、が動かない。
どころか、近づいて分かった。これは人間の気配ではない。
魍魎は刃物を嫌う。男は護身用の脇差でそれを切って捨てた。ばっさりとした手ごたえがあった。
すると、次に一町歩いた先に柳はなかった。
やはり物の怪の類であったか、と旅の男は宿場へと急いだ。
翌朝、うちの案山子を斬ったのは誰だ、という農民の怒声が響いた。
田畑の間に見える、一本だけ生えた柳が目印の小さな街道に。
了