83 :No.24 切っ先の行方1/3 ◇InwGZIAUcs :07/02/25 16:20:13 ID:P8GIJP6V
自分の部屋のベットの上、今日の目覚はいつもにも増して最悪。
手元に感じた異物、これが大きな原因だった。
赤く濡れた日本刀。
それ以外に形容しがたい物が私の右手に握られている。
優雅な刃の曲線がサラサラとした赤い液をまとっている。
布団だけでなく、部屋のあちらこちらが同じ色で汚れていた。
寝ぼけ眼を擦りもせず私は日本刀に見入る。
ネグリジェは勿論、最近着け始めたブラジャーまで汚れているが気にしない。
動揺していない理由はいくつかある。
まず身に覚えがない状況であるという事、そしてこのような理解不能な事態には良く見知った黒幕がいる。
考えるまでもない。
多分あの人の仕業だ。
私の兄はオタクである。
それもニートの二十歳。
兄は私にやたらと嫌がらせをしてくるのだ。
例えばこんなこともあった。
私がお風呂から上がると、置いてあった着替えが彼のコレクションであるコスプレの服にすり替わっていたのだ。
当然、着る物がそれしかないので、それを着て自分の部屋に行き着替えた。
その途中、兄はこそこそ私をデジカメで撮っていたけど、いちいち気にかけていたらキリがない。
そういった抵抗はとうの昔に諦めている。
今日のことも大体予想がつく。
たぶん、女子中学生が肌着で血まみれの日本刀を持っているという状況にでも萌えているのだろう。
溜息すらでてこない。
この布団やら下着やら彼はどうするつもりなのだろうか。
すると案の定、扉の影で兄がデジカメをこちらに向けていた。
話しは変るけど、私は物事を押さえ込むタイプらしい。
84 :No.24 切っ先の行方2/3 ◇InwGZIAUcs:07/02/25 16:20:52 ID:P8GIJP6V
つまりは自分でも意識せず意志を抑えて、物事を処理しようとする傾向があるということ。
それがほんの少し前、学校で行った心理検査の結果だ。
その事が自分にとって負担だと思った事はない。
何故ならそれが私なのだから。
それ以外にも、協調性がないなど色々書かれていたけど、興味は無かった。
コレ返す。
そう言って扉の影に隠れていた兄に日本刀を差し出した。
兄はニヤニヤしながら刀を受け取り、私は扉を閉めた。
部屋の中は所々汚れた赤。
うんざりする。
布団は買い換えようかとも思う。
ふと横を見ると、鏡には赤く汚れた自分がいた。
赤く汚れた左手首だけ、やけに生々しく見えた。
うん。あんなレプリカの刀じゃ人は切れない。
それに色が違う。
匂いが違う。
兄にもそれを教えてあげよう。
オタクは物事を追求するのが好きなのだから。
人のストレスとは不可視のものでありながら、確実に存在しているようね。
先程見たせいか、日本刀が頭にイメージされる。
そのイメージに沿うならば、私は心中の刀を鞘に収めることを得意としているらしい。
そのかわり、一度抜き放った切っ先は収める事が出来ないみたい。
これは新発見。
兄も解った筈、もう尋ねても意味無いけど。
絵の具と血の臭いの差。
赤さと朱さの差。
85 :No.24 切っ先の行方3/3 ◇InwGZIAUcs:07/02/25 16:21:25 ID:P8GIJP6V
そんなレプリカよりよほど切れる私の愛刀。
カッターナイフ。
完