81 ：No.23 外国人の客（1/2） ◇9IieNe9xZI ：07/02/25 15:36:58 ID:P8GIJP6V
お手紙拝見しました。どうやらあなたは私を危険人物の如く思われた様ですが、それは
間違いです。私は無差別に人を殺戮しようなどと考えてはいません。ですから、そちらで
購入した刀をその様に使う事はないので、どうかご安心を。
あなたは私の手紙を読んで日本語が上手だと褒めて下さいましたが、私などまだまだ未
熟ですので、お恥ずかしい限りです。
侍に憧れ、日本の文化を勉強し始めてから五年ほど経ちます。しかし多忙な生活のため
未だ日本を訪れた事はなく、これでは真の侍になれる日は一体いつになる事やらと、我な
がら呆れている次第です。
さて、以前よりそちらに日本刀を注文していますが、私がなぜ刀を買おうとしているのかが
充分に説明できていなかった様なので、再度説明をさせて頂きます。
私はそちらの国で言う忍者の様な仕事をしています。主君を脇から支える仕事です。
よく与えられる任務は敵の排除ですが、これが大変骨の折れる仕事なのです。
この仕事はただ単に人を殺せば良いという訳ではありません。常に私が心がけているの
は、その芸術性です。美しさのない所に芸術は生まれないので、いつも練習を怠らない様
に注意する必要があります。
また、それは主君の意向に沿った物でないといけません。主に満足してもらえなけれ
ば、私は失業してしまうでしょう。
この間遂行した任務を、参考までにここに記しておきます。それで私の仕事の難しさと
面白さがお伝えできれば幸いです。
その時の私の雇い主は、非常に変態的な男でした。彼はとても裕福なので、その変態
趣味を存分に探求する事ができました。屋敷の衣裳部屋には二千着ものドレスがあり、そ
れは大変きらびやかなのですが、私の目には少々どぎつい色に映ったものです。彼はそれ
を男に着せて喜ぶ様な人間でした。また自分で着る嗜好も持ち合わせています。
その日私は特殊な格好で控え室に待たされました。私が着せられていたのは皮革製のマ
スクとズボンと長靴で、上半身は裸です。その様な格好をするのは恥ずかしかったのです
が、これも仕事の内なので仕方ありません。
82 ：No.23 外国人の客（2/2） ◇9IieNe9xZI：07/02/25 15:37:39 ID:P8GIJP6V
しばらくして私は使用人に呼ばれ、地下室へ赴きました。そこではドレスを身につけた
男が寝台に拘束されていました。両手と両足は手錠で寝台にくくり付けられています。そ
の男が麻薬組織のお金を横領したと言う話でした。彼は私の姿を見つけると、悲鳴を上げ
ました。とても不気味な姿なので、自然な反応に違いありません。
私を雇った男は、彼を拷問して殺す様に事前に私に命じていました。
地下室には拷問具が並べられています。金槌や釘、ノコギリなどの大工道具から、薬品
の類、なぜか爪切りまでありました。
ここで重要なのは、私が仕事の前に充分に拷問具を扱う練習をしていた事です。きっと
お分かり頂けると思いますが、道具の扱いに長けていなくては、主を満足させるのは不可
能なのです。
私は慣れた手つきで男を拷問し、処刑する様を主に見せる事ができました。彼はとても
喜んでくれ、また私に仕事を依頼すると約束してくれました。苦労した甲斐があったの
で、私も大満足です。
ここまで書けば察しはついておられるでしょうが、次の任務では日本刀を使用する予定
でいます。私は日本についてそれなりに知識を持っていますが、さすがに本物の刀を振り
回した経験などありません。私の国で色々な店を周ってみても粗悪な紛い物しか見当たら
ず、困り果てていた所で知人にあなたのお店を紹介され、私は飛び上がって喜びました。
本物の日本刀で練習をすれば、本番では華麗な刀さばきを披露できるでしょう。
これで私が危険な人物でない事はお分かり頂けたと思いますので、お互い気持ち良く取
り引きができますね。
さて、さっそくで申し訳ないのですが、先日発注した内容に若干の変更を加えたいので
す。刃渡りをニ尺三寸から、三尺にさせて下さい。私は宮本武蔵の様な剣の達人役をやる
ので、練習にはそれくらいが丁度良いのでは、と思いました。
最後になりますが、私が出演した映画のビデオをそちらへお送りします。それを観れ
ば、私がどれほど演技に情熱を燃やしているか理解して頂けると思います。
また、その仕事中に撮影した記念写真も今回同封しておきました。向かって右が私で、
左でドレスを着ているのが監督です。彼は監督だけでなく演技も上手にこなし、多才な事
で有名ですので、あなたもご存知かもしれません。彼は変態ですが素晴らしい人物です。 了