【 神楽舞 】
◆PUPPETp/a.




69 :No.19 神楽舞 1/2 ◇PUPPETp/a.:07/02/25 01:42:57 ID:P8GIJP6V
 まだまだ雪深い青森の山すそ。
 ゴムのような焼きそば。明日には萎む綿飴。当たりが入っているかわからないクジ。
 そういった、昔ながらの出店が軒を連ねている。
 その前を通り過ぎ、たくさんの足によって雪を踏み固めた階段を一段ずつ登る。
 吐く息も白い。しかし、最後の一段を上るとそこには熱気が溢れていた。
 たくさんの人、人、人。
 篝火に照らされて、人のざわめきすらも意味ありげに思えてくる。
 ざわめく人たちは手に白酒を持って、何かを待っていた。
 シャン。
 ざわめきは静まり、拝殿を見ていた人たちもみんな一斉に右を見る。
 神社の境内の、そのまた奥にある拝殿に座す人影が笛を咥え、甲高い音を響かせた。
 それはまるで鎮守の森へと語りかけるように伸びやかに染みていく。
 みながみな、視線を送る先から神主が一人、静やかに歩を進めてくる。
 その手に捧げ持つのは一抱えはある朱色の杯である。
 杯の中には、その年に作られた神酒が注がれていた。
 視線を一身に浴びる神主は、誰の目にも見えないだろう何かへ一礼する。
 一つ間違えばこぼしてしまいそうなほどの神酒を、慎重な手付きで素木の三方へと捧げる。
 シャン。
 鈴の音が再度、場を占める。

70 :No.19 神楽舞 2/2 ◇PUPPETp/a.:07/02/25 01:43:37 ID:P8GIJP6V
 荘厳な祝詞の声と共に拝殿の奥から天狗の面が現れる。
 その天狗は、片手に反りの入った宝剣を、もう一方に幾重にも重ねられた鈴を携えていた。
 ダンと力強く足を鳴らし、舞が行なわれるのだ。
 宝剣、と名づけられたその舞は、天孫降臨の際に猿田彦命が先達として、また護衛として道を開く様を表した
ものと聞く。
 片手に持つ宝剣は篝火を照らし、妖しげな光を放つ。
 祝詞に合わせ、太鼓、笛が音曲を奏でる。
 猿田彦命に扮する神官が鈴を持つ手を掲げ、自らの動きに合わせて掻き鳴らす。
 宝剣を捧げ持ち、くるりくるりと回転すると獅子のような髪が追いかける。
 それはまるで敵を威嚇する様のように見えた。包囲された猿田彦命が懸命に敵を見回すのだ。
 鈴を掻き鳴らし、敵を追い詰め、宝剣で屠っていく。
 力強く床を踏み付け、睥睨するように睨みつける。
 そうして天照大神を守っている。
 シャン。
 三方に置かれた神酒が揺らぐ。
 いよいよ佳境へと押し迫った感のある、緊張感漂う笛の貫くような音色が響く。
 宙高く舞い、揺らめく明かりを受けて宝剣はその最後の役目を果たそうとする。
 猿田彦命が乱れ髪を振り、宝剣をダンと床へと刺す。
 よく見ると床には刺し傷が大量に残されていた。
 ピュイと締める笛の音に合わせ、呆けるように見つめていた人たちの手が打ち鳴らされる。
 何百年と続くその神楽が、今年も無事に終わるのだ。
 シャン。
 最後の一鳴らしをすると、右手から先ほどの神主が歩み出てきた。
 三方の前に出ると二礼二拍一礼をし、杯を手に取る。
 そこには先ほどの半分ほどの量の神酒があった。
 こうして、神へと捧げる神事が無事に終了を告げる。



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