【 姉と牛乳と僕 】
◆h97CRfGlsw




127 名前:No.45 姉と牛乳と僕(1/3) ◇h97CRfGlsw[] 投稿日:07/02/18(日) 23:42:14 ID:h9YV0QBh
「牛乳風呂に入りたい」
 自室でまったりと苺ましまろを読んでいると、姉がノックもせず部屋に押し入ってきて開口一番。気に介さず漫画を読み進めると、姉はぐるりと前転で接近してきた。顔が近い。
「さあ」
「自分でやればいいと思った」
「出来れば既にやっている。でなければ一体誰がお前のようなオタクの手など借りよう考えるか。自惚れるのもいい加減にしろ」
 果たして姉は喧嘩を売りにきたのだろうか。蹴飛ばそうかと一瞬考えるが、この歯に衣も着せぬ口上は姉の姉たる証のようなもので、他意はないのだと思い出して考え直した。
 この性質のせいで、姉は三日以上継続してカップルを続けられたためしがない。そんなことは至極どうでもいいことなのだが、もう沢山だと男に別れを告げられた時の姉の悲痛な表情を思い出さなければ、やっていられないというもの。
 ふう、と溜め息をついて苺ましまろを机に置く。すると、僕が何の行動も取ろうとしないことに業を煮やした姉が、唐突に服を脱ぎだした。下着だけの姉の肢体はしなやかで艶やかで、ペドフィリアな僕は特に何も感じなかった。
 姉は自分の体を見ても反応しない僕の下半身を見て憤慨したのか、「死ねばいいのに」と罵ってきた。お前が死ね。
「今から5分後に風呂へ行く。それまでに牛乳風呂を製作しておけ! いいか、30分は入るからな。私に凍死して欲しくなかったら、早く行って作ってこい!」
 ああ、苺ましまろのなんと面白いことか。僕も参加したいとまでは言わないが、せめて二次元へと旅立つことが出来たらいいのに。猥雑で面倒ばかりのこの世界に、僕はいい加減飽き飽きとしていた。
「私が死んでもいいのか!」
 姉が物凄い勢いで震え出したので、仕方なしに布団から抜け出して苺ましまろを本棚に片付ける。ここで死なれては、マスコミに近親相姦者のレッテル貼られてしまうだろう。それだけは避けたかった。
 間髪いれずに僕の体温が残る布団に体を埋めた姉を一瞥してから、リビングへと降りる。母が台所でドーナツを揚げていた。美味しそうな薫りを堪能しながら、冷蔵庫を開く。
「母さん、牛乳貰ってもいい?」
「いいわよ。でも、ドーナツ食べる時に飲みたいから、少しだけにしてね」
 とのことなので、僕は一リットルパックの牛乳を一本だけ手にし、風呂場へと向った。換気のためか窓が開け放たれていたので、思わず身震いしてしまうほど寒い。窓を閉め、浴場内暖房のスイッチを押す。
 説明するまでもないと思うが、牛乳風呂と言うのはお湯のかわりに暖かい牛乳を使ったお風呂のことだ。つまり普段使用する分だけの牛乳が必要であり、一リットル程度では浴槽の底に薄い幕を張るだけと相成った。
「出来たか?」
 出来るわけがないだろうとアイアンクローを決めたがる自分と折り合いをつけ、僕は出来たよ、と答えた。そうか、よくやったぞと姉が頭を撫でてくる。ぐしぐしとかき混ぜるので、ぼさぼさの髪がよりぼさぼさになった。
 姉は下着を僕の目の前で全て脱ぎ捨てると、浴槽の中に体を沈めた。ふぅー、とさも気持ち良さそうに息を抜く姉。どうやら満足してもらえたらしい。


128 名前:No.45 姉と牛乳と僕(2/3) ◇h97CRfGlsw[] 投稿日:07/02/18(日) 23:42:44 ID:h9YV0QBh
「牛乳風呂に入るとな、肌がすべすべになるらしいのだ。いやあ、これで私もちゅるんちゅるんの肌を手に入れるというわけだな。ふふふ……ってなんだこれはー!」
「牛乳が足りなくて」
「なるほど」
 姉は腕を組み、ふむふむと納得した顔になった。そろそろ苺ましまろの続きが読みたいので部屋へ戻ろうとしたら、浴槽にいたはずの姉が脱衣所まで出てきて、首に腕を回して足止めをしてきた。
「牛乳が足りないのなら、調達してくるくらいの機転は利かせられないのか、このばきゃ……馬鹿者が!」
 どうやら凄く寒いらしい。知ったこっちゃないのだが、だんだんこの精神障害者然とした姉のことがだんだんと気の毒になってきた。わかったよ、と姉をなだめてから、再びリビングへ戻る。
「母さん、もっと牛乳欲しいんだけど」
「ああ、レンジにあなたとお姉ちゃんの分があるわ。持っていってあげなさい」
 こくりと頷いて、マグカップ二つを持って風呂場へ戻る。姉は律儀にも浴槽の中で震えていて、戻ってきた僕を見て親指を突き出した。僕は一口ホットミルクを飲んでから、姉の分のそれを浴槽につぎ足した。
「それもよこさんか、愚弟が」
 なんとあつかましいことか。少しむっときたが、まあいいかと献上することにする。せっかくなので、頭の上からぼたぼたとかけてやった。白濁色の液体が、姉の髪を滴って顔にかかった。言っておくが僕はペドフィリアだ。
「少し暖かくなった」
「それはそれは」
「でもな、まだ寒いんだ。この辺りがな……」
 姉は悲痛そうな顔を作ってから、優しい手つきで胸の中心あたりを抑えた。馬鹿みたいに素っ裸で牛乳の薄く張った浴槽につかり、馬鹿みたいなクサいセリフに演技をする姉は、まさしく馬鹿だった。
「……今は亡き父がな、死に際にこう言ったんだよ。『一度でいいから、牛乳風呂に入ってみたかった』と。私はその夢を、この家の長子として、継がねばならんのだ!」
 深い使命感に溢れる姉は、浴槽から勢いよく立ち上がると、声高々に叫んで拳を握り締めた。そして僕に振り向き、肩をひしと掴んできた。Dカップの胸がゆさゆさと揺れる。風呂場は大分暖かくなっていた。
「だからこそ! 私は牛乳風呂にはいらねばならんのだ! たとえこの命、尽きようとも!」
 早く死ねばいいのに。
「ということだ。だから早く牛乳調達して来い。私の財布にお金入ってるから」
 牛乳まみれの足に背中を蹴飛ばされ、僕は脱衣所の冷たい床の上に転がった。はあ、と溜め息をつき、またリビングへと戻る。
 姉の財布はソファーの上に置いてあった鞄の中にあった。中身に諭吉の連合軍が控えていたところを見るに、どうやら最初から牛乳風呂を実行するつもりだったようだ。一連の流れは僕に買い出しを押し付けるためか。
 姉の財布から金を抜き取り、車の鍵と一緒にポケットに無造作に突っ込む。玄関に座り込んで靴紐を結んでいると、後ろから声をかけられた。
「ん、どうしたの? 出かけるの?」
「うん、牛乳買に行くんだよ」
 そう、とそれだけ言ってリビングへと入っていった母さんを見送って、家をでる。近所のスーパーに向った。そこで牛乳の買占めを行い、店員に手伝わせてトランクに詰める。心底迷惑そうな顔をしていたが、気にしない。


129 名前:No.45 姉と牛乳と僕(3/3) ◇h97CRfGlsw[] 投稿日:07/02/18(日) 23:43:13 ID:h9YV0QBh
「ブラボー。おお、ブラボー。おお……ブラボー」
 唇を紫にしながら待っていた姉は、大量の牛乳を見て拍手をした。そんな馬鹿を無視して、淡々と浴槽に牛乳を注ぎ込んでいく。水位が上がるたびに嬉声をあげる姉。
 一通り入れ終わると、姉の肩までしっかりと牛乳で埋まった。追い炊き機能を使って暖めると、ようやく姉は満足がいったような顔をして溜め息をついた。
「あー……極楽極楽。おい、弟よ、ちこう寄れ。誉めてつかわす」
 牛乳まみれの姉に触れて欲しくなかったので、無視して風呂場を後にした。とんとん、よ階段を上り、自室へと向う。手には苺ましまろの続巻を持って。姉の金で買ったものだ。
「漫画もいいが、少しは勉強しろよ。これ以上の留年は困るからな」
 廊下で父さんとすれ違う。わかってるよと返すと、父さんは渋い顔をした。
「ところで、涼子は何処にいるんだ?」
「ああ、風呂場。父さんの遺言に従って、牛乳風呂に入ってる」 
 自室に入る。少し冷えてしまったベッドに入り、苺ましまろの続きを読む。階下から、父さんの怒声と姉の悲鳴が木霊した。
 そんな日常。漫画を読みつつも、僕は少しだけ、勉強を頑張ろうかなと思った。
「何故生きている、このクソ親父ィ――ッッ!」
 一刻も早く、あの馬鹿な姉と離れて暮らすためにもだ。 




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