【 悪党は反省しない 】
◆3f0Xs6b.AU




125 名前:No.44 悪党は反省しない(1/2) ◇3f0Xs6b.AU[] 投稿日:07/02/18(日) 23:39:20 ID:h9YV0QBh
「牛乳をくれ」
 その言葉で、飲兵衛どもはざわついた。
 場違いな女が入ってきたときには何も反応を示さなかったにもかかわらずだ。
 俺は一度目を瞑る。たっぷり、一秒待ってから、
「すまん、もう一度言ってくれ」
 お決まりの台詞を言う。
「だから、牛乳だ。ミルクだ。牛の乳だ。早くしてくれ」
 女はその台詞の重さを無視するように、面倒そうに言い切った。
 俺は目をぎらつかせたジャックを見て、覚悟を決める。
 もう、後戻りは出来ないだろう。
 俺はカウンターのショットガンを手繰り寄せる。いつ、ドンパチが始まってもいいようにだ。
 それから、冷蔵庫を開け、もうすでにジョッキ一杯に注いである牛乳を取り出す。
「ここは酒場だ。次からはアルコールを注文しな」
 ジョッキから牛乳を溢しながら、乱暴に女の前に置く。
 これで、俺の役割は終わり、ジャックと女の舞台になった。
 後は、カウントダウンできるほどのお約束。
 三、二、一。ズドン。
 女の前にあるジョッキが弾けとんだ。
 轟音の方向には、ニヤニヤ笑いと、煙が立ち上る銃口と、おっ立てられた中指。
 女の方向には、、氷のような無表情と、ぶちまけられた牛乳と、取っ手を持ったままの左手。
 宣戦布告は成された。
 女は立ち上がり、ジャックを睨んだ。
 台詞などなくても、次の立ち回りは誰にでもわかる。
 俺はショットガンを握り締め、こそこそと離れる。好き好んで死にたくは無い。
 そして、耳が痛いほどの沈黙。
 息を呑む音。
 水滴の音。
 音もなく、ジャックの心臓に穴が開いていた。向こう側が見渡せる。
 女の右手に握られている光線銃。
 どさりと倒れるジャックの敗北。他に言う事なんて無い。


126 名前:No.44 悪党は反省しない(2/2) ◇3f0Xs6b.AU[] 投稿日:07/02/18(日) 23:39:55 ID:h9YV0QBh
「邪魔したな」
 女はそれだけいって、去っていく。
 声をかけようとするものなど、この酒場にはいない。
 残ったのは割れたジョッキと、ジャックの体と、牛乳とジョッキの赤字。
 俺はため息をつく。でっかいドンパチが起きなかったことに、落胆して。
「おい、いつまで寝てんだ。起きろ、バカ」
 飲兵衛がジャックを蹴り飛ばした。ゲラゲラゲラと笑いが起きる。
「痛って!」
 ジャックは飛び起きた。胸に大きな穴をこさえたまま。
「穴こさえたの何度目だ」「また負けやがって」「よっしゃ! 賭けは俺の勝ちだな!」「よくやるな」「てか、あの穴は痛いだろ」「直るのに時間かかんじゃね」
「あー、糞! 痛えじゃねえか! 次ぎ来た奴は、絶対ぶっ殺す!」
 ジャックは心臓の穴に左手を突っ込んだりしながら叫んだ。
「前も言ってたじゃねえか」「そもそも、殺せねえだろ。死なないんだから」ゲラゲラゲラゲラ。
 そう、誰も彼も死ななくなってから、えらい時間がたってしまった。
 そして、暇を持て余した結果が、このアホみたいな光景だ。
 死んで死んで死にまくってるのに、ジャックは学ぼうとしない。撃たれれば激痛を味わうはずなのに。
 それを聞いた、別のバカどもがやってきて決闘をしていく。
 牛乳を注文するのが合図らしい。バカが。
「おい、ジャック。片付けておけよ」
 俺は何時ものようにショットガンをカウンターに奥にねじ込みながら言う。
 不老不死で、人類は例外もなくバカになったらしい。
 俺だって楽しんでいるんだ、間違いは無い。

<了>



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