【 お兄ちゃんと牛乳と私 】
◆VXDElOORQI




122 名前:No.43 お兄ちゃんと牛乳と私(1/3) ◇VXDElOORQI[] 投稿日:07/02/18(日) 23:34:08 ID:h9YV0QBh
「おう。おはよう。牛乳飲め」
 朝、お兄ちゃんに会うなり、いきなり牛乳を勧められた。
「う、うん。ありがと」
 私はその牛乳を一気に飲み干し、空になったコップをお兄ちゃんに渡す。
 お兄ちゃんは私の飲みっぷりを無駄に喜び、「はっは。いい飲みっぷりだな。もう一杯飲
むか?」と勧めてきた。
 私はそれを丁重に断り、洗顔と歯磨きのために洗面所に向かった。

 朝の身支度を終え、朝食を食べようと食卓に向かうと、食卓の上には、ミルクジャムが
たっぷり塗られたトーストに、すでに牛乳がかけられているコーンフレーク。そしてコッ
プに注がれた牛乳が置かれていた。
「今日は牛乳尽くしだね」
「まぁ気にせず食え」
「う、うん。いただきます」
 さすがにこうも牛乳ばっかりだと飽きてくる。そのことが表情に出てしまったのか、お
兄ちゃんはなぜか半泣きで「ひょっとして不味かった?」などと聞いてくる。今にも泣き
そうなお兄ちゃんを見て「正直飽きた」などと言えるはずもなく、私は全力の作り笑顔で
「ううん。おいしいよ」と答えた。
「そうかそうか。ならよかった」
 お兄ちゃんは満足そうにうなずき、空になった私のコップに牛乳を注いだ。

 昼休憩、教室で保温機能付きお弁当箱を開けると中にはなんとクリームシチューが入っ
ていた。正直、泣きそうになった。

「ただいまー」
「おかえり。牛乳飲め」
「う、うん。ありがと」
 またしても勧められるまま牛乳を飲み干す私。
「はっは。いい飲みっぷりだな。もう一杯飲むか?」
 私は既視感を感じつつそれを丁重に断った。


123 名前:No.43 お兄ちゃんと牛乳と私(2/3) ◇VXDElOORQI[] 投稿日:07/02/18(日) 23:34:47 ID:h9YV0QBh
 夕食も予想通り、牛乳尽くしだった。
 だが品揃えが奇抜すぎる。お弁当にも入っていたクリームシチューにフレンチトースト。
ここまではまだいい。カロリーが高そうだけど許容しよう。だけどここにミルク粥を加え
る神経を私は理解できない。そして当然のように牛乳で満たされたコップが置いてあった。
「い、いただきます」
 箸が進まない。正確にはスプーンが進まない。
 朝からずーっと牛乳味の物しか食べてない。
 醤油味のものが食べたい。私の中で誰かがそう囁いていた。
「体の具合でも悪いのか?」
 あまり食べてない私を心配したのか、お兄ちゃんは涙目でそう聞いてきた。いくらなん
でも、ちょっと食べないくらいで涙目になるのは勘弁して欲しい。
「ううん、大丈夫だよ」
 私は全身全霊の作り笑顔でそう答える。

「ご、ごちそうさま」
 なんとか全部食べ終えた。
 お兄ちゃんは満足そうに頷きならが、食器を流しへと運んでいく。
「ねぇお兄ちゃん。聞きたいことがあるんだけど」
「ん? なんだ?」
「なんで今日はこんなに牛乳ばっかりなの」
 お兄ちゃんは質問に答えず全てを食器を流しへ運び終えると、私の正面の椅子に座った。
「実はな。昨日の夜見てしまったんだ」
 いつになく真剣な表情で話し始めるお兄ちゃん。
「な、なにを?」
 お兄ちゃんの雰囲気に釣られて、ゴクッと唾を飲み込む。
「お前の着替えを」
「……え?」
 なにを言ってるの? 見た? 着替えを? 誰の? 私の? え、なんで?



124 名前:No.43 お兄ちゃんと牛乳と私(3/3) ◇VXDElOORQI[] 投稿日:07/02/18(日) 23:35:14 ID:h9YV0QBh
「か、勘違いするなよ。偶然だ。たまたまお前の部屋の前を通ったら、扉が開いてて、そ
れで中を覗いたら、お前がパジャマに着替えるところだったんだ」
「ま、まあいいよ。たまにはそういうこともあるもんね。これからは私も気をつけるよ。
で、それが牛乳となんの関係があるの?」
 私はところどころ上擦る声でなんとか話を続ける。
「そのとき俺は見てしまったんだ。お前の胸を。俺は悲しくなった。洗濯板のごとくまっ
平らなお前の胸を見て。このままではダメだ。妹の胸は俺が成長さしてやれねばならん。
そう思ったんだ」
 自分の顔が赤くなっていることと、こめかみのあたりがピクピクと痙攣しているのが自
分でもわかる。
「そ、それで胸を大きくしようと、私に牛乳を……?」
「そうだ」
「お、お、お、お兄ちゃんのバカー!」
 私の渾身の右ストレートがお兄ちゃんの顔面を捉える。
 お兄ちゃんは「グバハァ!」と叫び椅子ごと後ろに倒れる。
「わ、私が貧乳なのは私が一番わかってるの! お兄ちゃんにどうにかしてもらおうなん
て思ってないんだから!」
「す、すまん……」
 お兄ちゃんは泣いていた。鼻血をダラダラ流しながら。
「バカァ……」
 私も泣いた。お兄ちゃんの無駄な優しさと、自分の貧乳を呪いながら。

おしまい



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