【 ホットミルクの冷めない距離に 】
◆.ohXkT36yY




69 名前:No.24 ホットミルクの冷めない距離に(1/3) ◇.ohXkT36yY[] 投稿日:07/02/18(日) 11:47:40 ID:V50whKxg
 牛乳を鍋に注ぎ、点火。
 コトコト火にかけ、焦げないようにかき混ぜる。
 砂糖はお好み、匂いを消すにはバニラエッセンスを少々。
 これでホットミルクの完成。寒い日はこれに限る。
 生活費にそれほど余裕のない私達は、こたつとこれで暖を取るのが習慣だった。

「えっと、あんたは蜂蜜入れるんだっけ?」
「んー、頼むわー」

 あいよー、と返事。
 この狭いアパートだ、台所にいても声は十分届く。
 どうも蜂蜜が結構入っているほうが好きらしいので、たっぷりと。

「う!」

 ……うん、これくらいなら大丈夫、これくらいなら。

70 名前:No.24 ホットミルクの冷めない距離に(2/3) ◇.ohXkT36yY[] 投稿日:07/02/18(日) 11:48:18 ID:V50whKxg
「うん、美味い」

 大丈夫だった。
 自称辛党らしいが、私から見ればこいつは十分甘党だと思う。
 しかし同棲して二年くらいは経つが、ここまでとは思わなかった。

「なんだよ、欲しいなら自分のを飲め、さぁグイっと」
「私は猫舌なの、ちびちび飲むのが好きなの」

 この前は不覚を取った。
 まさか飲んでる最中にマグカップを持ち上げられるとは。
 おかげで、顔面白濁液だらけにされてしまった。
 もう私、お嫁にいけない。
「よし、これで俺のところに来るしかないな」
 そんな私に対し、こいつはいたずらっ子のような顔で微笑んで、そうほざいた。 
 まぁ、それはそれで結構嬉しかったので、十発は殴るところを、三発蹴っただけで許してあげた。
 
「大丈夫、もうしないから。いやマジで」
「ダチョウ倶楽部が好きな人間にそんなこと言われてもねぇ……」

 信じられませんから。
 お、なんかムッとしたみたいだ。

「よし分かった。俺の言うことは信じないんだな」
「結婚しよう、とか?」

 一瞬動きが止まった。まぁとにかく、と気まずそうに言う。

「ずーっとそばにいるよ。少なくとも、お前が作る、これがさめないくらいの距離にはな」

71 名前:No.24 ホットミルクの冷めない距離に(3/3) ◇.ohXkT36yY[] 投稿日:07/02/18(日) 11:48:49 ID:V50whKxg
 足が熱い。
 じりじりじりじり足を焼く痛みに助けられ、私の意識は覚醒していく。
 夢と同じ部屋。コタツの中。上にはミルクが。
 そして、私は、一人だけ。

「……あー、夢ね」
 
 まだ向こうが現実のような感覚は残るが、次第に急速にそれが薄れていく。
 あぁ、アイツの夢は久しぶりに見たなぁ。
 夢でも会えて嬉しいなんて、私は一体いつの時代の女だ。
 今の時代、男に文句の一つでも言ってやれるのが女ってもんだ。

「私は、文句、いっぱいあるぞ。」

 全く、気まぐれで帰り道なんか変えんなよ。
 左右、よく見ろよ。
 あの車、酔っ払いが運転してんだぞ。
 マグカップが一つ、いらなくなっちゃったじゃないか。
 
 引越しを勧める人もいたが、私はまだここに住んでいる。
 辛いのはあいつがいないことだけで、思い出が辛いわけじゃないから。
 大丈夫と、最近ようやく言える。
 ようやく、本当に、頑張って。それでやっと、だ。
 こうやって、会えるときもあるのだけれど。

「遠いよねぇ。うん。遠いよねぇ」 

 手を伸ばし、カップを掴む。
 どうやら、牛乳は、冷めてしまったみたいだ。





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