【 勇壮な歌をうたおう! 】
◆s9L9GMsNTk




84 名前:No.22 勇壮な歌をうたおう! (1/4) ◇s9L9GMsNTk [] 投稿日:07/02/11(日) 23:32:18 ID:bq2pvqJO
 春の日差しもうららかに、のんびりまったり時間が過ぎてゆくような。
そんなとぉ〜〜〜っても、平和な平和な村がありました。
 村人たちは、農業や家事に勤しみ、夜になればぱぁっと騒ぎ、寝る。
 そうして一日が過ぎてゆく。

 しかし、そんな村にも心配事がありました。それは――
がぃんがぃんがぃんがぃんがぃん!!
 けたたましく鳴る鐘の音。それは村の外れにある、半鐘の音でした。
「てぇーへんだぁー! まものが来るぞぉー!」
 若い男ががなりたてます。
 そうです。この村は、常に外敵から襲われる危険があったのです。
ぐるああああああああぁぁぁぁっ!!
 巨大な咆哮が、村の奥まで響いてきます。こいつは凄く強そうです。
 しかし、村人たちの対応は冷静でした。避難所に「おかしも」を守りつつ
集まり、待機します。
 なぜ、こんなにも冷静なのでしょうか。これから村が蹂躙されるかもしれないのに。
 でもそれには、きちんとした理由がありました。
 それは、彼が、いるから。
「シンガさぁーん!! 頼みましたよぉぉ!」
「まっかせろぉぉぉぉぉぉ!!」
 若者の呼びかけに応え、現れたのは、身長の倍はありそうな大剣を携えた、
燃えるような赤髪の戦士でした。彼の名はシンガ。この村の、守り人です。
彼は自信たっぷりにまものを見据え、剣を構えます。
 しかし、相手のまものは、5〜6メートルはありそうな巨大なドラゴンでした。
まず、人間が戦って勝つことなど無理です。鋭いつめに引き裂かれ、火の息で焼き尽くされるのがオチです。
 だけども、彼には特殊な能力がありました。
「おっれーは♪ 強いぞ♪」

85 名前:No.22 勇壮な歌をうたおう! (2/4) ◇s9L9GMsNTk [] 投稿日:07/02/11(日) 23:33:36 ID:bq2pvqJO
 シンガはなにを血迷ったのか、その場で歌を歌い始めました。しかもかなり傲慢です。
そんな彼に向かって、何故か村人たちも「強いぞっ!」などと合いの手を打っています。
すると、シンガの身体が、めこめこと音を立てながら盛り上がっていきます。
 そうです。彼の能力とは、「歌を歌えば強くなる」というものでした。彼の職業は『歌唱戦士』。
その極意は、ずばり思い込む事。思い込みの力で、彼はパワーアップしているのです。
 そして、戦闘力が倍率ドン! 更に倍になったシンガは、歌を歌いながらドラゴンに向かっていきました。
があああああああ!!
 ドラゴンは口から、強烈な火炎吐息をシンガに向かって放ちました。直撃すれば命はありません。
「おっれーは! 強い! (強い!)」
 シンガは、恐ろしいまでの瞬発力で地をけり、火炎吐息を避けます。背後で、大爆発。
「強すぎて! やんなっちゃう! (痺れるぜ!)」
 そしてそのままドラゴンの懐に入ると、大剣を横に一閃しました。しかしドラゴンは、後ろに飛んで回避。
ぎゃあああああす!!
 ドラゴンはその勢いのまま、シンガにつめを振り下ろしました。それをシンガは、大剣で受ける。
「電光! 一閃! 烈風! (電光一閃烈風!)」
 シンガは歌いながら、つめを叩き斬りました。ドラゴンは叫びを上げ、後ろに仰け反りました。
「ドラゴン! 退治は! オシマイだっ! (フィニッシュ!)」
どしゅっ
 シンガが振り上げた大剣は、きれいにドラゴンの首を刈っていました。胴から離れた首が、
くるくると宙を舞い、どちゃっと地面に落ちました。瞬間、体のほうも地面に崩れ落ちました。
 シンガの、勝利です。
わあああああああああっ!!
 村人達から歓声が上がりました。そして村人は、村を救った英雄を褒め、たたえました。
 かくしてこの村は、また英雄シンガによって救われたのでした。

86 名前:No.22 勇壮な歌をうたおう! (3/4) ◇s9L9GMsNTk [] 投稿日:07/02/11(日) 23:34:02 ID:bq2pvqJO

 そして数週間がたちました。
 いつものように、平和な日々。あの時倒したドラゴンも、もう村人達の血肉になりました。
 そんな、平和な日々。しかしそれも、長くは続かない。

がぃんがぃんがぃんがぃんがぃん!!
 あの時と同じ半鐘の音が、村中に響き渡りました。そして皆、いつものように避難します。
そして、いつものように英雄シンガを呼んで――

GRUUUUUUUUAAAAAAAA!!!!

 ……なんだか、いつもと違います。咆哮が、英語ちっくです。
ずしゃん……ずしゃん……
 現れたドラゴンは、大きさが前に来たドラゴンの倍、いや、三倍はありました。
それでも、シンガは現れました。そしていつものように、ドラゴンと対峙します。
 シンガはいつも通りの、自信満々な笑みを浮かべていましたが、村人達はとても心配そうです。
そしてシンガはいつものように剣を構えると、歌を歌い始めました。
「おっれーは……ぶべらっ!」
 強烈な先制攻撃。ドラゴン(大)に張り手を食らわされたシンガは、そのまま横に吹っ飛び、
地面に一度ぶつかり、反動でまた宙に浮き、くるくるきりもみしながらまた地面にぶつかり、また跳ね、
それをあと三回繰り返して、ようやく跳ねなくなり、地面を数メートル転がって、ようやく止まりました。
 シンガは、ぼろくずになりました。

 その様子を見ていた村人達は、数秒間唖然としていましたが、我に返るなりパニックに陥りました。
うわあああああああああっ!!
 村人達は我先に逃げ出し始めました。他人を押し、駆け、喋り、というか奇声を上げ、家に戻ったりしながら
逃げていきます。

87 名前:No.22 勇壮な歌をうたおう! (4/4) ◇s9L9GMsNTk [] 投稿日:07/02/11(日) 23:34:26 ID:bq2pvqJO

 そんな中、一人の少女が、ドラゴンの前に歩いてきました。彼女は、ソンといいました。
そしてソンは、ドラゴンに向かって歌を歌い始めました。
「――――♪ …………♪ 〜〜〜〜♪」
 優しく、穏やかで、どこまでも澄みきった歌声。それはまるで、子守歌のようでもありました。すると、
GUGYAAAAAAAAAAAAUUUUUU!!!
 ドラゴンは急に苦しみ始めました。口から、鼻から、目から、耳から――ありとあらゆる穴から、血を噴出して。
 そして小刻みにぶるぶる震えだすと、
ぼちゅん
 と、薄気味悪い音を立てて、ドラゴンは中から吹き飛びました。あっけなく、ドラゴン死亡。アーメン。


 その様子に気付いた村人達は、落ち着きを取り戻すと、いっせいにソンの元へ向かいました。
そして、きょとんとしているソンに向かって言いました。
「ソン。あんた、なに歌ったの?」
「え? あのぅ……眠ってもらおうと思って、子守歌を……」
 すると村人のおばさんは、ドラゴンの死骸を見つめると、少し複雑そうな顔をして言いました。

「アンタが音痴なのは知ってたけど……まさかこれほどとはねぇ……」
 
 ともあれ、歌はひとつの村を救ったのである。


終わり




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